オーディオ編


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3.高域の再生とツィータユニット

ツィータユニットに関するこの駄文を書く一番の理由は、JBL 2402Hというユニットとの長い期間に亘る確執があったからである。何故、3WAYマルチを目指している過程の中で、このユニットを選択したのか、について、その経緯からお話ししなければならない。はるか昔、当方が高校生であった頃、中学時代の級友の家にあったシステムが、JBL Olympus S8Rであった。ご存じ方も多いと思うが、S8Rは高域のユニットは075であり、ドライバーは375である。この家のOlympusは375にゴールドウィングのホーンが付けられ、Mcintoshのアンプ(確か、C-22とMC-2105だったと記憶)で駆動されていた。
今になって思えば当時としては垂涎のシステムであるが、最初に見たときは「でかいスピーカだな」位の意識しか当方には無かった。この装置で聴かせてもらったのが、ビートルズのアルバムAbbey RoadからHere Comes the Sunで始まるB面。そりゃ、もう、ぶったまげた。それまでもそこそこの音楽好きで、当時の所謂古典的「ステレオ」も聴いてはいたが、次元が全く違った。低域の厚み、輝く高域。弾けるボーカル。この時から当方の脳神経には、オーディオと云えばJBLであり、弾丸形状の075、4インチドライバ、15インチウーファが擦りこまれてしまったと云える。その後もこのシステムの音を随分と聴かせていただいたが、考えようによっては、この時期にこのようなシステムの再生音に触れることができたのはとても幸運だったし、またその後の不幸(?)の始まりだったとも云えるかも知れない。
その後社会人になると直ぐに借金してALTEC 416-8Aと802-8Dを購入し、以来20数年ボーカル系の音楽と共に付き合って来た。やがて年を経て、クラシック音楽を多く聴くようになると、ALTECのこのシステムではモーツアルトの弦が何とも楽しめない。そこで、心機一転リニューアルをしたシステムの構成、それがドライバーはJBL 2450J、ツィータが2402Hである。075と375のことは意識の底にあり、どうにも忘れようとしても忘れられなかった訳である。ツィータについてはクラシックを聴くのであれば、かなり譲歩したとしても2405を選択すべきだったと今となれば思うが、とにかく、075のあのユニットの弾丸形状である。2402Hはその形を踏襲しているのだ。正に盲目であった。そして、そこからが長い苦難の始まりであった。結果的には、偶然の出会いもあってリボンツィータに行きついた訳であるが、逆に2402Hに対する悪戦苦闘の過程で学んだことが非常に多かった。
そのエッセンスをここに纏めておきたい。(なお、苦闘の詳細に多少なりともご興味があれば、オーディオ日記をご一読されたい)

1.音楽の高域と再生の観点から「高域」を考察すると、
・10KHz以上の音圧のコントロールならびに質感が音楽の浮遊感のカギとなり、この部分の良否が心地良さに大きく影響する。
・10KHz~20KHzの帯域においては、適切なレスポンスを確保しないとこの浮遊感が出ない。
・ただし、高域の音圧を上げ過ぎは禁物。メリハリが効いて、さも良い音になったように感じるが、音楽の良さや楽しさがスポイルされることになりかねない。この辺りは倍音の再生による音楽の再現性ということになるので、あまり高域過多にすると、ぱっと聴く分にはかなり良く感じるが、結果的にバランスを欠いた音にもなってしまう。当方はリボンツィータのダブルスタックを行っていた時期もあるが、音楽を楽しむ上では、ここまでの高域エネルギーは不可欠ではなく、かえって音の固さにつながってしまう。

2.高域のユニットの選択について
・高域の質感については、非常に重要な要素であるが、単体のユニットとして、これを試聴の上で評価することは事実上無理と考えた方が良い。
・ただし、高域のユニットの選択においてはそのユニットの特徴を正確に掴むよう努力すべし(カタログ性能ではなく)
・間違ったツィータユニット選択は非常な禍根を残す。当方は過去の経験とデザインからもJBL 2402H選んでしまった。このユニットは16KHz以上のレスポンスの落ち込みが激しく、本来オーディオ用としては適切なツィータとは云えなかった。この辺りの経緯詳細は当方のオーディオ日記に詳しいので、そちらを参照されたい。
・高域ユニットをどの周波数で使うか。これは中域のユニットがどこまで使えるかに依存するが、スーパーツィータ的に使用するなら10KHzを下限として、12KHz辺りが妥当かと考える。

3.中域ユニットとのつながりについて
・2.5KHz~4KHz辺りが高域の限界となるような中域のユニットの場合と、7KHz~8KHz辺りまでカバーできるユニット(主に中域ドライバーとなると思うが)ではそもそも高域ユニットに対する考え方が異なってくる。
・2~4インチのダイヤフラムを持つドライバーユニットはカタログ公称値を信じてはいけない。10KHzを越える帯域は測定の結果大抵は、リスニングポイントでは明らかにレスポンス不足、となる。ただし、実用上10KHz以上のレスポンスが落ちていても全く2WAYでは使えない、という程でもない。もともと10KHz以上の基音を持つ楽器などなく、ソースに含まれるこの帯域も微量である。
・中域のユニットの高域特性にもよるが、中域、高域にネットワーク等を介在させ、中域ユニットの高域を落とすかどうかは、微妙なところ。7KHz~8KHzまでレスポンスを確保できるドライバーユニットであれば、基本はスーパーツィータ的にアドオンする使用法が推奨である。この場合、ユニットの能率の考慮も必要であるが、リボンツィータが有力候補となる。


高域に対する二つのアプローチは主として中域のユニットの高域特性により対応が以下の二つに分かれることとなると思う。

(1) 完全な3WAY
完全な3WAYにおいては、中域ユニットの高域を減衰させるためにデバイディングネットワーク(コイルとコンデンサの挿入)が必要となるので、その方が良いか、アドオン型スーパーツィータ方式が良いかは、ユニット構成、ユニットの再生帯域、ヒアリングによって決めることとなろう。2.5KHz~4KHz辺りが高域のクロスオーバーとなるようなユニットは原則としてこのやり方であるが。 

  (2)スーパーツィータ的なアドオン
7KHz~10KHz辺りとなるような中域ユニットの場合(おそらくはドライバーユニットが中心となるものと思うが)は、この方式も選択肢として考えられると思う。ドライバーユニットの高域にレスポンスの暴れが少なければ(部分的なピークなどがない、ということ)、基本的には中域ユニット(ドライバー)の高域を落とす必要はない、と考えている。敢えて高域のカットを行う場合でも、その減衰量は最小の-6dB/OCTにすべきである。当方の経験はドライバーユニットが中心なので、その点を踏まえてのコメントとなるが、スーパーツィータ的な利用方法においても、くれぐれも高域ユニットの「音を出し過ぎない」ことが肝要である。

当方はJBL 2402Hの高域の飼い慣らしに散々苦労した挙句、リボンツィータへの移行を行い、現在に至るが、一度はリボンツィータのダブルスタック(2段重ね)を行うなど、今となってみれば、逆に極端に高音域過多に振れてしまう時期もあった。高域は基音ではなく、ほとんどが倍音の領域であるので、その質感と量を正確に判断するのはかなり難しい、とも云えるのであるが、この部分は音楽の繊細さや漂うような浮遊感に非常に重要な帯域でもある。これをしっかりと制することが、音楽を楽しむ上でも必要条件である。ただし、「過ぎたるは及ばざるがごとし」である。確かにこれは、オーディオの高域に対しても非常な名言だと思う次第。


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