オーディオ編


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2.周波数補正の是非と三ツ山特性へのアプローチ

15インチウーファー、ホーン+ドライバーと云うスピーカー構成、ならびにマルチアンプが当方のシステムのベースとなっていることから、かなり以前よりユニットの周波数補正、ルームアコースティック調整に取り組んできた。使用してきたグラフィックイコライザ機器は以下の通りであるが、自分なりに総括・纏めを行ってみた。

Technics SH-8065   アナログ31ポイントイコライザー
Accuphase DG-28   デジタル31ポイントイコライザー
BEHRINGER DEQ2496 デジタル31ポイントイコライザー (現用機、PE機能付)
Accuphase DG-48   デジタル64ポイントイコライザー (試用のみ)

DEQ2496
BEHRINGER DEQ2496(上)とSRC2496(下)

1.周波数補正の是非
周波数補正を行う必要性は、スピーカ特性、ルームアコースティック特性の観点から必要であることは、最近かなり認知されて来たように思う。特にDG-48が登場してから、STEREO SOUND誌等でも度々ルームアコースティックの補正の観点から記事として取り上げられているし、また石井式リスニングルームの記事とも相俟ってより良い音を目指すひとつの手段として、適切な補正を行うことは避けて通れないテーマとなってきたと感じている。

(1) スピーカ特性の観点
当方はホーンを使用していることにより、必然的に当該ホーンが持つ特性に対して補正を掛ける必要があると考えている。通常であればデバイディングネットワーク回路にてこれを制御することになるが、マルチアンプではこの対応ができないので、イコライザの利用が必須となる。もちろんホーンの特性自体はメーカーにより異なるし、特性が公開されていない製品もあるが、当方の使用しているホーンはJBL 2380Aであり、メーカーから特性も公開されているので、おおまかな調整にはこのような特性データも参考にしている。

(2) ルームアコースティックの観点
部屋の音響特性、中でも低域部分については、部屋により千差万別であり、それなりの考慮を行った専用リスニングルームでもない限り、低域の補正は必須ではないか、と当方は考えている。音楽のファンダメンタルとして低域は支配力が大きく、この部分が充実していないと結果として音楽を楽しめない、ということになりかねない。また、低域の質により、それより上の帯域も変化し、音楽全体の聞こえが変わることは、まぎれもない事実である。従って、ルームアコースティックの観点から、好むと好まざるに係わらず、少なくとも500Hz以下の帯域のピーク、ディップはきちんと補正する必要がある。

(3) 積極的な音作り
イコライザの役目は単なる周波数補正にとどまらず、積極的な音作りにも一役買えると考えている。人間の耳はフレッチャーマンソン曲線が示すように、音圧と周波数により感度が変化する。オーディオについては、ある程度一定の音量で聴くことが多いので、この 自分の通常の再生音量とわが耳の感度に合わせた補正もまた、心地よく音楽を聴く上では必要なことではないかと考えている。

loudness curve
出展はこちら  

前述のSTEREO SOUND誌では「良い音の三ツ山特性」という表現も使われており、リスニングポイントでの周波数特性がフラットであれば、それで良い音がする、とはしていない。当方もいろいろな試行錯誤、経験を通じて、フラットである必要はなく、むしろ積極的な音作りが望ましいと考えている。そのためにも、グラフィックイコライザー機能、あるいはパラメトリックイコライザ機能を活用すべきであろう。

なお、自分なりの使用方法をサマリしてみると、、
・イコライザー機能で、ある程度フラットを意識した補正を行い、スピーカ特性、ルーム アコースティック特性を整える。これは云わば所謂「普遍的な音」に近づけるための準備作業的なステップであると云える。
・次に、パラメトリックイコライザー機能で「三ツ山特性」など、自分なりの好みを加え、味付けをして行く。三ツ山特性についてのチャレンジは後述する。

グラフィックイコライザによる補正内容
GEQ Setting

パラメトリックイコライザによる「三ツ山特性」
PEQ Setting

なお、少し横道に逸れるが、積極的な音作り、と云う意味では、エンハンサーという機器もあり、プロの世界においては、音作りの上で、かなり一般的な機器である。当方も廉価なものであるが、積極的に利用している。特に録音の古いものや多少の違和感があるソースについては、低域の量感や高域の輝かしさを積極的にコントール出来る観点から重宝している。音源の質はこれも千差万別なので、心地よく聴けるように工夫するのもまた一つの方法と思う。


2.イコライザの方式 アナログ VS デジタル
アナログ式のイコライザはプロ用機器の世界では多数存在しているが、オーディオ用の観点ではほとんど新しい製品は無いのが現実である。また、イコライザとしての機能の観点からもこの比較は現状では意味が薄く、デジタルに軍配を上げざるを得ないと思う。当方の経験に基づく感想であるが、以下比較整理してみた。

(1)アナログ方式のメリット、デメリット
・原理的にクリップが起こりにくく、またそれほどシビアではない。(思い切ったブーストもできる)
・アナログ音源はアナログのまま補正し、再生出来る。(当たり前ことであるがデジタルではこうはいかない)
・アナログでは各周波数のスライドバー方式が多いため、視覚的な微調整は可能であるが、厳密性と設定の再現性を欠く。
・部分的な変更の前と後の比較が難しくなる。(設定変更は非常に面倒だし、変更前の調整には厳密には戻せない)
・複数セットの異なるスピーカーの設定は同時にはできないので、サブシステムがある時には不便。
・S/Nが悪化する。
(注)S/Nは機器により当然異なるし、接続方法によっても異なる。アナログ式イコライザはプリアンプ、パワーアンプ間に挿入するのはS/Nの観点から避けた方が良く、REC OUT/TAPE MONITORの接続を推奨する。プリアンプでボリュームが絞られた信号をイコライズしようとすると、どうしてもS/Nの悪化を伴うことになるので、避けた方が無難と云うこと。

(2)デジタル方式のメリット、デメリット
・入力レベルの設定によりシビアさが必要となる。(デジタルでのクリップは絶対に避ける必要あり)
・デジタルではメモリー機能を利用して、複数パターンの設定を保持、切替が可能である機器が多く、この機能は使い勝手の観点となるが、現在では「必須」とも思える。
・S/Nの観点からはかなり安心して使用出来る。
・アナログ再生にイコライザを使用する場合、AD変換、DA変換を加えてしまうことになってしまう。

3.イコライザの使いこなし
今から新たにイコライザにチャレンジしようという方で、アナログタイプを選択されるケースは少ないと思うので、デジタルイコライザに絞って、当方なりの経験を以下に纏めてみたので、ご参考となれば幸いである。

(1)自動測定
イコライザ機器の仕様にもよるが、測定/自動補正機能が付いていることが多い。自動補正はそれを行うソフトウエアに依存することにもなるので、好みの問題もあるかもしれない。(DG-48は結構低域がFATになるような自動補正が行われる、という実感から)しかしながら、測定機能はイコライザを使いこなしていく上では必須の機能と思うので、購入の際にはこの機能が付属しているものを選択するのがベターであろう。
測定に際しては、どのような位置にスピーカを設置すれば、ピーク、ディップの少ない特性が得られるか、いろいろとポジションを変えてダイナミックに測定してみることをお薦める。また、測定ポイントもリスニングポイント一点ではなく、あちこちと測定してみて、スピーカの特性、部屋の特性を大雑把にも数値として掴んで行くことが望ましい。

また、マルチアンプシステムをチャレンジしている方は、低域、中域、高域とそれぞれのパートを個別に測定し、クロスオーバー周波数やスロープの設定、各ユニットの出力レベルの設定変更に伴って、各ユニットの周波数レスポンスや音圧がどう変化するかをしっかりと掴んだ上で、最終的にシステムとしての全体調整に進まれるのが音を纏める上でも近道だと思う。

ただし、周波数測定は決して万能ではなく、リスニングポイントの微妙なマイクセッティングでも結果は変わってくるし、前述のようにフラットな特性がベストとは限らない点に注意されたい。
また、再生音の品質については、周波数補正をしてあるから良い音のはず、と思い込むのは大きな誤りである。周波数毎の音圧分布をコントロールすることにより、一定の効果は期待できるが、それ以外の総合的なチューニングがまた良い音の再生には不可欠である。

(2)ビット数
一般的なデジタル音源は16bit/44.1KHzであるが、イコライザを通す前に、可能であればビット数とサンプリング周波数を上げておきたい。特にビット数については、周波数を0.5dB~1.0dBレベルで微妙にコントロールすることもあり、24bitで補正を行うことを強く薦める。当然96KHzや192KHzなどサンプリングレートもなるべく高くしたいところ。こうすることにより補正した音のスムーズさが16bit/44.1KHzより格段に上がり、品質的な劣化もほとんど感じなくて済む。当方は原則として24bit/96KHzへデジタルコンバージョンしてからイコライザを通すようにしている。 16bit/44.1KHzの状態でイコライズし、その後アップアンプリングを行った音よりも、かなり結果が良いと当方は感じている。論理的には説明可能な内容とは云えないと思うが。このような環境がある方は是非ともチャレンジの意味で実験をお勧めする。なお、以前に所有していたDG-28はビット数やサンプリング周波数を変更できるような構成で使用することが出来なかったため、イコライズ後の品質に満足できず、結果的に手放すこととなってしまったという経緯がある。

(3)三ツ山特性 (三ツ山の周波数とは50~60Hz、700Hz、7KHz~8KHz付近を指す)
一般論として既にお伝えしたが、周波数特性はリスニングポイントにおいてはフラットが良い、ということは決して無く、高域に向かうほど音圧が下がるような、右肩下がりの状態が自然である。厳密にフラットに調整した音は、まず聴くに堪えない状態となること請け合いである。また、この右肩ダラ下がりの中で、ある周波数を中心に三つの周波数の山が出来ている状態が好ましく、これを三ツ山特性と呼んでいる。その山は概ね50~60Hz、700Hz、7KHz~8KHzの3か所である。自然な右肩下がりの周波数特性の中に、この三ツ山特性を溶け込ませることにより、低域の充実感やボーカルのリアリティ、そして高域の透明感が実現できるのである。この辺りののセッティングとなると、スピーカとも良く対話をしながら、時間を掛けて自分の好み、感性にぴったりと寄り添うにようになるまで、急いで結果を出すのではなく、楽しんで調整するつもりが宜しかろうと思う。

当方は三ツ山特性のチューニングに際して、以下の方法でアプローチをしている。まずはイコライザ機能でピーク、ディップを潰す。ただし、この際も極端な補正はせず、多少の山谷はある程度許容する。そして、超低域(50Hz以下)、超高域(10KHz以上)があまりに補正しすぎた状態にならぬ様、個々のユニットのレベル調整を実施する。ある程度の補正が終了したら、今度はこれにパラメトリックイコライザ機能で三ツ山特性を加えて行く。これはもう感性による感覚的な判断になるので、ひたすら音楽を聴き、気に入らぬ点があれば、大元となるイコライザ設定は変更せずに、パラメトリックイコライザのみで「なだらかな」味付けをし、気に入る状態となるまで調整を繰り返すこととなる。これには多少の時間がかかるのはやむを得ないと思うが、最終的に仕上がってくる設定は、音楽のジャンルに捉われない、普遍的でかつ、自分の好みを反映した、唯一無二の音となる。

またマルチアンプの場合は、各ユニットのクロスオーバー周波数付近のレスポンスについて、スロープ特性のセッティングによりコントロール出来るが、当方はなるべく各ユニットの得意領域の帯域に絞って使用しようと考えているため、スロープ特性は-24dB/OCTを使用している。(デジタルチャンデバだともっと急峻なスロープ特性にできるのであるが、デジタルチャンデバは別の観点からあきらめた経緯がある)スロープ特性を急峻とする場合はクロスオーバー周波数付近の音圧が下がり、音の純度は上がるのであるが、一方で押し出しが弱くなる傾向も出てくる。このような場合、スロープ特性を-12dBや-18dBとなだらかにする方法は敢えて取らず、当方はパラメトリックイコライザでこの周波数帯域を増強し、音の純度を下げずに、音のつながりや、音圧を確保しようと試みている。当方のセッティングでは低域、中域のクロスオーバー周波数を650Hzとしていることもあり、ボーカル帯域としても重要な部分でもあるし、三ツ山特性の真ん中部分でもあるので、この対応は何とか成功していると考えている。

このような設定を行うためには、周波数補正だけのグラフィックイコライザでは難しいと思うが、プロ用の機器を中心に、多くのデジタルイコライザはパラメトリックイコライザの機能もあわせて持っていることが多いので、最初からこのような機器購入の選択をするのも手と思うし、またそのような挑戦を是非とも推薦する次第である。


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