オーディオ編


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1.マルチアンプシステム

マルチアンプシについては語るべきことが多い。オーディオにある程度本腰を入れ始めたのが1975年であり、その時点からマルチアンプを指向してきた。その後、何世代かユニット、機器が交代しながら現在の構成に至っている。途中ではネットワークへの移行など紆余曲折はあったが、結局はマルチアンプへと舞い戻った。マルチアンプというとごく限られたマニアの世界とも誤解されやすいが、最近のプロ用のアクティブ型モニタースピーカ等では、マルチアンプを内蔵したモデルが結構多い。これは、マルチアンプ駆動にはクオリティ、音圧、自在な再現力、表現のコントロールなどの観点からネットワークを使用したスピーカよりアドバンテージがあることに他ならないと考えている。

マルチアンプを実践するとは、ポテンシャルを秘めたスピーカユニットに惚れこみ、永年付き合い、手間暇をかけ、ある意味でしつこく微調整、チューニングして行くこととも云えると思う。当然手間だけではなく、コストもかかる。しかし、その道程でもたらされるものは、ユニットへの愛着であり、自分だけの音作りの過程であり、目指すは「究極のマイベストサウンド」、ということになろう。
高みを目指すゆえに、ユニットの質が高いことが大前提となる。当方は当時隆盛であったALTEC(Voice of the Theaterの異名を持つユニット。このユニットの出会いはまた別途記載しようと思う)でスタートし、憧れを具体化したJBL、Electro Voiceと変遷し、最後にSONY(SUP-L11、SUP-T11)へと辿り着いた。長い長い道程であったとも思える。

現在のメインシステムのユニットならびに構成を紹介しておこう。
Pioneer PT-R9、Sony SUP-T11、SUP-L11である。
Pioneer PT-R9 SONY SUP-T11 SONY SUP-L11

Block Diagram2

マルチアンプの功罪を述べるとすれば、まずメリットとして:
・長く、しつこく遊べる。 
・いろいろといじるにはもってこい
・惚れこんだユニットをとことん飼いならす
・機械好きに向く。 完璧主義者向き?
・機器の使い回しも可能となる。
・とことん派、粘着派向き
・壺にはまったら、音は圧倒的(と考える)
・ネットワークでは到達が難しいレベルに正確にチューニング可能(0.5dB~1.0dBレベル)
・音の純度が上がる
・ユニットの能率差があってもコントロール出来る
・音楽のS/Nが上がる。 音の佇まいが静かになる。
・ここぞ、と云う時の音圧確保も可能。

デメリットとして:
・とにかく面倒くさい
・スピーカユニット選びから始めなければならない
・ユニットの選択が難しい。(単品では音は聴けないので、ギャンブルとなる部分もあり)
・可変要素が多くなるので、辛抱強く調整を行う必要がある。
・構成が大型化し、置く場所の確保が結構重要
・トータルなコストはかかる、購入計画を立てる手間もかかる
・電気代もかかる (特にA級アンプを中高域に使用)
・家族から文句が出る(そんなにアンプ要らないでしょ! と)
・音楽を「聴かず」、音を「聞く」ようになる弊害も
などなど、メリット、デメリットを結構たくさん数え上げてみた。(それほど奥が深い?)

マルチアンプの調整ポイントは簡単に云えば、以下の通りであるが、同一のユニットであっても、この設定・チューニングで音が大きく変化する。そして、これら可変要素の組み合わせとなるため、そのバリエーションは非常に大きくスウィートスポットに近づくのも結構大変である。従い、聴感だけで追いこむのは難しい面もあり、客観性の担保のためにも適切な測定機器を使用していくことが望ましいし、むしろ不可欠、と考えた方が良いかもしれない。
・音圧レベル調整
・クロスオーバー周波数
・スロープ(一般的には-12dB~-24dBであるが、デジタル化によりさらに急峻なスロープが可能)
・位相合わせ

なお、測定機器については、当方がチャレンジを始めたころに較べれば、現在ではいろいろな機器が適価にて入手出来るようになってきているので、
・リアルタイムアナライザー
・周波数、音圧測定ツール
などを有効に使えば良いであろう。特に設定に迷った時にはチューニングの初心に帰る必要もあり、聴感に頼らずに客観的に再生レスポンス・周波数特性の把握ができれば、迷路に入り込まずに済むと思う。

当方は測定機器としてDG-28やDEQ2496(DG-48は試用レベル)などを使用してきた。測定機にて、まず最初に行うことは、各ユニット毎の単体の再生周波数の測定である。これは、各ユニットの周波数と音圧分布をある程度正確に知ることが非常に重要な出発点となるからである。単体での周波数特性を実際に音を出し、測定を経て理解していき、その上で、複数のユニットの音を合成して仕上げて行くことになる。もちろんこのような方法を取らなくてもアプローチは可能と思うが、回り道をしないためにもお勧めする。また、イコライザーとの組み合わせもマルチの完成度を高めるための一つの手と考えているが、これはある程度納得のいくレベルまで追い込んでから、最後の一味、というような利用方法が宜しいかと思う。当方は結構早くからイコライザーに取り組んできており、その効能は認めつつも、これもまたいろいろと出来てしまうので、かえって調整が難しく、迷路に入り込んでしまい易い機器であると考えている。


さて、実践編として、当方が悪戦苦闘の中で、得てきた経験値(決してノウハウというほどではないが)を注意事項やガイドラインとして、以下に記載してみよう。

・そもそもチャネルデバイダの質が高くないと、いくらチューニングしてもダメ (これは経験上から出る言葉、かなり重要な要素。当方は廉価版のデバイダを導入してしまった故に、ど壺ったことあり)
・高能率のホーンを使用する場合、チャネルデバイダーの残留ノイズ、アンプの残留ノイズに留意が必要。望ましいのはGAINコントロール付きのパワーアンプ。ただし、GAINコントロールが出来る機器はAccuphaseなど限られてしまうが。チャネルデバイダーやアンプの通常の音量調節だけではこの残留ノイズは絞り切れないことが多い。
・高能率のドライバーはまた、他のユニットに対して10dB以上の差があることが多い。このため、トランス型のアッテネッターにて、高能率のドライバーのレベル合わせを行う方式もあり、当方はこれを採用している。残留ノイズも併せて抑え込むことが出来るし、ツィータとの能率合わせも容易となるが、ドライバーをダイレクトに駆動する、と云う観点からはちょっと悩ましい点でもある。
・微調整は0.5dBステップ単位にデバイダーで実施するが、この差はリスニングポイントに置いたマイクロフォン、測定機では差としては現れにくい。(機械も万全ではない、ということ)
・高域ユニット(受け持ちを9,000~10,000Hz以上と想定する場合)については、この部分に専用アンプを用意し、3WAYとする必要性は無いと感じている。スーパーツィータ的なアドオン感覚で充分。(音源に含まれる帯域、再生周波数分布の観点から。ただし、4KHz前後の高域クロスオーバーの場合は、この方法は該当しないが)
・従って、15インチウーファと1~2インチクラスのドライバーとの組み合わせでは完全な3WAY構成は必須ではない、と云うのが、当方のたどり着いた結論。(このようなスーパーツィータ的な高域ユニットの使い方は最近のJBLのホーンシステムの構成でもかなり多用されている)

最近ではデジタルのチャネルデバイダがあるが、これも得失があるので、記載しておく。
・チャネルデバイダーは普通プリとパワーの間に入れるのであるが、デジタルの場合はこの構成、利用方法ではダメ、というのが当方の結論。これはプリ側で音量を絞った信号をデバイダーに送り込むことになるため、信号レベルが低くなってしまい、AD変換でS/Nを含め質的にかなりの不利が生じることによる。また、CDなどのデジタルソースの場合、再度のAD/DA変換が必要となるのもお勧めできない理由となる。
・本来ソースがデジタルであれば、デジタルのまま分割して出力するのがベターであるが、DACが複数セット必要となる。(複数台のデジタルアンプを導入し対応しているケースもあるようだが) 
・更に問題となるのは、音量制御である。これは左右2CHだけでなはく、2WAYであれば低域、高域の4チャネル分が同時に音量調節出来なくてはならない。このような音量調節出来る機器は限られており、機器構成上の制約がかなり多くなってしまう。
・デジタル信号のまま音量調整が可能なユニークな製品もあるが、試してはいない。Accuphase社ではDC-330 からDF-45上の音量をコントロールした上でのDA変換を可能としているが、これはかなり特殊な構成と云える。
・ただしデジタルであれば、タイムアライメントを物理的な位置関係ではなく、デジタル領域(DELAY)にて管理ができるアドバンテージがある。(タイムアライメントの調整となると、普通はユニットの前後位置を距離で入力し、その分DELAYをかけるなどの方法となるが、単純な音圧測定器だけでは結果の評価や調整が難しく、ハードルは高い。当方はDF-35がデジタルチャネルデバイダーの新製品として出てきた時点で、プリとパワー間にデジタルチャネルデバイダを入れる方式にてトライしてみた。ただし、前述のように、この構成では上手く行かず挫折してしまった)


最後にアドバイスであるが、
・自分の好み、好き嫌いに忠実に、自分の耳を信じることが肝要。(測定は必要だが、結果だけで惑わされない)
・測定で音のクオリティが測れる訳ではない。(音圧は測定できるが、これはクオリティとは無縁) 
・ボーカル(人の声)を聴いて評価・判断するのがベター。
・高域のユニットには低すぎるクロスオーバー周波数での入力をしない。くれぐれも無理をさせないように。
・試行錯誤中にツィータには過大入力を行わないよう厳重注意。(上記を含め、ユニットを飛ばしてしまうケースままあり、高いツケを払うことになってしまう)

趣味としてオーディオととことん付き合う気であれば、マルチアンプへのチャレンジを是非とも薦める。ある程度チューニングが進めば音のクオリティはどんどん高まり、既製品では得られない自分だけの「究極のマイベストサウンド」が実現したと確信した時は、それは大きな喜びをもたらしてくれるからである。


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