米国における同性愛教育ガイドライン


 先日、ニューヨーク大学の教育学大学院でヒューマンセクシュアリティを専攻していた鍛冶良実さんという方の書かれた「同性愛についての基本理解」というニュースレターが手に入りました。なかなか興味深い内容で、転載の許可も得ることができたので、その一部をここに紹介したいと思います。


アメリカにおける同性愛教育ガイドライン
               
同性愛と異性愛は、右利きの人と左利きの人がいることによく例えられるように、本人の選択ではなく生まれつきのものであり、同性愛は罪でも病気でも異常でもなく人間の正常な性の在り方のバリエーションであるという考え方は、アメリカでは、保守派の一部を除く、ヒューマンセクシュアリティ教育界の常識となっているが、日本の性教育界ではまだ取り上げることが少ないように思われる。アメリカにおける性教育界の中心的組織である全米性教育情報協議会 (Sexuality  Information and Education Council of US/SIECUS) は、今年4月、初めて全米規模での総合的性教育ガイドライン (Guidelines for Comprehensive Sexuality Education) を発表した。これは、幼稚園から高校までを4段階に分け、それぞれの発達段階によって、総合的性教育の主要6単元(発達・人間関係・対人技能・性行動・健康・社会と文化)の36項目についてそれぞれどの段階で何を教えるべきかを示したガイドラインである。このガイドラインの中で、同性愛については、「発達」の単元の中で、生殖器のしくみ・生殖・思春期・ボディイメージと共に5つの項目の一つ、「セクシュアルアイデンティティーと性的指向」として取り上げられている。このガイドラインの内容は、日米の文化・社会的違いは多少あるものの、同性愛について基本的にふまえておくべきことを網羅していると思われるので、ここで紹介する。                                

レベル1(小学校低学年)
@みんな男の子か女の子として生まれる
A男の子、女の子は成人して男と女になる                   
B多数の男女は異性に惹かれる異性愛者である
C少数の男女は同性に惹かれる同性愛者である 
 
                                 
レベル2(小学校高学年)
@性的指向とは、ある人が異性愛者か同性愛者か両性愛者であるかをいう
A両性愛者は男女両方に惹かれる
B性的指向の原因はわからない                       
C同性愛者、異性愛者、両性愛者は、どのような性別の人に惹かれるかという点以外は互いに変わりはない
D同性愛者、両性愛者は、その性的指向のために、不当な扱いを受けたり、
 悪口を言われたり、権利を無視されたりすることがある                
E不当な扱いをされることを恐れて、自分が同性愛者であることを認めることを恐れる人もいる
F同性愛者の愛情関係は、異性愛者の愛情関係と同様に充実したものでありえる  
Gゲイ、レズビアンも、養子を受け入れたり、自分の子供をつくったりして家族を構成できる                                 

レベル3(中学生)                         
@遺伝、母胎からの影響のような身体的な要因、社会文化的影響、心理的要因、そして
 それらのすべての要因の組み合わせなどの、性的指向の決定に関する各種理論について学ぶ
A同性愛者のカップルの性行動は異性愛者のカップルと様々な面で同じである   
B多数の若者は、一時的な同性との性経験(ファンタジー、夢も含む)をするが、主に異性に惹かれる
C少数の若者は、一時的な異性との性経験をするが、主に同性に惹かれる     
D「カミングアウト」とは、同性愛者が自分の性的指向を受け入れて、ゲイ、レズビアン
 としての誇りと力を得て、ほかの人にもそれを伝えるようになることをいう 
E否定的な反応を恐れるため、「カミングアウト」は難しいことがある      
F男女両方にいくらか魅かれることはよくあることである            
Gどの文化、社会においてもある割合の人々は同性愛者である          
H性的指向は選択できるものではない                     
I性的指向を心理療法や薬で変えることはできない               
J個人の性的指向を理解することが難しいことはよくあることである       
Kゲイ、レズビアン、バイセクシュアルであっても充実した人生を送ることができる
Lゲイ、レズビアンも一生連れ添う関係を築くことができる

                                              
レベル4(高校生)                          
@性的指向は、本人の惹かれる対象、ファンタジー、行動によって決まる     
A自分の性的指向を本人がどう理解してどうであると思うかは、一生を通じて変化する可能性がある
B自分の性的指向について質問があるティーンエージャーは、
 信頼でき、知識のある成人に相談するべきである                         
C自分の性的指向について悩んでいる若者を、両親、教師、心理・教育カウンセラー、医師、
 宗教指導者、そしてゲイ、レズビアンコミュニティセンターがサポートできることがある
Dゲイ、レズビアン・スイッチボード(※どんなサービスがどこで受けられるかに
 ついての電話での情報提供)の電話番号を教える


同性愛者サポートの必要性

ニューヨーク大学の教育学大学院には、"Lesbian, Gay and Bisexual People"  という選択コースがある。私の専修しているヒューマンセクシュアリティ専攻生のほかカウンセラー、ソーシャルワーカーなどになろうとしている人たちが、同性愛についての基本的な考え方、思春期の同性愛者の問題、成人してからの同性愛者の問題、同性愛者と家族の問題、同性愛者の老後の問題などについて、講義、豊富な文献紹介とディスカッション、ビデオの鑑賞、ゲストスピーカーなどを交えて学んでいる。これから、自分の性的指向に関して悩んでいる人、特に青少年の相談に応じ、本人のセクシュアルアイデンティティー確立を援助する働きがより必要となってくるであろう日本においても、親、教師、カウンセラー、医師、青少年レクリエーション指導者、ソーシャルワーカーなどが、同性愛についての基本的知識を得て、理解を深めるような機会が備わるべきである。                                                               
 


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