◆小渕総裁昏倒前
小沢自由党首の再三の連立離脱カードに、自民党はいつになく厳しい状況に置かれていた。
選挙を前にした与党内のごたごたは首相の求心力の低さを国民の前に露呈させることになるため、
自民党としてはどうしても避けたいシナリオであった。
一方、数で存在意義をアピールできない少数政党の自由党は、独自色を出し、常に党の存在意義を
国民に示しておかないと巨大政党の間に埋もれてしまう危険性がある。
小沢氏が幾度となくゴネたのも、そういった理由が大きいところだろう。
そんな見え見えの駆け引きの中、小渕内閣の支持率は低下の一途を辿り、民主党との低レベルの支持率
競争は俄かに緊迫してきていた。
そして自由党の離脱問題。発足時低支持率だった小渕内閣が一時的とはいえ高支持率をマークできたのは、
自・自保守連合によって保守派の支持者の受け皿を作ることができたからであり、逆を言えば自由党の連立解消は
再び同支持者層の分断を意味している。
まさに、双六で言う "振りだしに戻る" 、絶体絶命である。
◆連立解消への秘策
さらに公明党との2党による連立は、多くの宗教法人を敵に回すことを意味し、決して好ましい状況ではない。
そこで考え出されたのが自由党の分断である。小沢氏が連立離脱をした場合でも、公明党との二党連立にならない
ようにするためには、連立可能な第三の政党が必要だ。今回、小沢自由党の離脱を自民党が承認した直後、野田自治相ら
グループが新党(保守党)の結成にいち早く動いた背後には、小渕氏と野田氏の間に事前の合意があったのではないだろうか。
危機管理が薄い日本の政治家にしては、あまりにも行動が早かったためである。
いずれにしても、ゴネる小沢氏を総選挙前に切り離し、閣僚で物分りのいい野田氏を引き込むことで自民党は選挙での
失点を最小限に抑えようとしていたと考えられる。
◆新内閣発足はプラスかマイナスか
さて、失点を最小限し、(議席を減らすものの連立で過半数維持する)衆院選後は小渕首相の責任問題を追求することで
自民党総裁のポストを狙うつもりだった派閥の領袖たちだが、ここで思わぬ事態に陥ってしまった。
言わずと知れた小渕首相の脳梗塞、緊急入院である。
さすがにこれは計算外だったようで、自民党首脳は勿論、ほんの数時間前決断力のあるところを見せつけた野田氏も
おろおろするばかりであった。
結局、内閣総辞職することになったが、ここで再び浮上してきたのが衆議院解散総選挙の早期実施である。
野党からしてみれば、トップのいない自民党に揺さぶりをかけるという意味でも、また連立の組み合わせが変わることの
是非を国民に問うという大義名分の意味でも、早急に解散総選挙を実施すべきと訴えていくことだろう。
しかし筆者は早期の選挙はむしろ自民党に利する結果になると予測する。
まず第一に、小渕首相昏倒というニュースが駆け巡ったことによって、国民の多くは一時的にはしろ、自民党への不信感
を忘れてしまうためだ。政治家や警察官の不祥事も小渕氏のニュースの前には消し飛んでしまったし、また小沢氏が連立離脱
を保留するなど、保守連合の形は辛うじて保たれている。
第ニに、小渕氏への同情票もある程度予想されることである。たとえできの悪い親や子であっても、いざ命の危険に見舞わ
れればよい親、子に思えてしまうのが人情というものだ。
小渕氏がどんなに無能な首相であったとしても彼の元で一応経済成長率はプラスに転じ、またぼけたコメントを吐きは
するが和を尊ぶ人柄であることを幸か不幸か再評価する間を国民に与えてしまった。
結果として今回の事態は自民党にとってはプラスに働くだろう。
◆解散総選挙の日程
さて、ここで急浮上してくるのが衆院の解散総選挙の時期である。
筆者はズバリ、4月中旬から5月前半の解散を予測している。理由はこうだ。
まず先に述べたように、小渕氏の入院に国民の目が向いているうちに選挙をしたほうが、影の部分を隠すことができると
いうこと。
またサミット前に総選挙をし、新内閣を発足させたほうが、サミットでの日本の発言の裏づけが確保できることが上げられる。
サミット後、直ちに解散総選挙するような内閣・首相が議長となってサミットを開催しても、各国の首脳はまともに話しては
くれないだろう。
また、支持率が低下するほど自民党にとっては有利に働く昨今の選挙結果を考えると、ゴールデンウイーク前後というタイミ
ングは完璧である。普通ならブーイングがおきそうな日程だが、小渕氏の入院という不測の事態による総選挙であるから、
ある程度批判をかわすことができるだろう。
また、連休中は住民がいないことから選挙運動・投票は行わないのが政界の常識だから民主党もその期間は油断するだろう。
その虚を突いて自民党が解散総選挙に打って出る可能性は否定できない。選挙は資金・人材確保両面で事前の準備が必要であり、
その場合、野党は苦戦を強いられるだろう。
あとは、公明党の選挙準備がいつ整うかによってスケジュールは決すだろう。
ちなみに、もし仮に次の選挙で現連立与党が過半数割れをしたとしても、投票率が低かった場合、野党で議席を伸ばせるのは
昨今の選挙を見る限り共産党である。その場合、民主党がどこまで同党と連立を組めるのか、また組めずに自保(自)公政権が
誕生するのかが非常に重要な焦点になる。
しかしいずれの政権が誕生するにせよ、民主党は厳しい選択を迫られるだろう。前者は憲法論議を前面に出す鳩山氏の下では
共産党との不協和音が表面化するであろうし、後者では野党が過半数を取れたにも関わらず自民党他が政権をとったことに対する
国民の失望感を買うことになるからだ。
ヘテロクロミアさんからの感想(2000.04.08.投稿、04.13掲載)
地域経済分科会さんからの感想(2000.04.22.投稿、04.29掲載)