#482 新紙幣見ましたか?

2024/08/15

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 2024年7月3日に、約20年ぶりに全面刷新された日本銀行券(紙幣)が流通を開始して約1か月。みなさんはすでにお目にかけたであろうか。

 新たな紙幣は、日本銀行の分類ではF券というそうで、戦後発行された紙幣は、刷新される度にアルファベットが一つづつ増えていくようである。私がこうしたお札を使うようになったのはC券の頃からだろうか。10000円札と5000円札が聖徳太子で、1000円札が伊藤博文だった頃である。岩倉具視の500円札というのもあった。自宅に保存してあるそれらの券を見ると、あらためてそのデカさに驚いてしまう。

 実はC1000円券(伊藤博文)には、代案として、今回F10000円券に採用された渋沢栄一を図柄とする案もあったそうである。しかしながら、当時は偽造防止のため髭のある肖像を選ぶ方が良いということがあり、最終的には伊藤博文が選ばれたという経緯もあったらしい。

 その後1984年にD券が発行され、お札の高さがすべての券種で統一されるようになった。10000円札が福沢諭吉で、5000円札が新渡戸稲造、1000円札が夏目漱石の紙幣である。最初のうちは、青みのかかった夏目漱石のD1000円券と、同じく青みのかかった岩倉具視のC500円券をよく間違えそうになったものである。このD券は、2004年にE券が発行されるまでは現役だったわけなので、今現在三十台以上の人には馴染みがあるのではないだろうか。

 ちなみに、2000年を記念して発行された2000円札もD券に分類されている。当時はそれなりに話題になったものの、今ではあまり見かけることはないのではないだろうか。例外なのが沖縄県で、首里城の守礼門が図柄であることからか、沖縄県における2000円札の流通量は他地域に比べると群を抜いて高く、今でも沖縄県にあるATMからは2000円札が普通に出てくる

 そして2004年にE券が発行される。10000円札が福沢諭吉、5000円札が樋口一葉、1000円札が野口英世の紙幣である。D券の福沢諭吉から、肖像の「髭シバリ」がなくなり、女性が採用されるようになったほか、コピー機での再現が不可能なマイクロ文字、インキを高く盛り上げる深凹版印刷、斜めから見ると文字が浮び上がる潜像技術、斜めから見るとピンク色の模様が見えるパールインキなどの偽造防止技術が採用されている。

 このたび発行されたF券はこれらに加えて、高精細すき入れ(透かし)、3Dホログラムなどの新たな偽造防止技術が採用され、また外国人にもわかりやすいよう、アラビア数字の金額表示が大きく印刷されたデザインになっている。

 私自身は、発行から1か月たって、ようやく3種類の新紙幣をすべて見かけることができた。先日ATMでまとまったお金をおろした時は、10000円札の2割が新紙幣で出てきた。世の中の流通量も今のところそんな感じなのかとも思う。

 一方で、新紙幣の発行にあたっては、レジや券売機などの機械が新紙幣に対応できるよう、更新が必要になるわけだが、鉄道会社や大手スーパー・コンビニなどはともかく、中小規模の店舗では、こうした機械の更新料が大きな経費負担となっておりなかなか更新が進まないとも聞く。特にバスなどでは、新紙幣への対応をあきらめ、むしろ電子マネーなどに全面的に切り替えるという動きもあると聞く。

 確かに、マイナポイント等の施策や新型コロナウィルス蔓延防止などの動きもあって、現金から電子マネーへの移行の動きは今や不可逆的なものとなっており、おそらく次の紙幣刷新のタイミングでは、今ほど紙幣は流通しなくなるのではないかとの未来予測もある。それに紙幣の偽造にしても、犯罪者にとって見れば、これだけ様々な偽造防止策がなされている紙幣をあえて偽造するよりは、暗号通貨や電子マネーなどの電子的な通貨の窃盗の方が手間もかからないので、そちらの犯罪の方が主流になっていくだろうことも容易に想像がつく。

 とは言え、飲み会の精算とか冠婚葬祭の祝儀香典など、人と人との直接のコミュニケーションの場面を中心に、まだまだ紙幣の出番は健在である。そういったコミュニケーションの潤滑油として、新たな紙幣が、これから人々に親しまれる存在となっていくことを願ってやまない。


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