#463 うるう秒の行方

2023/01/12

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 うるう秒というのをご存じだろうか。たまにしか現れないので、その時に話題にはなるけど、理屈が難しいので何となく聞いたことはあるという程度の人が多いかも知れない。

 地球が太陽の周りを一周する時間が一年で、太陽に対して一回自転する時間が一日、それを86400(=60×60×24)分の一した時間が秒というのが素朴な時間の定義である。しかし地球の自転速度は一定ではないので、正確で一定であり、精度よく計測できる時間の定義が求められ、紆余曲折の末、現在では「セシウム133原子の基底状態の二つの超微細構造準位の遷移に対応する放射の周期の91億9263万1770倍の継続時間」が1秒と定められ、1958年1月1日0時0分0秒の平均太陽時を起算時としてこの原子による定義の秒が刻む時間を国際原子時とすることになった。

 このように時間の基礎である秒を定義した結果、国際原子時は地球の動きとは無関係に刻まれていく。もちろん国際原子時は、その当時の平均太陽時に合うような形で定義されたものであるが、地震や潮汐の影響などによる地球の自転の長さのわずかな変化が蓄積した結果、それに合わせる形で定められた世界時は、国際原子時から少しずつずれてきてしまった。このため、その時々の平均世界時に近い協定世界時を定め、国際原子時とのずれを整数秒としつつ、世界時との差を0.9秒以内に抑えるために挿入(または削除)される秒のことをうるう秒と呼ぶのである。

 世界時と原子時とのずれの進み方が一様でないために、うるう秒のタイミングは前もってはわからない。うるう秒が導入された1972年以降しばらくは、ほぼ毎年1回、1秒が挿入される形で続いていたが、2000年以降は数年に一度のペースになってきている。

 ところで、インターネットが普及し、様々なシステムが正確な時間をもとにそれぞれ連携しながら稼働している現代においては、うるう秒というイレギュラーな秒が不定期に挿入されることでいろいろと問題が起きるようになった。2012年や2017年のうるう秒挿入の際には通信サービスや交通システムで実際に障害を引き起こしたことがあったようである。

 実際のところ、過去実施されたうるう秒はすべて、地球の自転が遅くなることによって生じる「秒を挿入」する方法で行われてきた。しかしここ最近は、地球の自転が国際原子時で定めたものに近いものになってきて、更にそれよりも速くなる傾向を見せている。この傾向が続くと、それまで一度も行われたことのない「秒の削除」という形でのうるう秒が実施される可能性があるが、秒の挿入でも問題が生じていたところ、秒の削除が行われた場合に何が起こるかは経験がないことなので予想がつかない。Y2Kの時もそうだが、時の処理はこの情報化社会にあっては誠に鬼門なのである。

 このため、FacebookやInstagramを運営するMetaをはじめ、いくつかの企業などからはうるう秒を廃止してほしいという声があり、先日フランスで行われた国際度量衡総会における投票の結果、うるう秒の挿入を2035年までに廃止することとしたようである。それまでの間は引き続き調整が行われることになるが、許容されるずれの大きさを、1秒よりも緩和するかどうかを2026年までに決めるということのようである。

 確かに実際のところ、いつの間にか1秒増えていようが減っていようが、人間が意識することはほとんどない一方で、そのことがもとで様々なシステムが影響を受けるというのであれば、科学的に厳密であるよりも社会的にリスクを減らした方がいいというのは理解できるところもある。

 それにしても、日本では行われていないので実感はないが、夏の期間に時計を1時間早めるDST(Daylight Saving Time)も、よく毎年2回も混乱せずやっているよなあと思う。実際にはいろいろ混乱してたり、うっかり1時間遅刻しました/早く来ましたという個人的なトラブルはあちこちで起きている気がするが、これもやはり導入している欧米各国で廃止しようという議論が起きつつも、きっぱり止めるというところにはなかなか至らないもののようである。時の積み重ねによる長年の慣習というのは、時の問題であっても(あるからこそ?)なかなか変えられないものらしい。


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