#423 消費税増税狂想曲

2019/09/13

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 野田政権の時から近々実施すると言われていた消費税増税は、安倍政権となって以降、何だかんだと理由をつけて先延ばしされていたところだが、いよいよ今年10月に、現行の8%から10%に引き上げられる運びとなった。この増税が経済に与える影響云々はこの雑文の範疇を超えるので、一消費者として思うところをまとめておくことにする。

 3%に始まり、5%、8%と増やされてきた消費税であるが、今回10%に再増税されるにあたって、これまでと大きく異なることが2つある。一つは、飲食料品や新聞のみ税率を8%に据え置かれる軽減税率が導入されること、もう一つは、増税後の消費の冷え込みを抑えるためとキャッシュレス化を推進するために、キャッシュレス・消費者還元事業が行われることである。

 軽減税率については、基本的に「食品表示法に規定する食品」のうち、酒税法に規定する酒類を除くとされている。このため、酒類に分類される「みりん」は10%で「みりん風調味料」は8%、食品にならない水道水が10%でミネラルウォーターが8%、医薬部外品であるリポビタンDが10%でオロナミンCが8%という、わかりにくいことになっている。

 さらに外食が軽減税率の適用外とされたため、テイクアウトとイートインの両方を扱うファストフード店などで、対応が分かれることになった。牛丼チェーンで言えば「すき家」と「松屋」は店内飲食と持ち帰りの税込み価格を統一することにしたのに対し、「吉野家」は「店内10%、持ち帰り8%」とするようである。

 コンビニやスーパーなどで、イートインスペースがある場合は、購入者が意思表示をした場合に10%の税率を適用する、と対応するようだが、わざわざ税率が上がるのに自己申告する人がどれだけいるのか疑問なしとしない。ちなみにカラオケボックスでの飲食は10%、映画館の売店で買ったものを映画館の座席で飲食する場合は8%となるそうである。

 軽減税率の対象には新聞も含まれる。これだけややこしく問題を引き起こしそうな軽減税率が、新聞などで大きく取り上げられないのは、当の新聞が軽減税率の対象となったからであるとの噂もある。もっとも、新聞の場合でも定期購読される紙の新聞だけが軽減税率の対象で、駅やコンビニ等で売られているものや電子版の新聞などは10%の税率となるようである。

 もう一つ、キャッシュレス・消費者還元事業というのは、消費税率引き上げ後の9か月(2020年6月まで)に限り、中小・小規模事業者によるキャッシュレス手段を使ったポイント還元を支援する事業ということで、消費者庁が進めている政策である。これに参加する事業者は、消費者庁の該当ページにある「登録加盟店一覧はこちら」というところで参照できるが、中身は固定店舗23万店あまり、楽天市場やYahoo!ショッピングそれぞれ2万店あまりの対象店舗をずらりと表にした約30Mbyte、6360ページに及ぶPDFファイル(9月6日更新現在)だったりする。9月中下旬には、地図上に対象店舗を表示するウェブ機能やアプリを公表予定というが、そういったものがないととてもじゃないが探そうという気にならない。

 現在、こうした複雑な決済に対応する機械が急ピッチで生産納品されているそうだが、需要に供給が追い付かず、一部は増税が施行される10月に間に合わない状況であるという。いずれにせよしばらくはいろんな現場で混乱が予想される気がする。

 そう言った状況の中で、一消費者としてはどういう立場で臨めばいいのかというと、特に何もしなくていいのではないかというのが私の考えである。交通機関の回数券や定期券、書籍やたばこなど、基本的に価格が決まっているものに関しては、増税前に買えるものは買っておけばよかろうとは思うが、その他多くの商品の実勢価格は需要と供給のバランスで決まるものであるし、その振れ幅は、時に増税分の2%をはるかに上回る場合も多い。前回5%から8%に消費税率が上がった時も、増税前の駆け込み需要とその後の需要の落ち込みの結果、家電や住宅と言った消費税が高額になるものでさえ、かえって増税後の方が割安になったというようなこともあった。従って、無理に増税前に駆け込みで購入するのが必ずしも有利な戦略とは言えない。

 また、ポイント還元の多寡で自分の消費行動を規定してしまうのも、本末転倒な話である。たとえ何とかPayが○%還元してくれると言っても、自分に必要なものでなければ、一番お得なのは結局「買わない」という選択である。自分の中での価値観をしっかりと持ち、「安いから買う」のではなく「必要になったら買う」という態度でいれば、心穏やかに過ごせるというものではないだろうか。

 一番の問題は、本当に皆がそういう考え方になってしまうと、消費がますます冷え込んでしまうということかも知れないけれど。


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