#397 パリとドバイと東京の地下鉄事情

2017/07/12

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 このたび出張でパリとドバイに行く機会があったので、両方の地下鉄事情を紹介しながら、東京の地下鉄事情についても振り返ってみたい。

 パリではメトロ(地下鉄)とトラムとバス、それとRER(パリ高速鉄道)をRATP(パリ市交通公団)が運営しており、その料金はゾーン制になっている。パリ市内はゾーン1と呼ばれ、そのゾーン内であれば1.90EURのチケット(ビエ)で乗り換え自由で移動できる。その外側に向けてゾーン2からゾーン5まで区分されており、シャルル・ド・ゴール国際空港は一番外側のゾーン5になる。空港からパリ市内への片道切符は10EURになる。ちなみにゾーン1内の切符10枚組はカルネと呼ばれ、14.50EURで買える。

 切符は有人のカウンターのほか、自動販売機でも買えるのだが、通常この自動販売機は、硬貨やクレジットカードは使えても、紙幣は使えないことが多い。持ち合わせの硬貨がない時は、クレジットカードで買うのが結局は一番早かったりする。シャルル・ド・ゴール国際空港からパリ市街に行くには、RERのB線に乗ってだいたい40分くらいである。

 市街まで来れば、同じ切符で任意の路線にそのまま乗り継ぎできる。日本の自動改札と同様、切符を入れると改札されて切符が吐き出される。ちなみに受取口は投入口と同じくゲートの手前にある。切符を受け取るとゲートが開き改札を通れるという仕組みである。ちなみにパリ市街のメトロから出る際には改札機はなく、切符は回収されない(空港の場合は改札機がある)。乗るときに所定の運賃の切符を買っていないと、日本のように降車駅で不足金額を清算する仕組みがないので、見つかった場合は正規の料金のほかに高額な罰金を取られる。

 電車を使って空港と市街を往復するだけでも20EURかかるので、場合によっては、ナヴィゴ・デクーヴェルトを使うと、割安で便利かも知れない。これは非居住者用の非接触型カードパスで、作る際に25×30mmの顔写真と発行手数料5EURが必要になるが、作ってしまうと、22.15EURのチャージで、空港を含む全ゾーンの鉄道やバスを1週間乗り放題になる。ただし有効になるのはチャージした時点からの任意の1週間ではなく、月曜0時から日曜24時までと決まっている。滞在期間がうまくこの期間に入り、滞在中メトロやRERを縦横無尽に使うつもりがあれば、いちいち切符を買う手間も省けて便利である。

 パリのメトロは歴史がある分、いろいろと古臭い部分も多い。ドアはボタンを押さないと開かないものもある。アナウンスも全くと言っていいほどないし、車内にも電光掲示なんてものはない。同じ駅での乗り換えルートも複雑怪奇で、時に結構歩かされるし、バリアフリーでもない。たまにストや工事に遭遇して、目当ての路線に乗れなかったり、目当ての駅で乗り降りできないこともある。ただし、そういった点を除けば、駅名表示や乗り換えの表示はわかりやすいし、パリ市内であれば縦横に走っているので、どこに行くにも便利に利用できる。

 一方、ドバイにも21世紀になってドバイメトロと呼ばれる鉄道網ができあがった。今のところ2線しかないが、空港と直結しており、早朝から深夜まで営業している。車体は新しくて、次の駅を示す電光掲示などもあり、英語とアラビア語のアナウンスもあってわかりやすい。何より空調がばっちり効いているので、夜でも30度を下らないドバイ市内での移動には大変重宝する。私は夜遅くに利用したのだが、23時を過ぎても大変な混雑であった。

 ドバイメトロもゾーン制を取っており、こちらは跨いだゾーンの数で料金が決まる。空港から市街までは2ゾーン分で、片道8AEDであった(2017年7月現在で1AEDは約30円)。観光客には22AEDの一日券が便利かも知れない。

 そんなわけで、帰国して毎日通勤に使っている東京の地下鉄を改めて振り返ってみると、駅間距離で細かく金額が決まっているというのは、フェアなのかも知れないが、いちいち料金の確認が必要であるので、旅行者にとっては煩雑でわかりにくいかも知れない。料金が不足していても清算するためのシステムがちゃんと整っているから、問題になることはあまりないのかも知れないが。

 英語のアナウンスのある車両もまだ完備はされていないし、その割に日本語のアナウンスはこれでもかというくらいたくさんある。日本語が不自由な外国人だと、意味がわからないアナウンスがこれだけ大量にあるというのは、何か重大なことが起きているのではないかとかえって不安になりはしないだろうか。

 何より旅行者にとって厄介なのは、東京メトロと東京都営地下鉄が併存し、料金もそれぞれ別体系であることだろう。初めて利用する人は外国人に限らず日本人であっても混乱するに違いない。合併を目指した努力も続けられていると聞くが、過去の経緯もあって実現には至っていない。しかし東京オリンピック・パラリンピックまであと3年に迫った今、この問題をどうにかするのは喫緊の課題ではないかと思うのだが。


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