#386 ポケモンGO狂想曲

2016/08/16

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 米国ほかで7月6日にリリースされるや否や、爆発的に流行した「ポケモンGO」は、日本では話題が先行する形でリリースされる前から盛り上がりを見せ、小中学校が夏休みに入った直後の7月22日にリリースされた。早速公園や繁華街では、スマートフォンを片手に練り歩く人々であふれかえり、文字通り街の景色を一変させた感がある。

 ネットのみならず、各雑誌や新聞においてもポケモンGOを特集した記事が組まれ、そのキャラクターを生み出した任天堂の株価が急騰し、会社自ら「実はそんなに利益はあがっていない」とIRするに及んだり、日本でのリリースに先立ち内閣府サイバーセキュリティーセンターから注意喚起の文書が出たりするなど、様々な社会現象を巻き起こしている状況である。

 ポケモンGOは、ナイアンティックという会社が、もともと展開していた「Ingress」というスマホの位置情報取得機能を使ったヴァーチャルな「陣取りゲーム」をベースにして作ったものである。街中に仮想の「ポケモン」を出現させ、それをゲットしたり、ジムで戦わせたり、あるいは卵から孵化させたりというようなことをする。と、したり顔で説明している私は実はポケモンGOをやっていないし、そもそもあまり興味もないという次第なので、そんな私が上のように説明してもちっとも面白そうに聞こえないのも無理はない。

 主人公がモンスターボールを使ってポケモンをゲットするという物語世界を、スマホのカメラや位置情報取得機能を使って、拡張現実世界にうまく再現しているということと、金銭的な負担をそれほどかけなくても「足」を使った分だけ楽しめるということ、さらには、大人から子どもまで知名度が高いキャラクターをベースにしており、多くの人が参加することで、レベルをどこまで上げたとか、どんなポケモンを見つけたとかいう情報交換をすることでソーシャルネットワーキング的な役割も果たしていることが、これだけ流行している理由なのではないかと思われる。

 こういったネット上の俄かな流行物に対してありがちな反応なのであるが、テレビや新聞などのメディアによる報じられ方は、ややネガティブなものに偏っている気がする。曰く、ポケモンGOをやっている人たちが群れていて迷惑しているとか、夜の公園から出られなくなったとか、海外では崖から落ちたとか不法侵入で撃たれて殺されたとか、そういったニュースが目立つ。とは言え、ポケモンGOをやっていなくても崖から落ちたり撃たれて殺されたりする事件はあるわけなので、こうした事件をポケモンGOに関連して報じるのは、ややもすると大衆に対する印象操作のように見えないこともない。

 私はと言えば、ポケモンGOそのものに対しては肯定派でも否定派でもないし、そんなことを言うのも変な話であるように思う。ゲームというくくりで言えば、囲碁や将棋やオセロに対して肯定とか否定とか言うのが変な話であるのと同じである。娯楽や競技の一つとして、それに熱中できる人にとっては幸せなことだし、興味がないからと言って変な目で見られるような筋のものでもない。

 もちろん、一部で極度の依存や浪費が問題になっているようなパチンコとか一部のソーシャルゲームのようなものには何らかの規制が必要だとも思うが、ポケモンGOの場合はそこまで課金しなくても足で楽しめるようなものであるようだから、むしろ家の中にひきこもってゲームをしているよりは健康的ではないかという意見もある。

 ポケモンGOに対してあまりいい印象を持っていない人がいるとすれば、それはポケモンGOそのものに対してではなく、それに夢中になって回りが見えていない人たちに対する負の感情なのではないかとも思う。それを言ったら、街中で人目をはばからずいちゃいちゃしているカップルや、スマホで音楽やSNSに興じている人たちもいるわけなので、別に今に始まったことでもない。そういう人たちが俄かにそこかしこに大量に発生したことに対する戸惑いはあるにしても。

 巷では、ポケモンGOを利用して集客を目論む観光施設や商業施設があったり、反対に、目的に反して集まってくるポケモントレーナーを排除したいと考える宗教的施設や公共施設等もあったりする。いずれにせよ、ヴァーチャルなゲームがリアルな世界に大きな影響を及ぼしているという意味で、エポックメイキングなゲームであるには違いない。だからこそ、これまでにない規模で、リアルな世界との衝突や軋轢を生じることも後を絶たないわけである。ポケモントレーナー各位におかれては、プレイ中はリアルな世界における自分自身の安全や、自分の立ち振る舞いが迷惑行為になっていないかどうかなど、十分留意されながら楽しんでいただければと思う次第である。


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