#289 電子書籍は便利か不便か

2008/09/02

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 ここ1年半ほどの間、英語の勉強のために、NHKラジオの外国語講座を欠かさず聴いている。NHKの外国語講座は、レベルや言語に応じて実に様々なプログラムが用意されているのだが、テキストはどれも月数百円程度で全国の書店で販売されているから、本人に続ける根気さえあれば、非常にコストパフォーマンスに優れた語学学習の方法として、古くから親しまれている。私も中学生になって英語を勉強するようになって以来、いろんなプログラムを断続的に聴いてきている。

 このNHKラジオの外国語講座について、最近、一部のプログラムのテキストを対象に、dテキストという電子書籍での提供を始めるようになった。

 外国語講座のテキストは、値段もボリュームも手ごろではあるが、それでも1年分もたまると結構場所塞ぎになってくる。過去のテキストを捨てずに残しておくと、どんどん溜まる一方であるし、放送が終わってしまうと過去のものはあまり開かなくなってしまうのも事実だが、かと言って捨てるのもなんとなく気遅れしてしまう。

 電子書籍であるならば、少なくとも書棚の物理的なスペースは占拠しない。HDDの容量を多少消費すると言っても、昨今の大容量HDDからすれば微々たるものである。もちろん電子書籍なので、それを閲覧するにはPCなどの道具が必要という制限があるが、私の場合、ラジオを聞くのはほとんどの場合自宅の部屋のPCの前なので、その制限はほとんど気にならない。ついでに言うと、電子書籍版の方が紙のテキストよりも若干安い。

 そんなわけで、今年の4月に新年度の講座が始まったのをきっかけに、dテキストを買うことにしてみた。dテキストはいくつかの会社から提供されているようだが、基本的に購入の仕組みはどこでもほぼ同じようである。初回利用時に、決済のための情報などをを入力してIDを得る必要があるが、それさえ済んでしまえば、必要な書籍を選んでカートに入れて、ボタンを押せばダウンロード画面が出てくるので、自分のパソコンにダウンロードすればよい。

 外国語講座のテキストだと、数Mbyteくらいの大きさであるから、ブロードバンド環境であればダウンロードに要する時間はさほどのものでもないし、書店に行く手間も省けて便利には違いない。内容はもちろん紙のテキストと同じであるが、dテキストの方は基本的にテキスト部分のみで、広告や関連記事などは省かれている。また、紙のテキストは前月の14日くらいには発売されているが、dテキストはそれよりも遅く、前月の最終木曜くらいにようやく提供される。

 私が利用したパピレスというサービスから提供されているdテキストは、KeyringPDFという形式で提供されている。これはPDFに著作権保護機能を持たせているもので、開くときにはインターネット経由で通信を行い利用ライセンスを確認するようになっている。(従って、インターネットに接続されていないPCでは開くことができない。)

 このKeyringPDFというもの、基本的な操作はPDFと同じで、見開き表示にして見れば紙のテキストと同様に見ることができる。必要に応じて拡大もできるし、文字列を検索したり、埋め込まれたリンクを使って目次から本文にジャンプしたり、練習問題のページから解答のページに飛んだりすることができたりするのは便利である。

 ただし、著作権保護の観点からか、文字列のコピーなどは禁止されているので、テキストだけを抽出することはできない。更に、閲覧するPCを限定する仕組みがあるようで、他のPCに単純にコピーしても、そこで開いて閲覧することができなくなっている。それだとPCを買いかえたりする時には開けなくなるではないかということになるが、ここのところをKeyringPDFは「バックアップ」「復元」という仕組みを使って移動を可能にしている。

 具体的には、KeyringPDFを管理する「キーリングライブラリ」というソフトがあるのだが、これを使って選択したKeyringPDFの「バックアップ」を行うと、バックアップファイルというのが作られる。これ自身は開くことができないが、コピーはいくつでも作ることができる。コピーの一つを別のPCのキーリングライブラリで「復元」すると、ライセンスの確認を行った後に、KeyringPDFが復元し開くことができる。ただし、この復元を行うと、元のKeyringPDFやそこから作ったバックアップファイル(のコピー)はすべて無効になり、以降は新たに有効になったKeyringPDFしか開けなくなるし、バックアップファイルも復元したKeyringPDFから新たに作成する必要がある。なかなか巧みな方法ではあるし、著作権保護のためにはやむを得ない技術だとは思うが、利用者にとっては面倒であることに変わりはない。

 私のようにある程度利用する場所が限定されている人にはdテキストも便利かも知れないが、いろんな場所で利用し、かつテキストにもいろいろ書き込んだりなどする人にとっては、やはり紙のテキストの方が使い勝手がいいだろう。dテキストが今後どれだけ市民権を得るかは未知数だが、利用者に選択の幅が広がるのは素直に喜ばしいことである。


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