#264 記憶の価値

2006/09/22

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 何やら文学的なタイトルをつけてしまったが、今回は記憶、すなわち情報の保存に使われる各種記憶媒体の価格について考察してみる。

 主としてパソコンで扱うデータなりプログラムなりを記憶しておくために用いられる記憶媒体は、初期のものに比べれば、非常に安価になり、また信頼性も向上した。磁気媒体が一般的でなかった頃のパンチカードや、シーケンシャルアクセスしかできなかった磁気テープなどが主に使われていた時代以降に話を限定しても、1枚何千円もした8インチの128kbyteのフロッピーディスク(FD)や、1台何十万円もした数十Mbyteのハードディスク(HD)に比べると、隔世の感がある。

 パソコンまわりで現在使われている記憶媒体は、その使われ方や記録方式で分類すると、大きく4つに分けられると思われる。

 第1に、パソコン内に固定された高速読み書き可能な「内部メモリ型」のものがある。パソコンの部品としてのメモリやCPUキャッシュなどがそれである。これらは非常に高速な読み書きを可能とし、従って容量あたりの単価は最も高価だが、パソコン本体の中に固定され特定の目的にしか利用されない。その意味では、ほかの3種の記憶媒体に比べると特殊な位置づけである。2006年9月現在では、1GbyteのDIMMが1万円くらいで売っているようだ。

 第2に、パソコン内に固定された読み書き可能な「内部ディスク型」のものがある。具体的にはHDのことで、4種の中では一般的に最も大容量である。OSやソフトウェアの進化(肥大化?)や音楽・動画など扱えるデータの多様化により、様々な技術が導入されつつ、ますます大容量のものが登場している。現在では250GbyteのIDE-HDが8千円程度で売っていたりするので、1Gbyteあたりで計算すれば40円程度の値段である。

 第3に、持ち運び・読み書き可能な「外部メモリ型」のものがある。コンパクトフラッシュ(CF)・スマートメディア(SM)・SD・miniSD・microSD・メモリースティック・xDカードや、USBメモリなどがそれである。列挙しただけでもわかるように、デジタルカメラや携帯電話などの小型電子機器の急速な普及と更新により、近年急速にさまざまな種類のものが登場し、今なおどんどん低価格化が進んでいる。2GbyteのUSBメモリが4千円くらいになってきたので、1Gbyteあたり2千円くらいになっている。

 第4に、持ち運び・読み書き可能な「外部ディスク型」のものがある。昔はFDやMOなどが一般的であったが、最近では容量や読み書きの早さで第3のものに出番を奪われ、大容量で安価だが、書き込み頻度が高くないか一度しか書き込みできないCDやDVDなどが、書き換えを必要としない恒久的なデータ保存など、用途を限定した形でこれに替わっていると思われる。複数毎を束にしたスピンドルという形態で買えば、CD-Rは1枚あたり20円、DVD-Rは1枚あたり30円で売っていたりするので、1Gbyteあたりで言えば、それぞれ約30円、7円となる。

 こうしてみると、メモリ型はディスク型の100倍くらいの値段がするものだが、それでも1Mbyte無いFDが数千円だったり、数十MbyteのHDが数十万円していた頃に比べれば、単位容量あたりの価格は桁が3〜5つくらい下がっており、ことこれら記憶媒体の価格に関しては、すごいデフレである。

 もっとも、ワープロソフトがIMEも入れてFD1枚で動いていた牧歌的な時代は過去のものとなり、記録媒体が低価格化した今では、アプリケーションもCDには収まらずDVDで供給されるようになり、またデジカメで撮影した画像1枚、MP3の音楽1曲、場合によってはワープロの文書ファイル一つもFDに収まらない時代である。皆が皆、日々大量のデータをぶん回すようになった今が、昔に比べて幸福な時代だとは、一概には言えないかも知れない。


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