#190 ADSL狂奏曲

2002/01/26

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 最近、高速回線の加入者のうち、DSL加入者がCATVのそれを上回ったらしく、昨年は名実ともにADSL元年となった。一時はパソコン雑誌の中で、ADSLの文字が入っていない物を探す方が難しいほどで、そのくらいADSLは世間に知られ、また普及する事になった。職場の近所の本屋でも、中年の客が店員に「ASDNの比較記事が載ってる雑誌を探しているのだが」なんて聞いているのを見掛ける。どうでもいいけどおっちゃん、ASDNじゃなくてADSLね。ISDNとごっちゃになってまっせ。

 ADSLがこれだけ普及したのは、その技術が、既存のアナログ回線を使って、それまでの数十kbpsの速度から数Mbpsと、桁2つほども速い回線が得られるということが大きな原因であろう。新たな設備がほとんど必要なく、また工事も比較的簡単であるため、コストも非常に安価に実現できるため、非常に投資対効果にすぐれた技術であると言える。

 だがもちろんそれだけではここまで普及はしなかったわけで、直接のきっかけは、NTTがフレッツADSLを本格的に導入したことが大きい。以前にも述べたが、もともとISDNにご執心であったNTTが、突如方針を変え、ADSLサービスを廉価・定額にて開始したことで、ADSLのサービスエリアの拡大と対応プロバイダの増加ともに加入者数は鰻登りに伸びていった。確かにモデム接続+テレホーダイよりも安くて桁2つも速い回線が手に入るのであれば、ヘビーユーザーにとって、もはやモデム接続にとどまる必要は全くない。

 ただ、NTTに煽られてISDNにしてしまった人たちがADSLに乗り換えるには、デジタル化した回線を再びアナログに戻さなくてはならないし、TAなどの機器も無駄になってしまう。これがなんとなく無駄に感じられて、ISDNから離れられないという人も多くいると思われる。

 更に昨年夏、ソフトバンクがYahooと提携して「YahooBB」という低価格ADSLサービスを開始すると発表して以来、既存のADSLサービスも軒並み価格を下げ始めた。更にプロバイダの方も、eAccessやACCAなど、ホールセールのADSL供給会社と提携して、独自の廉価ADSLサービスも平行して提供するようになってきた。一方、DIONやOCNなどの電話会社系でも、導入から一定期間は2000円を切る特別割引料金で対抗し、まさにADSL戦国時代といった様相を呈している。

 現に私の使っているフレッツADSLも、当初4100円だったものが3800円になり3100円になり2900円になり、更にマイラインプラスに加入しているため、1割引きで2610円にまでなった。プロバイダのADSLオプションも、最初950円だったものが550円になり、今では430円にまで下がった。それまで払っていたお金は何なのだという気もしないでもないが、今や3000円代でADSLが使い放題。いい時代になったものである。

 現在でも、8MbpsのADSLのサービスの中では、YahooBBが最安でのサービスを提供している。しかし、契約はしたもののいつまでたってもサービスを提供せず、いくら問い合わせても誠意のある回答をせず、諦めて退会しようにも退会手続きすらろくにやってくれないという、かつてのmsnもかくやという呆れたサポート体制に、怒り爆発という人が大勢いる。これらの噂はWeb上や、やがて雑誌などでも徐々に取り上げるようになってきており、実際に訴えを起こしたりしている人もいると聞く。私もYahooBBの話を最初に聞いたときはあまりにもうますぎる話だとは思ったが、ここまで酷いことになっているとは思わなかった。

 一方で、あまりにも加速した値下げ競争のために、各社にとってADSLはほとんど収益をもたらさない事業になりさがってしまった。各社とも値下げ競争には限界を感じ、コンテンツなどで独自色を出そうとしているが、これだけネットワークが普及してしまうと、魅力のあるサービスはものの1ヶ月くらいで模倣されてしまうという。日本のブロードバンド化というのも、実態は決して明るいニュースばかりではないのである。


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