#176 職場の引っ越し

2001/07/28

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 関東地方の梅雨が早々に明けた7月半ば、私の職場の引っ越しがあった。

 移動先は、隣接する交差点をはさんだ向こう側のビル。距離にして約300m。とは言うものの、自分の持ち物だけならいざ知らず、職場全体の引っ越しとなると、荷物の量は相当なものになる。いくら目と鼻の先のビルへの引っ越しとは言え、自分たちだけでどうにかなるものでもない。よってもちろん、荷物の移動は業者にやってもらうわけだが、その前の梱包と荷解きは自分たちの仕事になる。

 引っ越しは2段階に分けて行われる。まず、当座必要のない荷物を梱包して廊下に出しておき、休業日の週末に業者が新しいビルに運搬。その後、直前まで必要な物も含めたすべての荷物をまとめて、次の週末にやはり業者が運搬。週開けには新しいビルで業務再開というわけである。

 持って行く荷物のうち、何と言っても多いのは書類ファイルである。数えたことはないが、自分の属する課内だけでも1000は超えるであろう。それらを業者から支給された段ボールに片っ端から詰めていく。支給された段ボールは、地獄底(紙の組合せで底が抜けないような構造になっている箱)で、蓋もガムテープ不要のはめ込み式なので、梱包そのものは楽にできる。A4パイプファイルが縦に入るくらいの大きさで、いっぱいに詰めると結構な重さになる。詰めたら、新しい職場での机やロッカー毎に割り振られた番号をシールに書いて貼っておく。業者の方は、このシールをもとに荷物を新しい職場の指示された場所に運んでおいてくれるという手はずである。

 新しい職場が以前より広くなるならいいのだが、実際のところ面積は依然と大して変わらないとのことなので、これを機会に、古くなった不要なファイルはどんどん処分する。改めて見てみると、取ってあったファイルの2割くらいは捨てても構わないファイルであった。それらもやはり段ボールに詰めて、こちらは「廃棄」と書かれたシールを貼る。廃棄の箱はとりあえず地下室に積んでおいて、後日処分してもらう。地下室は各課から出てきた廃棄ファイルがいっぱいの箱で、すぐに溢れてしまう。

 ワープロやパソコンが普及して10年以上が過ぎ、書類の作成や再利用が格段に容易になったため、消費される紙の量は以前とは明らかに桁違いに多くなっている。ペーパーレスなんて言葉をどこの誰が言い出したのかは知らないが、人間の情報処理の大部分が「目」すなわち視覚処理に頼っている以上、パソコンの画面よりも一覧性に優れた「紙」で閲覧するほうが理解しやすいため、いくらパソコンやネットワークが普及しようとも、紙の消費は減るばかりか間違いなく増える一方である。そんなわけで、今までもこれからも、大量の紙を消費し廃棄しながら仕事をすることになるのだろう。熱帯雨林の木々に申し訳ないと思いながら。

 ファイルや机などの物の移動のほかに、ネットワークシステムなども当然移設する必要がある。それは私の仕事ではないのでよくわからないが、聞けば移設作業を確実に行うために、10日間すべてのネットワークを完全に停止するとのこと。従ってその間はメールもWebも使えず、職場宛に送られたメールもUser Unknownで弾かれるとのこと。ついてはそれまでに各自取引先などに停止予告メールなどを送って周知しておいてほしいとのことである。ネットワークの移設がそんなに時間のかかるものなのか、もっとほかにいい方法はないものかは知らぬが、おかげで引っ越し中の1週間はメールもWebも使えず、開店休業状態である。もっとも5年前まではメールもWebもない環境で仕事をしていたはずなのだけど、今ではすっかりメールやWebに依存した環境になっているのが恐ろしい。

 そんなこんなで、最後に机やらパソコンやらも運んでもらえる状態にして、旧ビルでの仕事を終了。週明けに新しいビルに出勤すると、机もパソコンもファイルの入った箱も無事に運び込まれている。パソコンも無事動き、移設に10日もかけたネットワークも、おかげで以前と同様に問題なく使えるようになって、いつものように業務再開である。

 ただ間抜けなことに、新しい職場で使うはずのロッカーが手違いで間に合わず、よって最初に運んだ「当座必要ない荷物」が整理できないまま未だに箱積みされた状態になっている。このままではいつまでも中身が箱から出されないまま、やがて「永遠に必要ない荷物」として忘れ去られてしまうのではないかと、やや心配である。


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