#124 変わりゆく学会発表

2000/06/30

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 他の学会の場合はよくわからないのだが、私の属している学会の場合は、およそ年に2回ほど、大会というものが開かれる。研究者はおのおのの研究について、大会の場で発表を行うと言うのが慣例である

 学会発表の前には、自分の発表する内容を手短にまとめた予稿なるものを書く。これについては以前「電子投稿は便利か?」で詳しく述べたので、今回は当日の発表の形態について述べてみる。ここ数年のパソコンやプリンタの高機能化に伴い、予稿のスタイルもさることながら、当日の発表の形態も少しずつ変化が見られるのである。

 学会当日の発表の形態は、大きく分けて口頭発表ポスター発表という2種類のうちのどちらかを発表者が選択できるようになっている。

 口頭発表では、発表者が演壇に立ち、図表などの資料を見せながら聴衆に向けて自分の研究内容を直接講演するというものである。最近では発表数もだんだん多くなり、それに伴い一人あたりの持ち時間も短くなってきているので、そのわずかな時間の中で研究内容や結果をわかりやすく紹介することはそれなりの技術を要する。

 発表の際に聴衆に見せる資料は、以前はスライドが圧倒的に多かった。これはポジフィルムをスクリーンに投影するものであるが、作成するのには通常写真屋に持って行かなくてはならないなど、結構手間と時間がかかる。発表の時も順序通りにセットし投影しなくてはならないのだが、しばしば向きを間違えたり裏返しにセットしたり順番を間違えるといったトラブルもあってか、次第に敬遠される傾向にある。

 そこで最近ではスライドに替わりOHP(Over Head Projector)が用いられることが多い。これは透明なシートに図表をコピーしたものをスクリーンに投影させるものである。OHPシートは通常のコピー機やプリンタでも簡単に作成できるので、作成に手間がかからず、また発表の時も、発表者が直接投影するので順序や向きなどをその場で修正することが可能である。更に透明であるから、2枚の図を重ねたり、一部を隠したりしながら見せたりなどの演出も加えることができる。

 さらに最近では、パソコンの画面をそのままスクリーンに投影する機械も徐々に使われはじめた。パソコンを使えば、先のOHPのような効果に加え、例えば動画を見せたりするなど、更に凝った演出が可能になる。事前に資料を用意をしておかなくてはならないスライドやOHPと違い、いざとなったら発表直前までデータを修正することも可能である。まだ機械そのものが一般的ではないのでどこでも使えると言うわけではないし、大抵の場合パソコンは自分で持ってこなくてはならないため、荷物が重くなってしまうというデメリットもある。

 もう一つのポスター発表は、発表する内容を畳1〜2枚分くらいのスペースに貼りつけておくというものである。発表者はポスターの前で見学者に解説し、見学者と直接ディスカッションすることもできる。限られた時間で一方通行の発表になりがちな口頭発表に比べると、少数ながら直接議論をする時間が持てるので、私は最近ではこちらの形態の発表を好む。

 貼りつける図表などは、パソコンとプリンタで作成したA4大程度の文章や図表をいくつも貼るのが一般的である。そのまま貼るとあまり見栄えがよくないので、台紙を使って視覚的効果を高めたりと言う工夫もあるが、最近では、畳1枚分くらいの紙に直接印刷できるプリンタも使われ始めた。1枚紙の方がレイアウトもしやすいし、見た目も綺麗だし、何より貼る時や剥がす時に手間がかからない。一方、出力したあとでミスを見つけるとかなりショックが大きかったり、紙が折れないようにきちんと持ってこようとすると長い筒が必要となり嵩ばるというデメリットもあるが、メリットの方が大きければ、機械の普及とともに一般的になってくるであろう。

 このように各種機器の高機能化によって、最近では発表の形態もだんだんスマートになってきている。もちろん大切なのは見た目よりも中身なのだが、中身を評価される前にまず注目されるためには、見た目も重要な要素だったりするのもまた事実である。研究者稼業も研究内容と同時にスタイルに拘らなくてはならないところもあり、それはそれで結構頭の痛いことでもあり、しかし時にはそれがまた楽しいことでもあったりするのだ。


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