#067 電子投稿は便利か?

1999/06/08

<前目次次>


 私の属している学会は、関連する分野の学会と共同で、毎年この時期に合同大会というものを行っている。最近は学会会員数も発表数も年々多くなり、これらを取りまとめる作業も大変になってきたため、昨年から、大会参加の申込と予稿(自分の発表する研究内容についての概要を書いたもの)の投稿をWebPageによる電子投稿の形式で行うことになった。

 確かに自然科学系の学会は、今や研究者のほとんどが研究の道具としてコンピュータを直接間接の形で使うことが当たり前になってきている。そして、電子メールにせよWWWにせよ、研究の打合せや情報交換の手段としてごく普通に使うようになっている。このような時代の流れからすれば、投稿方法などについても電子化の波がやってくるのは至極当然のことである。

 何しろそれまでの予稿の投稿の場合、決められた大きさの紙に要旨や図を貼りつけて、プリントレディの原稿を苦心して作り、それを郵送して投稿していたのだ。作る側も大変ならそれらを編集する側はもっと大変で、数百に及ぶ投稿を分野別に分類し、当日の発表順などを決定し、また著者を拾い出して索引なども作って、それらをまとめた予稿集をいう冊誌を作るという作業が必要だった。もしもデータが電子化されていれば、これらのデータを抽出することも並べ換えたりするのもコンピュータを使って行うことができるので、ほとんど手間がかからない

 というわけで昨年から学会申込の電子化が開始されたわけであったが、必ずしもこの電子化は、主催者・参加者双方の労力を大幅に軽減する方向には簡単には進まなかった。電子投稿の初年度となった昨年の場合は、WebPageのフォームを用いた投稿になっていたが、著者や共著者の名前や読みや所属、予稿原稿の本文や要旨などなどと、入力項目が余りにも多く、場合によっては入力の途中で一部のフォームが消失したり、リロードをかけて再表示させると今まで入力したデータが消えてしまったりと、案外と投稿には手間と失敗が重なる場合が多かった。

 私の場合、たまたま共著者が多い投稿だったために、あらかじめ原稿を用意していたにもかかわらず投稿には1時間近くも試行錯誤を要した。それでも投稿できたからまだよかったものの、中には投稿がどうしてもうまくいかずに、結局投稿そのものを断念した人もいたそうだ。そういうイレギュラーなケースが多発すると、取りまとめる側もそれらのフォローに忙殺され、必ずしも電子化によって楽にはならなかったようである。

 そんなこんなの反省を受けて2年目となった今年は、システム周りの部分を業者に委託して作ってもらったらしく、投稿フォームそのものはかなり洗練されていたようではある。しかし投稿の前にはまず共著者全員の個人情報を前もって登録する必要が有り、やはり共著者の多い投稿をしていた私は、今度は、私本人と共著者すべての所属や肩書などを調べて登録するという破目に陥った。登録する項目が複数あったことで全体の流れが更に複雑になり、必要な登録を忘れたりした人もいたようである。

 まあいろいろと細かい問題はあったようだが、ともかく電子化されてしまえば、索引を作ったり予稿集を編集したりという取りまとめの作業はコンピュータの力を借りてある程度簡素化できたようである。そして予稿原稿を集めた予稿集に関しては、今年からCD-ROMの形で支給されることになった。それまではプリントレディの原稿を集めて印刷した冊誌の形で配給されており、近年はその大きさも馬鹿にならず、電話帳くらいの大きさと厚さと重さがあったので、それにくらべれば非常にコンパクトになり結構なことである。

 しかし、どうにもこのCD-ROMの予稿集というもの、なぜか積極的に中身を閲覧しようと気が起こらない。冊誌なら多少重くても、持っていればその場で閲覧することができるが、CD-ROMを閲覧するためには当然パソコンが必要となる。軽いノートパソコンを持ち歩いて参照するのなら重さの点では電話帳並の従来の予稿集と変わらないばかりか、メモを書込めなかったりバッテリ残量を気にしなくてはならなかったり、かえって面倒である。必要な部分をあらかじめプリントアウトして持参するという手もないではないが、結局それは冊誌を持参することと変わらないわけであり、何のための簡素化なのかわからない。

 というわけで、その合同大会が今日から始まるのだが、果たしてノートパソコンを持参して予稿集を閲覧しながら発表を聴講しようという人はどれだけいるのだろう。大会で行われる研究発表そのものもさることながら、何だか関係のないところで色々と興味を引かれる大会ではある。


<前目次次>