#114 投資できない性格

2000/04/24

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 先日東京で電車に乗っていたら、とある広告にこんな質問が載っていた。

「同じものですが、あなたはどれを選びますか。(A)0.1 (B)1/10 (C)10%」

 心理ゲームを集めた雑誌の広告らしい。ちなみにその結果はその人のお金の使い方に対する性格を現わすそうで、(A)小数という見た目小さな数字を選んだ人は貯蓄派、(B)分数という物に対する割合を選んだ人は物欲派、(C)パーセントという見た目大きな数字を選んだ人は投機派なのだそうだ。ちなみに私が選んだのは(A)であった。

 話の信憑性はともかく、少なくとも私に関する限り貯蓄派というのは当っているのかも知れない。もっと言えば、こと財テクに関しては私は株式投資といったようなリスクのあるものには手が出せない性格である。

 話によると、今年から来年にかけては、多額のお金が投資に流れるのだそうだ。と言うのも、郵便貯金の金利が比較的高かった10年前に大量に定額貯金に流れたお金が、この時期に一斉に満期を迎えるからだそうだ。ご存知のように、今は預金に関しては相変らずの低金利時代。まともに銀行や郵便局に預けていたのでは一向に利息や利子がつかないご時世である。そこでこれらの資金が、近頃好況と言われる株式市場その他に流れる傾向にあるということらしい。

 折りしも株式の売買に伴う手数料が自由化され、各証券会社が手数料引き下げ競争を繰り広げる中、昨今のインターネットの普及に伴い、インターネットを利用した株式売買のサービスが台頭してきた。会社の側からすれば、インターネットを利用すれば余計な人件費や設備投資が不要になる分、手数料を抑えてもビジネスが成り立つ。また顧客の側にしても、手数料が少ない分少額の値上がりでも利潤を生むことが可能になるし、また自分の売りたい時に売れるので売り時や買い時を逃すことが少ないと考えられる。いままでインターネットに興味のなかった人も、簡単そうだからという理由でわれもわれもと俄投資家になる人が増えているらしい。

 だがインターネットというものは、基本的には繋がることを保証されないネットワークである。インターネット上では、情報伝達に使われるデータの束(パケット)が、ルーティングという方法で、目的地に渡るまでひたすらたらいまわしにされるという、極めて適当でいいかげんな方法によって成り立っているネットワークである。あなた宛てのメールや、あなたが見ようとしているサイトが、無事にあなたのもとに届くかどうかということも基本的には保証されていないネットワークなのである。もちろん通常にまっとうに設計されていれば、ほぼ100%に近い確率で届くわけだけれども、何等かの原因で届かなかったり、届いたとしても極端に遅くなったりするということは、ちょくちょく起こり得るのだ。

 4月14日の金曜日、ニューヨーク株式市場がハイテク関連株をはじめとして史上最大の下落幅をつけた。通信の発達した世の中では、アメリカの株安の情報はたちまち世界中をかけめぐり、世界中に不安な影を落とす。G7はこの株安を緊急議題にとりあげ、不安を落ちつかせるために、アメリカの景気は依然堅調であることを声明として発表したが、果して、週明けの日本をはじめとするアジアの株式市場は軒並み下落。韓国市場では取り引き停止にまで及ぶ騒ぎであった。

 ここからは想像だが、日本では、この日の取り引き開始と同時に、インターネットを利用している多くの俄投資家が当面の利益確保のためにインターネットで売りの指示を出そうとしたものの、考えることは皆同じ、その日の午前は売り注文のアクセスが殺到して実際にはなかなか接続できず、ようやく繋がった時には取り引き開始に比べ大幅に値を下げたあとだった、などということは充分考えられる。インターネットというものは、肝心な時に案外役立たないものだということは頭に入れておいた方がいいだろう。

 株式売買の世界にインターネットが参入しようが、本当の株式投資というものは、こういった目先の値動きに右往左往せず、長期的な視点で投資をする金銭的時間的余裕のある人がやるものだという原理は、今も昔も変わっていないものなのではないだろうか。少なくとも、私の様な気の小さい小市民がおいそれと入り込めるような世界ではないような気がするのだ。


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