#038 腰が…

1998/12/02

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 あれは、ちょうど一年前の夜のことだった。

 いつものように寒い寒いと布団に入って丸まりながら寝ていたところ、急に腰に激痛が走った。

 どのくらいの激痛だったかと言うと、ともかく身動きできないほどの痛さである。少しでも向きを変えたり戻そうとすると更に激痛が走る。黙っていられないほどの痛さで「うおーん、うおーん」という我ながら情けない意味不明の叫びを洩らすより他になす術がない。独り者の身であるため、誰かに助けを求めることもできない。大真面目で救急車を呼ぼうかと考えたが、電話のところまで這って移動することすらできない。

 これが世に言う「ギックリ腰」というものだろうか。なったこともないので断定できないがそれにしてもどうして何の前触れもなく夜中に寝ている最中になってしまったのだろうか。いろいろ冷静に考えてみても痛みが治ろうはずもなく、もはや再び寝つけないほど痛い。立ち上がるどころか少しでも腰を曲げたり戻したりすることすらできない。一体私はどうなってしまうだろう。翌週には海外出張、年開けには客演公演とスキー旅行が控えているのにもしやすべてキャンセルか、という悪夢が頭を過る。それはともかくとしても明日の朝までどうしていればいいのだろう。このまま痛みに耐えつつ眠れないまま朝を待つしかないのか。

 と、一時はどうなることかと思っていたが、辛抱強くじっとしているとそのうち痛みも耐えられる程度になり、少しずつ腰を元に戻すことが出来るようになった。体を静かに仰向けにして、まだ痛みは残っていたものの、しばらくしてまた眠りにつくことができた。

 朝になって、ともかく医者に見て貰おうと、職場に午前中休む連絡を入れてから、自転車を静かにこいで近くの総合病院へ自力で行った。整形外科でレントゲン写真まで撮ってもらっていろいろと診てくれたが、結局「よくわからん」ということで、湿布と鎮痛剤だけもらって来た。確かにもらった湿布を貼っておとなしく生活しているうちに徐々に痛みもひいて、海外出張も客演公演もスキーもどうにか無事に終えることができたが、以後しばらくは再発を恐れてなるべく腰に負担をかけないように過ごしていた。

 あとからよく考えてみると、この事件以前にも、時折腰に違和感があることは時々あった。腰痛と言うほどではないが、腰を後ろ方向に反ると少し痛むと言う程度のものである。そしてそれはここ1年くらいに特に頻繁に起こるようになっていた。そしてそれが頻発してきた時期と符合させると、原因がなんとなくわかってきた。

 パソコンのせいである。

 私は5年ほど前にノートパソコンを購入し、家でもパソコンを使うようになったのだが、パソコン専用の場所を作るのが億劫だったので、特別な机や椅子を用意せず、ノートパソコンをこたつの上において、座椅子に座って使うと言うこたつトップスタイルでパソコンを使っていた。タイピングが速くなるに連れ、最近では劇団の脚本の打込み清書など、以前にくらべ長時間の打込み作業をするようになっていた。長時間の打込みは手書きに比べると手は疲れないですんでいたのだが(#030参照)、腰を丸めた低い姿勢を長時間続けることが腰に負担をかけていたらしいのである。

 それが証拠に、友人からデスクトップパソコンを購入した際にようやくパソコン専用の机と椅子を購入し、その上で作業するようになって以降、ぱったりと腰の痛みや違和感はなくなった。やはり普段の作業姿勢は非常に大事であると身をもって感じた次第である。

 それにしても最近、パソコンによる眼性疲労、肩凝り、腰痛によく効く○○などと、売薬のCMなどで見る機会も多く、今やパソコンは確実に現代人の健康を蝕んでいるようである。私の場合、パソコンでの作業が主に文書やWebPageやプログラムの作成など、多少は頭を使う作業であり、しかもあまり集中力がないため、ずっと画面を見続けるということがないせいか、幸い目はまだ悪くなっていない。しかしたまに頭を使わないゲームなどにはまってしまうと、終わった後とても目が疲れる。最近、眼鏡類をつけた子供が多くなった気がするのは、頭を使わずに長時間画面を眺めるテレビゲームが普及しているせいではなかろうかとも思う。

 というわけで、ありきたりなオチだが、皆様もパソコンの使いすぎにはくれぐれも気をつけられますよう。


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