#013 全自動洗濯機の悲劇

1998/08/29

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 偉そうな話が続いたので、趣向を変えて最近やってしまったトホホ話を一つ。あんまり電脳とは関係ないが。

 筆者は一人暮らしをしているので、一通りの家事も当然自分がやっている。その一つに洗濯がある。

 一人暮らしにとって、全自動洗濯機というものは大変便利なものである。洗濯物と洗剤を放り込んで水が出るようにしてボタンを一つ押せば、洗濯とすすぎと脱水をすべて全自動でやってくれる代物である。二槽式洗濯機で洗ったものをいちいち脱水槽に移し替える手間を考えたら、多少高くても絶対に全自動洗濯機の方がお買い得である。私の全自動洗濯機はそれほど芸があるわけではないが、洗濯物の量を自動判別して水量を調節したり、タイマーで指定した時間後に動作を開始したりというマイコン制御的な機能はついており、まさに大変便利な電脳の産物である、と強引にまとめたところで、以上、電脳らしい話はこれで終り。

 ところで、私の住む公務員宿舎は単身寮と呼ばれるタイプのもので、一人が生活できる程度の部屋と、フロ洗面所トイレなどのが一そろいついたアパートのようなものである。ところが、洗面所のスペースに、洗濯機を置くための空間や設備がなぜかないのである。昔に設計された建物で、その時代の単身赴任者は皆、一週間分の洗濯物をかかえて自宅に戻るから宿舎で洗濯することはないだろう、なんて考えられていたのだろうか。今どきの単身者(ちなみに私は単身ではなく独身だが)は洗濯の一つくらいやるのは当たり前だと思うのだが、ともかくどういうわけか、洗濯機を置くようにできていないのである。

 一人で洗濯しようと思っている者にとってこれではあまりにも不便なのだが、まさか風呂場でいちいち洗濯板で洗濯するわけにもいかないので、洗濯機をどうにかしてどこかに置かなくてはならない。洗濯機を置く選択肢(洒落ではない)としては、強引に狭い洗面所に洗濯機を置くか、あるいは排水の容易なベランダなど屋外に洗濯機を置くかしかない。外に置いていたのでは洗濯機の寿命が短くなるので私は前者の方法を取っている。おかげで洗面所周りが至極狭くて使いにくく、洗顔までついつい台所の流しでやってしまう羽目に陥るのだが、それより困るのが洗濯機の排水の問題である。全自動洗濯機はその動作過程で大量の排水を常時行うため、常に排水の出来る場所を確保せねばならない。通常ならば、その排水専用の排水口が床についていそうなものなのだが、先にも書いたように、洗濯機を置く事を前提としていないスペースなので、それがないのである。

 仕方がないので私は、洗濯機を使う度に、洗面所に隣接する風呂場に排水ホースを伸ばし、風呂場に排水するようにして使用している。幸いなことに風呂場の扉の下部はアルミのアングル状の部分があり、そこに排水管のフックを上手い具合にひっかけることが出来るようになっている。

 その晩も私はたまった洗濯物を洗濯すべく、これまで何度も行ってきたように、排水管を風呂場の扉にひっかけ、洗濯物と洗剤を入れてボタンを押して、洗濯機を回しながら、テレビでも見て洗い上がりを待っていた。私の宿舎は玄関・洗面所・台所・リビングが一続きになったフローリングである。そのリビングの一角に座椅子を置いてテレビなど見るスペースになっているのだが、洗濯開始後数分、なんとなく手を置いた床がなんだか冷たい。水に触ったような感覚である。どうしたことか。ふと後方を振り返るとそこには、

 フローリング一面に泡を浮かべた水が広がっていた。

 やってもうた。どうやら風呂場の扉にひっかけていた排水管のフックが、排水の重さではずれてしまい、床に転がってしまったらしい。そのため、本来風呂場に排出されるはずの排水は、フローリングの床にぶちまけられてしまっていたのだ。

 発見が早かったのと、宿舎が1階だったのが不幸中の幸いであった。私は通常掃除に使用しているフローリング用簡易モップなどを使って溢れた水を玄関やベランダにかき出し、あとはエアコンのドライと除湿機をフル回転させて事態の収拾をはかった。おかげで、その晩寝るまでにはあらかたフローリングの表面は乾いてくれた。床に置いてあったものは、発見が早かったおかげで、雑誌数冊が浸水する程度の被害ですんだ。それにしても、洗濯機の全自動機能にまかせて、留守中や睡眠中に自動運転させて最後まで気がつかなかったら、もっとえらいことになっていたはずである。

 ちなみに私の同僚の一人も同じ過ちをやらかした経験があるそうで、しかもその時は、全自動にして留守にしていたので、すべて洗濯が終了したあと宿舎に帰宅するまで気がつかなかったという。ご愁傷様です。

 関東財務局様。お願いですから単身寮の洗面所にせめて洗濯機用の排水口を付けて下さい。


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