トップページ > ページシアター > よそびと診療所 > シーン47 【公演データ】
明転すると、上手の狭い範囲に灯り。特別応接室。小さなちゃぶ台が置いてある。ノノとトロンが入って来る。
トロン 「ここは?」
ノノ 「特別応接室です。お座りください。」
ノノ、トロン、あぐらをかいて座る。
トロン 「確かに静かではあるが、奇妙な部屋だな。」
ノノ 「地球で異星人同士が話す時はこのスタイルが定番なので。で、話とは?」
トロン 「せっかくですから他の皆さんにも聞いて頂きましょうよ。」
ノノ 「…わかりました。」
ノノ、モバイルを操作。ブーン、という音が鳴り、下手のロビーが明るくなる。
モス爺 「何だ?」
ロッサ 「インフォメーションモニターがついたわ。」
全員正面モニターに注目。
ソルト 「ノノ先生…」
トロン 「2万年振りになりますか。君とお会いするのは。」
ノノ 「はい。あなたが我々の星を滅ぼした時以来ですから。」
里桜 「我々の星?」
シド 「ええ。トロンが滅ぼした星は、ドクター・ノノの故郷、オリム星。そしてトロンも…オリム星人です。」
里桜 「え…」
雪子 「トロンは自分の星を滅ぼしたんですか?」
ノノ 「どうしてあんな事を?」
トロン 「痛みを消すためです。宇宙から。医者の性(さが)ですかね。」
里桜 「医者?」
ソルト 「奴も医者だ。」
ノノ 「それはやはり、あなたの家族の事が?」
トロン 「ええ、引き金にはなりました。」
コルティナ 「トロンの家族はテロリストに惨殺されている。」
雪子 「惨殺…」
トロン 「ご存じの通り、私はあなたのお父上と万能薬の研究をしていた。無論、全ての命を救いたいという一念からだ。しかし家族が惨殺され、私の想いは変わってしまった。苦しんで苦しんで苦しみぬいた果てに出た答えは、この世から苦しみや悲しみ、痛みを消すことは決してできない…という事でした。」
ノノ 「それでルーモを作った?」
トロン 「万能薬の研究の過程で偶然発見しました。ルーモは光の粒子の変異体。この光を浴びれば、どんな生命も安らかに死ねる。そう、全ての苦しみを消す唯一の方法は、すべての命を消す事。」
ミュン 「愚の…骨頂です…」
トロン 「だが邪魔が入った。私の計画に気付いた君のお父上が必死に止めようとした。銀河連合軍にも気づかれた。真っ先に駆け付けた特殊部隊の隊員が…」
ノノ 「メルティローズ。」
トロン 「君の恋人でしたね。」
里桜 「やっぱりそうだったんだ。ダイブした時に会ったメルさんそっくりの人…」
ミュン 「私の一番弟子でもありました…」
シド 「クローンというのはやはりあの…」
ミュン 「ええ。メルティローズの親が、金欲しさに彼女の遺体の細胞を殺し屋の組織に売った。」
里桜 「それでクローンを…」
トロン 「勇敢な女性でしたね。危険を察した彼女は君を宇宙船で逃がし、ルーモのスイッチを切って亜空間に捨てようとした。しかし、装置の停止までに光が一瞬漏れ…」
ノノ 「その一瞬で、オリム星の全ての命が消えた…」
トロン 「装置はそのまま亜空間へ。私が捨てたのではなく。君の恋人が捨てたんです。」
ノノ 「その場にいたのに、なぜあなただけ生きている?」
トロン 「私も死ぬつもりでした。しかし想定外の事が起きたんです。あなたのお父上のせいで。」
ノノ 「お父様が何を?」
トロン 「お父上は万能薬の研究からもう一つの薬を作り出していました。不老不死の薬です。」
ベルル 「不老不死の薬?」
トロン 「彼は死の直前に私にそれを打った。そのせいで私は…死ねない体になってしまったんです。」
ソルト 「奴は不死身って事か?」
トロン 「私が君に会いに来た理由はただ一つ。私を…殺して欲しい。」
ざわめきが起こる。
トロン 「私は終身刑で牢獄に。しかし死ねないという事は永遠に牢獄にいるという事。この2万年間、何もせずにただ生きている。気が狂う事さえできず、ただ生きている。正に生き地獄。それが永遠に続く…」
ノノ 「どうやってイルージュを?」
トロン 「ルーモ欲しさに勝手に脱獄させてくれたんです。奴はテロリストじゃない。自分の能力におぼれたただの愉快犯です。私にはどんな術も効かない。奴の幻覚も。それでも私を利用しようとした。愚かとしか言えませんが、お陰であなたに会えた。」
ノノ 「脱獄後に逃げる事もできたはず。」
トロン 「逃げられません。私には大した能力は残っていない。ルーモがなければすぐに捕まってまた牢獄だ。」
ノノ 「不死身のあなたをどうやって殺せと?」
トロン 「私の寿命を全て吸い取れば可能です。この銀河でそれができるのは、もう君だけだ。もちろん断ったらスイッチを押します。でもその前にもう一つ…」
トロンが袖に手を向けると、メルがフラフラと現れ倒れる。ノノが駆け寄る。
ノノ 「メルさん!」
里桜 「メルさん?」
トロン 「この子に会えたのは奇跡でした。どういうわけかこのスイッチを持っていた。」
ロッサ 「え?待って、あのスイッチどこかで…」
モス爺 「あ!あれ、あれさっきメルさんに上げたワシのループタイの飾りじゃ! 」
ソルト 「え?!なんで爺さんがあんな危険な物持ってたんだ?!」
モス爺 「なんでじゃろ?」
トロン 「その子の命はあと何分ももたない。君の寿命もあまり残っていない。私の寿命を奪ってその子に分けるしか手はありません。」
里桜 「そんな…」
ノノ、何かに気付き顔を上げるが、悟った様に黙り込む。
コルティナ 「ドクターは何をしている?!なぜトロンの命を奪わない?!」
(作:松本じんや/写真:はらでぃ)