△ 「迷い子なカミサマ」シーン10


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風の音。明転すると、森の中。中央にあきらが倒れている。あきら、気が付き起き上がる。

あきら 「いててて…あれ?どうなったんだ?…みんなは?…どこだここ?…森の中?…エレベーターは?」写真

中央ハケから一人の女性「原亜子(はらあこ)」が頭を抱えて現れる。

亜子 「ううう…」
あきら 「あれ?誰?…あの〜…」

あきら亜子に近づく。亜子、膝をついてしゃがみ込む。

あきら 「だ、大丈夫ですか?!」

上はけから幸恵が

幸恵 「あきら?」
あきら 「おばさん!」
幸恵 「よかった。怪我は?」
あきら 「多分大丈夫。おばさんは?」
幸恵 「ちょっと体がしびれるけど…その人は?」
あきら 「さあ…」

下ハケから熊耳、平泉も出て来る。

熊耳 「警部!」

上ハケから鈴木、石倉、納谷も出て来る。

幸恵 「みんな無事?」
納谷 「何がどうなってるんですかこれ?」
あきら 「いや、僕にも全く…」
幸恵 「無線は?」
鈴木 「駄目です。繋がりません。」
熊耳 「携帯も圏外ですね。」
平泉 「GPSも駄目です。」
納谷 「(亜子に気づき)その人は?」
あきら 「わからないんですが、具合悪そうで。」

幸恵と平泉が亜子の傍らへ

幸恵 「大丈夫ですか?」
亜子 「ううう…」写真
鈴木 「しかしどこなんですかここ?」
熊耳 「どこかの雑木林には違いないがな。」
平泉 「八王子とかその辺っぽい。」
幸恵 「まるでキツネにつままれた様ね。」
平泉 「まさかこの人…キツネじゃ…」

全員亜子を見る。

熊耳 「尻尾(しっぽ)は?」

全員尻尾を確かめる。

平泉 「ないようです。」
熊耳 「じゃ、たぬきでもないな。」
納谷 「これ今度こそどっきりですかね?」
幸恵 「さすがに本物の警察は巻き込まないでしょ。」
鈴木 「じゃ、テレポーテーション的な?」
平泉 「いや、タイムスリップ的な?」
あきら 「それどっちも僕の小説的じゃないですか。」
幸恵 「一回落ち着いて冷静に考えましょう。」
あきら 「そうですね。」
幸恵 「まず私の記憶では、エレベーターで下っている途中にエレベーターが止まり、頭痛に襲われて爆音がして気を失った。気が付くとこの雑木林にいた。」
皆さん 「同じです。」
幸恵 「どんなトリックが考えられるかしら?」
石倉 「催眠ガスかな? 我々を眠らせてここに運んだ。」
納谷 「わざわざ六本木から八王子まで?」
あきら 「いや、八王子かどうかはまだ…」
亜子 「お母さん…」
平泉 「え?」
あきら 「今お母さんって言いましたよね?」
幸恵 「大丈夫ですか?」

パ〜ンという音が二つ聞こえる。みんなキョロキョロ。

あきら 「なんだ?」
幸恵 「銃声?」

幸恵、熊耳、平泉、鈴木、銃を抜く。

熊耳 「何か来ます。」

4人、上手に銃を向ける。ナユタが飛び出して来る。すぐに刀を向ける。

あきら 「あ!」
平泉 「女子高生?」
あきら 「違います!さっき僕らを襲った…」
ナユタ 「瞬間移動を使うとは、やはり魔族ですね。」
幸恵 「武器を置きなさい。」

下手からドロップスが出て来る。

熊耳 「こっちからもです!」写真
ランゼ 「またあいつらだ!」
ミルキー 「数が増えてる。」
スーザン 「今度は銃を持ってるよ。」
幸恵 「武器を置きなさい。」
スーザン 「それはこっちのセリフよ。」
ミルキー 「あんたたち何者?」

幸恵、警察バッチを見せる。

幸恵 「六本木東署の者です。武器を置いて両手をあげなさい。」
ランゼ 「六本木?」
スーザン 「地球の日本の?」
ランゼ 「ここエウロパじゃないの?」
熊耳 「気をつけろ。イッちゃってるぞ。」
平泉 「イッちゃってますね。」
あきら 「ちょ、ちょっといいかな?いや、僕としてはこういうのすごく嬉しいですよ、でもこれは…少々やり過ぎじゃないかな?」
ミルキー 「あんた誰?」
あきら 「誰って…もうそういうのいいですから。」
ランゼ 「よくな〜い!」
あきら 「はいはい、わかりました。僕は神田あきら。皆さんの生みの親です。」
ミルキー 「…は?」
スーザン 「生みの親?」
ランゼ 「もしかして…あなたこう見えて…女??」
あきら 「じゃなくて作者ですよ作者。」
ナユタ 「私を作ったのはジョーンズ博士です。」
あきら 「そうそう、アラスカの秘密基地にいる。」
ナユタ 「ど、どうして…秘密基地の場所まで?」
あきら 「僕が考えたからに決まってるでしょ。」
ナユタ 「お前が考えた?」
ミルキー 「ちょっと待って思い出した!そこのナユタさん。あなた「有機ドロイド」なの?」
ナユタ 「だったら何ですか?」
ミルキー 「ジョーンズ博士って、スティーブン・ジョーンズ博士の事よね?」
スーザン 「え、あの天才科学者の?」
ランゼ 「実験失敗して島ごと消滅させた?」
ナユタ 「それはデマです!島を消滅させたのは魔族の仕業です!」
幸恵 「魔族?」
ミルキー 「ナユタさん。悪いけどうまく避(よ)けてね。」
ナユタ 「え?」
ミルキー 「皆さんちょっと失礼。」

ミルキー、銃を撃つ。バッチッ!という音がして刑事たちは悲鳴。痺(しび)れて銃を置く。
すかさずドロップスが銃を向け刑事達の銃を回収。刑事たちは手をあげる。

平泉 「なにこれ?」
あきら 「まさか…プラズマ弾レベル2…」
幸恵 「え?」
あきら 「プラズマ銃は威力を調整可能…レベル2は電気ショック程度…」
石倉 「それは君が創作した架空の…」

ミルキー、みんなにモバイルをかざす。

ミルキー 「はい皆さん笑顔で〜。」

シャッター音

ミルキー 「データ転送したよ。ナユタさん以外は普通の人間ね。」
スーザン 「うわこれが「有機ドロイド」?」写真
ランゼ 「ホントに存在したんだ〜。」
ミルキー 「ナユタさんの言う魔族っぽいのもいないみたいよ。」
ナユタ 「何をしたんです?」
ミルキー 「皆さんをスキャンしたの。これ、かざすだけで成分やDNAまで分析できる装置。」
あきら・石倉・納谷 「エレメント・スキャナー。」
ミルキー 「え?」
スーザン 「何で知ってるの?」
ランゼ 「これミルキーが発明したのに。」
ナユタ 「そのデータ。私にも送って下さい。」
ミルキー 「モバイルは?」
ナユタ 「頭に内蔵されてます。振って下さい。」
ミルキー 「こう?」

ミルキー、モバイルを振る。ナユタ頭を振る。キンコーン!

ナユタ 「来ました。」
平泉 「ふるふるじゃん…」
ナユタ 「確かに魔族はいないようです。」
ミルキー 「皆さん手を下げていいわよ。妙なまねしなければ手荒な事はしないから。」

みんな手を下げる。あきら、ある葉っぱをみつけて拾う。

あきら 「これは…」
幸恵 「いい加減にしなさい。こんな事してただで済むと思うの?」
あきら 「あの、皆さんちょっと。僕の見解を聞いて欲しいんですが、いいですか?おばさん。」
熊耳 「警部。話だけでも。」
幸恵 「…どうぞ。」
あきら 「ここは我々がいた世界ではありません。」
幸恵 「だからそんな話は…」

あきら、拾った葉っぱを見せる。

あきら 「おばさん。けっこう植物に詳しいですよね。」
幸恵 「ええ。」
あきら 「この葉っぱ、知ってます?」

幸恵、葉っぱを調べる。

あきら 「見た事もないはずです。これ、僕が小説に書いた架空の植物ですから。」
幸恵 「は?」
あきら 「ここは僕の書いた小説の世界なんです。彼女たちはこの世界の住人。ナユタもドロップスも200年後の世界、つまり2228年の住人なんです。」
ミルキー 「我々があなたの書いた小説の登場人物だって言うの?」
スーザン 「じゃ私たちの存在はフィクション?」
ランゼ 「はははは、それ面白〜い。」
あきら 「ランゼ・ハマサキ。地球軍特殊チーム「ドロップス」の一員。仲間と木星圏を中心に活躍。そのピンクの銃は「ピンキーグロック」。」
ランゼ 「わ、凄い良く調べたね。」
あきら 「足の裏に傷。」
ランゼ 「え?…」
石倉 「あ、あれか!。」
納谷 「5歳の頃、塀(へい)から飛び降りた時に誤って植木鉢を割って怪我をした。」
熊耳 「シリーズ2巻の冒頭に出て来るシーンだ。」
幸恵 「熊耳くん?」
熊耳 「すみません。実は僕も神田作品のファンで。」
平泉 「うそ、意外…」
ランゼ 「やだ…なんでそんな事まで知ってるの?」
あきら 「小説読んだ人ならみんな知ってます。」
ランゼ 「やだやだやだ!気持ち悪い!セクハラセクハラ!ぶっ殺す〜!」
鈴木 「いや、セクハラではないと思います!」
スーザン 「(ランゼを止め)待ちなさいって。」写真
ランゼ 「だって私だけじゃなくてみんなの事も小説に書かれてるんだよ!あんな事とか、こんな事とか…」
スーザン 「あんな事とか?こんな事とか?…(間)…ぶっ殺す!」
ミルキー 「やめなさいって!」
ナユタ 「私も小説に書かれているのか?」
石倉 「映画にもなってます。」
ナユタ 「映画?」
ランゼ 「私たちも?」
石倉 「いや、皆さんはまだ…」
ランゼ 「え〜、なんか悔しい。」
スーザン 「おいおい。」
納谷 「でもアニメ化はしてますよ。」
ランゼ 「アニメ?!観たい観たい!」
スーザン 「こらこら。」
幸恵 「そろそろ口出していいかしら?」
あきら 「…どうぞ。」
幸恵 「確かにこの植物は見たこともないけど。小説の世界だなんて非現実的過ぎるわ。他の可能性だってたくさんあるでしょ?」
あきら 「例えば?」
幸恵 「集団催眠、バーチャルリアリティー、薬をのまされて幻覚を見ているのかも。」
鈴木 「幻覚?」
幸恵 「それに…これは、現実的とは言えないけど…」
あきら 「何ですか?」
幸恵 「…みんな…死んだとか。」
平泉 「え?」
幸恵 「私がここに来る前の最後の記憶は爆音を聞いた事。もしその爆発で死んだとすれば…」
ミルキー 「爆音…」
ランゼ 「ミルキー、私たちも…」
スーザン 「爆音聞いた…。」
ミルキー 「ナユタは?」
ナユタ 「…私も…聞きました…」
熊耳 「全員共通してる…」
石倉 「じゃ、ここ、あの世ってこと?」
納谷 「死んだんですか僕たち?」
平泉 「え〜っ?!やだそんなの!明日合コンなのに!」
ランゼ 「まだ食べたいスイーツいっぱいあったのにぃ〜〜。」
あきら 「まだ死んだとは限らないですよ!」
幸恵 「じゃ聞くけど、ここがあなたの作った世界なら、みんなを助けられるわよね?」
あきら 「え?いや、それは…」
幸恵 「この世界の神様って事でしょ?だったらここにいる全員を元の場所に戻す。そういうストーリーをあなたが作ればいいじゃない?」
熊耳 「なるほど。」
石倉 「神田君!」
納谷 「神田先生!」
平泉 「合コン!」
ランゼ 「スイーツ!」
あきら 「ちょっと待って、急に言われても…」
亜子 「お母さん…」写真
平泉 「あ、またしゃべった。」
ミルキー 「その人は?」
平泉 「わかりません。恐らく一緒に巻き込まれた人です。」

亜子、急に意識を取り戻し起き上がる。

亜子 「うわあ!」
みんな 「うわあ!」

みんなこう着状態。

亜子 「…私…どうしたんです?…」
平泉 「ここで、具合悪そうに頭を抱えてましたけど。」
亜子 「そうだ…頭痛に襲われて…」
幸恵 「お名前は?」
亜子 「原 亜子です。」
幸恵 「亜子さん。」
ランゼ 「あなたはどこから飛ばされて来たの?」
亜子 「飛ばされて来た?」
幸恵 「倒れる前、どこにいたの?」
亜子 「どこって…ここですけど。」
あきら 「ここ?」
亜子 「はい。ここです。」
あきら 「ここって…この場所?」
亜子 「この場所です。ハイキング中です。」
あきら 「ハイキング?」
幸恵 「ここ、どこなの?」
亜子 「どこって…え?高尾山ですよね?」
全員 「高尾山?!」
平泉 「やっぱ八王子じゃん!」
ミルキー 「あの…今年は、何年?」
亜子 「28年です。」
熊耳 「あ!我々と同じです!」
鈴木 「ここ未来じゃないんだ。」
スーザン 「じゃ我々が過去に来たって事?」
亜子 「過去?」
熊耳 「こっちの人たちは200年後の未来から来たそうだ。」
亜子 「200年後?!」
ミルキー 「そうみたいね。」
亜子 「え?じゃ3228年から来たんですか?!」
ミルキー 「そうみたいね…ん?…今なんて言った?」
亜子 「3228年。今年が3028年ですから。」
全員 「3028年?!」
石倉 「せ、千年後なのここ?…」
鈴木 「とんでもない未来じゃないですか!」
亜子 「あの、すみません…皆さんは一体どういう…いたたたた!」
平泉 「大丈夫?!」
亜子 「また頭痛が…」

パーンという音がする。

あきら 「あ、またあの音!」
ミルキー 「あの音?」
あきら 「皆さんが出て来る時に今の音が…」

中央から頭を抱えた朝倉が出て来る。

朝倉 「いたたた…」写真
あきら 「うわ!」

みんな戦闘態勢。

ランゼ 「今度は誰?。」

朝倉、みんなに気づき手をあげる。

朝倉 「な、なんだ?!」
ナユタ 「今度こそ魔族ですね!」

ナユタ斬りかかる。

あきら 「待った待った!」

ミルキー、スキャンする

ミルキー 「この人も普通の人間よ。」
幸恵 「誰彼構わず魔族にする子ね。」
あきら 「すみません。こんなキャラに書いてしまって。」
ナユタ 「なぜお前があやまる?」
スーザン 「そのかっこうって、シャトルのパイロットよね?」
朝倉 「誰だ君たちは?」
ランゼ 「ウィーアードロップス!」
朝倉 「ドロップス?特殊チームの?」
ランゼ 「イエス!」
朝倉 「って事は、エウロパに着いたのか?」
あきら 「あの!もしかしてあなた…朝倉さん?」
朝倉 「え?ええ、えっと、どこかでお会いしましたっけ?」
あきら 「やっぱりそうだ!この人も僕の作った世界の人です!」
石倉 「え?こんなキャラいたっけ?」
朝倉 「キャラ?」
あきら 「今構想中の話に出て来るんです。だから僕しか知りません。」
熊耳 「ファンもコスプレ不可能だな。」
朝倉 「コ、コスプレ?」
納谷 「構想中の話って、例の東京アンドロイズの?」
あきら 「そう、乗っていたシャトルが事故に遭うって話で…」
朝倉 「そうだ!隕石が当たったんです!他のみんなはどこに?」
スーザン 「あなたしかいないようだけど。」
ランゼ 「待って、そのシャトルにハルちゃんたちが乗ってたの?」
朝倉 「はい、アンドロイズの2人とシャトルのクルーが2人。シャトルは航行不能、通信もできず、酸素も残り少ない。」
ランゼ 「早く助けに行かなきゃみんな死んじゃうよ!」
朝倉 「とにかく救助の要請を。」
ミルキー 「無理よ。」
朝倉 「無理?」
ミルキー 「ここはエウロパじゃないの。」
スーザン 「それどころか2228年でもない。」
朝倉 「は?じゃここは?」
ランゼ 「3023年の地球。日本の高尾山。」
朝倉 「た、高尾山?!3028年?!」
鈴木 「そうだ!君3028年の人ですよね?」
亜子 「え、ええ。」
鈴木 「モバイルとかで我々の情報わかりませんか?」
熊耳 「そうか、過去の情報を調べれば…」
幸恵 「我々がどうなったかわかる?」
亜子 「今調べます!あの、皆さんのお名前は?」
ランゼ 「じゃ、地球軍ドロップスで検索してみて!」
亜子 「地球軍ドロップスですね。」写真

亜子、何やら妙なジェスチャー。

あきら 「何してるの?」
亜子 「モバイルは体内にあるんでこうやって調べるんです。」
平泉 「おお、さすが千年後。」
亜子 「あ、見つかりました。地球軍ドロップスのデータ。」
ランゼ 「やった!」
スーザン 「ちょっと待った!!」
ランゼ 「なによスーちゃん!」
スーザン 「あのさ、うちらが無事だったとしてもさ、この時代ってさすがにもう生きてないよね。」
ミルキー 「そうね。800年後だからね。」
スーザン 「てことはさ、そのデータ見たら私たちがいつどうやって死んだかも…わかっちゃうよね?」
ミルキー 「あ…」
スーザン 「…やじゃね?」

みんな引く。

ランゼ 「やかも…」
亜子 「…あの…やめます?」

亜子、また頭痛。

亜子 「いたたた!」
平泉 「亜子さん?」
亜子 「ううう…」写真
平泉 「また頭痛?」

キーンという音で全員頭痛。

全員 「いたたたたた!」
あきら 「うちらもだ!」
幸恵 「またどこかに飛ばされるの?!」
ミルキー 「もしかしたら元に戻れる可能性も!」
朝倉 「頼むそっちであってくれ!」
亜子 「お母さん!」

ドーンという雷の様な音と共に暗転。全員の悲鳴。

(作:松本じんや/写真:はらでぃ)

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