△ 「迷い子なカミサマ」プロローグ


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暗転中ジャズの音楽がかかり
字幕「霊界 天国と地獄の中間」「居酒屋 かたすみ」
明転すると カウンター席。スーツの男「田中」が携帯で話している。

田中 「…いえ、閻魔(えんま)大王様はまだお見えになっておりません…はい。…はい。…わかりました。」

田中、携帯を切る。ホッとため息。腕時計を見て頷く。別の男「佐藤」とメガネをかけた女性「閻魔」が入って来る。佐藤、田中に近づきながら

佐藤 「すみません、遅くなりました。」
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田中、席を立ち

田中 「あ、どうも、初めまして。」
佐藤 「初めまして。新任の神様でいらっしゃいますよね。」
田中 「え?あ、いえいえ…」
閻魔 「違う違う。」
田中 「私は側近の田中と申します。」
佐藤 「え?あ〜失礼しました。ご側近の方でしたか。」
田中 「はい。神様と新任の神様は少々遅れると今連絡が。」
佐藤 「そうですか。」
田中 「申し訳ありません大王様。」
佐藤 「え?あ、いえ、違います私も…側近です。」
田中 「え?…側近?」
佐藤 「佐藤と申します。」
田中 「え、じゃ…こちらが?」
佐藤 「はい。」
田中 「…こちらが?」
閻魔 「閻魔です。」
田中 「大変失礼致しました!いやもうてっきり…」
佐藤 「すみません、閻魔っぽくて。」
閻魔 「すみません、閻魔っぽくなくて。」
田中 「いえいえ」
佐藤 「ま、こういう所では生前の姿になるのが決まりですからね。」
田中 「ええ。…あ、座りましょうか?」
閻魔 「そうですね。」

3人、椅子に座ろうとした時、新任の神様が入って来る。

神様 「遅くなりました〜。」
閻魔 「お、来た来た。」
神様 「いやホントごめんね〜。も、引継ぎが大変でさ。」
閻魔 「だよね〜。」
神様 「お〜!懐かしいなこの姿〜、そうそうこんな姿だったよね。」
新任神様 「あの…」
神様 「あ、ごめんごめん。え〜紹介致します。僕の次の神様です。」
新任神様 「初めまして、あの、まだ何をどうしていいか全然なんですが、宜しくお願い致します。」
神様 「こちらが閻魔大王と側近の佐藤さん。」

新任神様、佐藤に握手。

新任神様 「あ、あの大王様!不束者(ふつつかもの)ですが宜しくお願いします!」
閻魔 「ほらやっぱりこうなる。」

閻魔、神様、側近2人笑う。

新任神様 「え?…」
神様 「その人は大王の側近。」
新任神様 「え?!じゃ閻魔大王は…」
閻魔 「はい、私です。」
新任神様 「え、うそ、あ、ごめんなさい!」
閻魔 「いいのいいの、当然のリアクション。」
田中 「私も間違えました。」
神様 「田中君も?」
閻魔 「宜しくね。共にこの霊界を支えていきましょう。」

閻魔、新任神様に握手。

新任神様 「はい!宜しくお願い致します!」
田中 「…座りましょうか?」
神様 「そうだよね。」

全員座る。

神様 「この店わかりにくかったでしょ?」
佐藤 「ええ、かなり。」
新任神様 「看板ありませんでしたよね。」
閻魔 「看板どころか入り口もないし。」
佐藤 「呪文でドアを空けた後も、そうとう地下までおりましたよね。」
閻魔 「この床の下、もう地獄じゃないの?」
神様 「あ、帰りはこの下掘った方が早いよ。」
閻魔 「え、マジで?」
神様 「うそうそ。」
閻魔 「も、舌抜くよ〜。」
神様 「ははは、それは勘弁。」
佐藤 「しかしいい感じの店ですよね〜。」
神様 「でしょ。ジャズバーっぽくて。」
閻魔 「でもここ「居酒屋かたすみ」っていうんだよね?」
佐藤 「場所的に片隅というのはわかりますけど、居酒屋っぽくはないですよね。」
神様 「いや、意外と居酒屋よ、ここ。」
閻魔 「テイク・ファイヴだし。」
神様 「お、知ってますね。」
新任神様 「テイクファイブ?」
田中 「この曲ですよ。」
閻魔 「モダンジャズ結構好き。」
新任神様 「あ、聞いたことあるかも。」
神様 「作曲者は?」
閻魔 「ポール・デスモンド。」
神様 「そう、なんとこの店を作ったのがそのポール・デスモンド。」
佐藤 「え〜!そうなんですか?」
閻魔 「でも尚更なぜ居酒屋?」
神様 「直接聞いてみる?」
閻魔 「え?」
神様 「マスター。」
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マスターのポール・デスモンドが出て来る。

閻魔 「わ、すごい、本物。」
神様 「アルトサックスの神様よ〜。」
田中 「神様が二人になりましたね。」
ポール 「とんでもない。アルトの神様はチャーリーですよ。」
神様 「チャーリー・パーカー。彼も神様。(新任神様に)知ってる?」
新任神様 「すみません、ジャズはちょと…」
神様 「だよね。」
新任神様 「これから勉強します!」
ポール 「勉強はいりません。この店に来ていただければ自然に好きになりますよ。」
新任神様 「通います。」
閻魔 「(ポールと握手して)初めまして。閻魔です。」
ポール 「初めまして大王様。ポール・デスモンドです。大変光栄です。」
閻魔 「こちらこそ。。」
ポール 「どうぞごひいきに。お飲み物は?」

ポール、閻魔にメニューを渡す。

神様 「あ、まだみんな頼んでないのね。」
閻魔 「え?あ〜なるほど!こういう事か。」
佐藤 「なんですか?」
閻魔 「メニューメニュー。」

みんなメニューをのぞき込む。

田中 「え?枝豆?」
佐藤 「ししゃも。」
新任神様 「トリ軟骨唐揚げ。」
閻魔 「串アラカルト。」
神様 「どうよ?」
みんな 「居酒屋だ。」
閻魔 「でもなんで?」
ポール 「単純です。こっちに来て行った店で、一番気に入ったのが日本の居酒屋だったので。」
佐藤 「なるほど。」
みんな 「単純だ。」
神様 「僕いつもの。」
ポール 「生ビール中ジョッキ。」
神様 「生中の人。」

佐藤が手をあげる。

ポール 「お二つ。」
田中 「僕はハイボール。」
閻魔 「私は一ノ蔵を。」
神様 「お、いきなり日本酒?」
新任神様 「私はジンジャーエールで。」
ポール 「かしこまりました。」

ポール、ハケる。

閻魔 「ところで神様、生まれ変わり先は決めたの?」
神様 「いや、人間って事以外は。できればみんなにみつからないように、どこがでひっそりと。」
閻魔 「結局そうなのね。」
佐藤 「せめて男か女かぐらいは。」
閻魔 「どっちでも大変だけど。」
神様 「どっちでも面白い。」
田中 「せっかくの特権なのに。」
神様 「特権とかそういうのなんか嫌でね。」
閻魔 「お〜、神発言。」

ポール、ドリンクを持って来て配る。

ポール 「お待たせしました。ドリンクです。」
閻魔 「ポールさんも乾杯一緒にどうです?」
ポール 「宜しいんですか?」
神様 「是非是非。」

ポール、自分のドリンクを持って来る。閻魔が立ち上がり。

閻魔 「え〜、乾杯の音頭は私が。ですがまず本日の主役からお言葉を頂きましょう。どぞ。」

神様立ち上がり。新任神様にも一緒に立つように促す。

神様 「え〜、今日は皆様お忙しい中、私達の歓送迎会にお集まり頂きありがとうございます。私も第29代目の神として3330年務めさせて頂きましたが、ようやく次の神の器を持った魂を見つけ、無事退任する事となりました。本当に…。(感極まる)」
閻魔 「お、どうした?」
神様 「…すみません…」
閻魔 「泣くの?泣くの?」
佐藤 「頑張れ〜!」
田中 「(泣き出す)ううっ…」
閻魔 「わ、こっちが泣いた。」
神様 「すみません。色々ありましたが、皆様のおかげでなんとか無事に使命を全うする事ができました。本当にありがとうございました!」
佐藤 「よっ!神様!」
神様 「今後はこの新しい神様と皆様で、この霊界と、下界の生きとし生けるものたちを支えて行って下さい!宜しくお願い致します!」
新任神様 「宜しくお願い致します!」
閻魔 「それでは2人の前途を祝して、乾杯!」
みんな 「乾杯!」
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みんな乾杯する中、舞台手前にサス。新任神様と閻魔が入って来る。

新任神様 「皆さんこんにちは。神様です。30代目です。ご覧になった通り、まだ新人です。ここは霊界。死んだ後魂が集まる世界。この世界は天国と地獄とその中間のエリアの3つに分かれていて、死んで最初に来るのがこの中間。ここで天国に行くか地獄に行くかが決まります。」
閻魔 「決めるのはもちろん神様と私、「閻魔大王」。」
新任神様 「天国に行った魂は浄化されて再び皆さんのいる世界に戻ります。所謂(いわゆる)「輪廻(りんね)転生(てんせい)」です。」
閻魔 「地獄に行った魂はそりゃもう地獄、多くの魂は浄化不可能で、永遠に苦みを味わって頂きます。」
新任神様 「普段の行い。大事ですよ。」

新任神様、閻魔、頷く。

新任神様 「そんな私たちでも決して全知全能ではありません。」
閻魔 「皆さんのいる下界や悪魔のいる魔界など、様々な別世界がある事は知っていますがそれ以上の事はよく知りません。」
新任神様 「しかしどうやら、我々よりも一つ上の世界があるらしいのです。」
閻魔 「この数万年の間に、別世界同士で起きた様々なトラブルを解決に導いた存在があるのです。」
新任神様 「我々にもよくわからない存在ですが、実はこの後また、その存在と関わる事態に…」
閻魔 「そう、とんでもないトラブルが起きてしまうのです…」
新任神様 「マイガッ…」

閻魔、新任神様を見て首を振り指差す。

閻魔 「…God is you。」
新任神様 「あ、そうでした。マイミー…ミー?…」

新任神様、首をかしげ閻魔を見る。新任神様と閻魔、一緒に首を振る。

新任神様 「では。」
閻魔 「そろそろ。」

2人同時に右手を上げ

2人 「Three、Two、Оne…」
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パチンと指を鳴らすと同時に暗転。オープニングの音楽、映像が始まる。
オープニング
字幕「不等辺さんかく劇団 30周年記念公演」
音楽に合わせて、過去の公演のCGも織り交ぜながら目まぐるしく展開。
最後にタイトル「迷い子なカミサマ」
暗転

(作:松本じんや/写真:はらでぃ)

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