トップページ > ページシアター > ほぐす! > シーン5 【公演データ】
市後 「どうして帰ってもらわなかったんです?!」
ベリー 「こんなにすぐ帰ったら怪しまれるでしょ!」
市後 「でも…」
ベリー 「もし外の警官が様子見に入って来たらどうするの?」
市後 「…」
ベリー 「時間稼ぎするからあなたはメモを探して。」
市後、しぶしぶうなずき、メモを探し出す。
ベリー 「物音たてないでね!」
市後 「…絶対ばれると思います…」
ベリー 「シ〜ッ!戻ってくるわ!」
原、戻って来る。
原 「すみません、なんか食あたりっぽくて…あれ?柿崎さんどちらです?」
ベリー 「こっちこっち。」
原 「え?…こっちって…ここ、床ですけど…」
ベリー 「悪いけど、ここでやってくれないか?」
原 「え?、ここで?いや、ベッドの方が…」
ベリー 「いや、ここがいい。」
原 「でも結構痛い…」
ベリー 「ここがいい!」
原 「…そうですか。ま、いいならここで。」
ベリー 「すまんね、今日は床な気分なんだ。」
原 「床な気分。ま、それじゃさっそく。背中からやりますんでうつ伏せでお願いします。」
ベリー 「もううつ伏せ。」
原 「ありがとうございます。力抜いて下さいね。」
ベリー 「ああ。」
原、死体の背中を触る。
原 「え?」
ベリー 「え?」
原 「…これは…」
ベリー 「な、何?…」
市後、またひもを持ち構える。
原 「…僕もマッサージ始めて日が浅いですが…こんなに見事に力抜いてくれた人初めてです。」
ベリー 「あ、ああ!ええ?そうなんだ。昔から脱力には自信があってね。」
市後、ひもを降ろす。
原 「これはやり易いです。」
ベリー 「それは良かった。」
原 「あれですかね?お酒飲まれたせいですかね?」
ベリー 「あ、ああそうかもね。」
原 「結構飲まれましたね?」
ベリー 「え?ああ、そうそう、かなり酒臭いよねこいつ。」
原 「こいつ?」
ベリー 「あ、いや私、いや俺俺。」
市後、何かメモをみつけてベリーの元へ。ベリーその紙を見ようと立ち上がるが。
原 「あれ?お客さん、背中…あまりこってませんね。」
ベリー、慌てて戻り
ベリー 「そ、そうか?」
原 「ええ。」
ベリー、市後に紙を見せてくれるようにジェスチャーで指示。メモを手に取るが、全然違ったものだったので、もっと探す様に指示。
原 「じゃ、腰の方、行きますね。」
ベリー 「ああ。」
原 「手を頭の方にお願いします。」
ベリー 「え?」
原 「万歳みたいな感じで。」
ベリー 「ああ、はいはい。」
ベリー、死体の両腕を頭の方にあげる。
ベリー 「こんな感じ?」
原 「ありがとうございます。」
市後、別のメモを見つけ、またベリーに見せに来る。これも違うというジェスチャー。
原 「腰もそんなにですね。お客さんお仕事は?」
ベリー 「え?仕事?えっとあれです。あの…お店をちょっと。」
原 「お店?経営なさってる?」
ベリー 「ああ…」
原 「何関係の?」
ベリー 「え?えっとあれです…宝石とか…」
原 「宝石店ですか?凄いですね!あ、で、展示会を見に?!」
市後、また別のメモをもってくる。ベリーそれを見て
ベリー 「違う違う!」
原 「え?違うんですか?」
ベリー 「え?いや、そうそう!展示会、展示会を見に来たんだ!」
原 「いやあ、すごいなあ。ご家族は?」
ベリー 「え?家族…」
原 「ご結婚は?」
ベリー 「…ああ、している。」
原 「お子さんは?」
ベリー 「…娘が一人。」
原 「おいくつです?」
ベリー 「いやもう、結構歳で…嫁にもいかず仕事を…」
原 「お仕事は?」
ベリー 「その…私のために…宝石を…」
原 「ああ!おうちのお仕事を?海外に行って原石探したり?」
ベリー 「いや、まあ…そんな感じで…」
原 「すごいなぁ。」
ベリー 「なああんた。」
原 「はい。」
ベリー 「俺の話はいいから、なんか別の話しをしてくれよ。」
原 「話ですか?」
ベリー 「なんでもいいから、面白い話。」
原 「面白い話…」
ベリー 「相槌うたないで静かに聞きたい。」
原 「そうですね…あ、他のお客の話でもよいですか?」
ベリー 「いい、いい、それ言ってみよう。俺、相槌うたないけど。」
ベリー、死体の場所を離れてメモを探し始める。
原 「こないだ浅草に行った時、自分がヴァンパイアだとか言うお客様がいたんです。ヴァンパイアですよ。で、「血を吸うんですか?」って聞いたら、今は輸血用の血を分けてもらってるから吸わないんだって。面白いですよね。浅草には自分が妖怪だとか言う人も居て、ほら、スカイツリーが完成する直前に展望台の一部が壊された事件あったじゃないですか。テロだとか言われたやつ。実はあれ、妖怪とヴァンパイアの仕業だって言ってました。あとは、タイムマシンの基地で働いていたって方とか、そうそう、外に立ってる警官の方なんか、自分が赴任していた小笠原の島に、超能力者の学校があるとかって言ってました。最近こういう都市伝説流行ってますよね。嫌いじゃないですが。あ、あと、死後の世界に行ったとか言う人もいました。なんでも天国と地獄の間には、何とかって言う別の世界があって、そこで生きてた時の罪を浄化しないと天国に行けないそうですよ。」
ベリー、市後、手が止まる。
原 「ま、大きな犯罪を犯したら即地獄行きだそうですけどね。」
市後、肩を落とす。ベリーなだめる。気にしないでメモを探すように促す。
原 「あ、あとね、猫とか狸とかにチェロの弾き方を習ったなんて言う面白い方もいました。…あ、すいません…変な話ばっかりで…」
ベリー、慌てて死体のそばに戻る。
原 「ど〜もこう言うトーク的な事って下手くそで…」
ベリー 「いやいや、面白い!面白い!相槌うたなかったけど、全部面白い話だったよ!」
原 「そうですか。良かった。」
ベリー 「もっと、続けてくれ。また相槌うたないけど。」
原 「あ〜でも、他に面白い話って…」
ベリー 「面白くなくてもいいから。なんでもいいよ。あ、そうだ、あんたの事話してよ。」
原 「え?いや私の話は…」
ベリー 「この仕事始めたきっかけは?」
原 「あ、あの…それは…」
ベリー 「目が悪いのは生まれつき?」
原 「いやそれも…あれです…重たい話なんで…」
ベリー 「だいじょぶだいじょぶ。重たいのどんどん行こう。相槌うたないけど。」
原 「あ、あのその前にいいですか?」
ベリー 「なになに?」
原 「仰向けになってもらえます?」
ベリー 「…え?」
原 「仰向けです。手の方やりますんで。」
ベリー 「…あ、ああ、なるぼど。」
ベリー、焦る。市後に手伝えと促す。市後、渋々足の方を持つ。
原 「お願いします。」
ベリー、死体を転がそうと力を入れる。
ベリー 「ふんっ!」
うまくいかない。
ベリー 「重っ!」
原 「え?」
ベリー 「あ、いや、我ながら体が重いなと。」
原 「はあ。」
ベリー、もう一度チャレンジ。
ベリー 「ふんっ!」
市後と息が合わず、うまくいかない。
ベリー 「駄目だ、息があってない。」
原 「息?」
ベリー 「いや、なんか一度脱力するとその…力入れるのが難しくなっちゃって…」
原 「…え?」
ベリー 「あれだ、酒飲むと特に難しくなるって言うか…」
原 「…え?」
ベリー 「いや、だからね、ああもう「せーの」で行くよ!」
原 「せーの?」
ベリー 「せ〜の!ふんっ!」
なんとか転がる。
ベリー 「やった!」
原 「…。」
ベリー 「どうぞ。」
原 「…あ、なんかお手数おかけしてすみません。」
ベリー 「いやいや、それより話話、さっきの重い話でいいからさ。もうしゃべりたおしてよ。」
ベリー、市後に早くメモを探すように指示。原、腕をもみだす。
原 「あ、いや、でもやっぱり私の話は…どうです?」
ベリー 「え?」
原 「ここ、ちょっと強めにやってますが。」
ベリー 「ああ、気持ちいいね。」
原 「手もこってませんね。痛くはないですか?」
ベリー 「気持ちいい、あ〜気持ちいい。流石だね。」
原 「いえいえ、全然まだまだです。」
市後、原のかばんに足をひっかけ倒れる。
市後 「きゃっ!」
原 「え?」
ベリー、市後、緊張が走る。原、市後の声がした方に顔を向ける。ベリー「何してくれてんの?!」的なジェスチャー。
原 「今…誰か…」
市後、もうどうしていいかわからず、とっさに
市後 「と、父さん…」
ベリー「え〜っ?!!」っ的な顔。
原 「え?」
ベリー 「…ん?どうした?えっと…く、くるみ。」
市後 「え?本名で?」
ベリー 「あ、いや、だって、もうそれで。」
原 「いやあ、びっくりしました!娘さんもいらしてたんですね!」
市後 「は、はい…」
ベリー 「そうなんだよ。どうかしたか?くるみ。」
市後 「あ、えっと、探し物、中々みつからなくて…」
ベリー 「悪いが引き続き探してくれ。」
市後 「はい。」
ベリー、セーフセーフ、OKのジェスチャー。市後うなずいて探し始める。
原 「探し物ですか?」
ベリー 「ああ、仕事で必要な書類をどこかにしまったんだが、出て来なくてね。」
原 「そりゃ大変だ。あっ!!」
ベリー 「え?!」
原 「…すみません、またちょと…トイレいいですか?」
ベリー 「どうぞどうぞ!もう、ほんと、どんどん行っちゃって下さい!」
原 「ほんとすみません。」
原、ハケる。
ベリー 「ごゆっくり!」
ベリー、立ち上がり市後の元に。
(作:松本じんや/写真:関口空子)