△ 「心海のサブマリナー」シーン26


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岡田と光彦。光彦は椅子に腰掛けて頭をかかえ、落ち込んでいる。

岡田 「大丈夫か?…」写真

光彦、黙っている。

岡田 「…すまんの。こういう時、なんち声かけたらええか、わからんき。」

山田が入って来る。

山田 「岡田さんすみません、神くんを止められなくて…」
岡田 「山田、こういう時どうしたらいいんだ?」
山田 「え?いや、なんか元気の出る様な言葉とかなにか…」
岡田 「歌とかどうだ?」
山田 「あ!いいかも。」
岡田 「どうぞ。」
山田 「え?ぼくですか?」
岡田 「どうぞ。」
山田 「マジですか?えっと…元気が出る歌?…あ、あれだ、(それが大事)♪負けない事、らららららら事、らら…」
岡田 「歌詞を知ってる歌にしろ!」
山田 「ああすみません。えっと何だ?…元気…元気…あ、これなら!(手のひらを太陽に)♪ぼ〜くらはみんな…」
岡田 「死んでるだろ!」
山田 「死んでましたああ〜!」
光彦 「…何でですか?」
岡田 「え?」
光彦 「何で岡田さん達は、こんな世界に何十年も…。石川さんなんて300年?意味わかんねぇ…。おれなんか1秒だってこんな所にいたくないのに…」
岡田 「…それは…「けじめ」かな。自分の中の。」
光彦 「けじめ?」
岡田 「おれと艦長と石川さんには共通点があってね。みんな自分達のせいで、たくさんの仲間を死なせたんだ。」
光彦 「仲間って、土佐勤王党の事ですか?でも岡田さんはどんな拷問にも耐えて、決して口を割らずに…」
岡田 「それは映画や小説の話だ。本当は…軽い拷問にも耐えきれず、すぐに口を割ったんだ。子どもみたいにぴーぴー泣きわめきながら…」
光彦 「え…」
岡田 「幻滅したか?でもそれが真実さ。あの龍馬さんだって、きっとお前が想像している龍馬さんとは、だいぶ違うはずだ。」
光彦 「そんな…」
岡田 「石川さんは大泥棒一味の頭だったが、妻と子どもを人質に取られ、秀吉の暗殺を強要された。暗殺に失敗した一味は捕らえられ、全員釜ゆでの刑。妻は目の前で首を斬られ、幼い息子も一緒に釜ゆでにされた。」
山田 「え…」
岡田 「艦長は、太平洋戦争中、南方で戦っていたが、脱走して捕虜になった。しかしそのせいで味方の位置を知られ味方は全滅。艦長も射殺された。」
山田 「…初めて聞きました…」
岡田 「幾らポイントを稼いでも、自分達が「けじめをつけた」って納得するまでは天国なんて行けやしないのさ。」
光彦 「納得って、いつ…」
岡田 「さあな…おれにも分からん。石川さんはずっと居続けるつもりらしい。だが艦長は違う。」
山田 「え?」
岡田 「全滅して死んだ仲間と同じ数の魂を天国に行かせたら、自分も天国に行くそうだ。」
光彦 「死んだ仲間の数って?」
岡田 「千九百八十七名。」
光彦 「そんなに?」
岡田 「だが既に千九百八十二名、天国に送っている。」
山田 「あと5人?」
岡田 「順調に行けば、光彦くん、君が最後の一人なんだ。」
光彦 「え…」
岡田 「簡単にポイントをくれなんて言うな。欲しけりゃ、それなりの仕事をしろ。」
山田 「…そうだったのか…あ、そう言えばほおずきさんは?」
岡田 「あの人は特殊だ。とにかくこの「と界」が大好きなんだと。」
山田 「それは特殊だ…」

根本が入って来る。

岡田 「艦長。石川さんは?」
根本 「まだ気絶してます。しかし起きたらまた暴れ出すでしょう。」
岡田 「早いとこ魔族の手口を暴かないと。」
根本 「神くんは?」
岡田 「先程よりは。」

根本、光彦に隣へ。

根本 「すみませんでしたね。倉内の事も、有沢くんの事も。…まだ憎いですか?」

神、黙っている。

根本 「自分の死を、母親や倉内のせいにする事は簡単です。」写真
光彦 「ああそうさ。オレがこんなオレになったのは、母親に捨てられたからだ。」
根本 「倉内の事は?彼はさっき君がボタンを押してくれたから、命を落とさずに済んだ。」
光彦 「あれは…あの場の勢いでって言うか…」
根本 「彼はしっかりした青年です。」
光彦 「は?あの「野比のびた刑事編」みたいな奴が?」

根本、光彦にファイルを渡す。

光彦 「何だよこれ。」
根本 「倉内の経歴です。」
光彦 「こんなもの見て何が…ん?…なんだこれ?」
根本 「倉内来人、21歳、2002年7月21日生まれ。」
光彦 「おれと…全く同じ日生まれ?…」
根本 「血液型A型。そして…2歳の時から孤児院で育ってます。」
光彦 「うそだ…そこまで同じなんて…」
根本 「もちろん違う所もあります。彼は両親からの虐待を受け続け、2歳で捨てられた。そして、彼は死んでも両親に会えない。」
光彦 「え?どうして…」
根本 「彼の両親は今、2人とも地獄にいるんです。もしかしたら、君よりずっと不幸かもしれません。ですが彼は立派に成長し、警察官になった。並の苦労ではなかったはずです。」

倉内出て来る。

光彦 「あいつが…そんな…」
根本 「そして君の死に際、君の傷口を必死に押さえ、出口まで一人で運んだんです。自分も傷を負っていたのに。」
光彦 「あ、あいつが…」

倉内、ハケる。

根本 「結果的にはあなたが彼の命を救いました。そしてもう彼と関わることは無いでしょう。しかし、その事だけは、知っていてほしかったんです。」
光彦 「おれは…おれは…」

大きな音と共に艦が揺れる。

根本 「何だ?」
岡田 「艦の後方です。」
山田 「機関室に戻ります!」
光彦 「おれも行きます!」
根本 「頼んだぞ。」

全員走り去る。根本。岡田ははコックピットへ

(作:松本じんや/写真:はらでぃ)

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