△ 「心海のサブマリナー」プロローグ1


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静かな音楽で暗転。音楽が消えるとラジオから流れる歌、「里の秋」。
字幕「昭和二十一年三月」
字幕が消え、明転。ラジオの前で歌に合わせて唄う少女、秋子。1番が終わる頃、後ろから母、里子が現れる。

秋子 「あ、起こしちゃった?」写真
里子 「いいえ。」
秋子 「いいの?」
里子 「今日は滅法。」
秋子 「お薬効いた?」
里子 「秋子の歌声がいいお薬。」

少女、微笑み

秋子 「この歌、母さんと私の歌だもの。」
里子 「え?」
秋子 「『里の秋』。」
里子 「里子と、秋子で『里の秋?』」
秋子 「うん。」

微笑む二人。母が少し咳き込む。

秋子 「大丈夫?」
里子 「ええ。」
秋子 「あ、そろそろお薬もらって来るね。」

少女、外に向かう。

里子 「慌てないでね。」
秋子 「うん。」
里子 「近道、しないでよ。」
秋子 「え?はぁい。」

少女、外に出ようとすると、訪ねて来た隣人の志津子とぶつかりそうになる。

秋子 「あ、ごめんなさい。行ってきまぁす。」
志津子 「いってらっしゃい。」
里子 「すみません。志津子さん。」
志津子 「いえいえ。お薬を?」
里子 「ええ。」
志津子 「感心だねぇ。あ、これ、たかきび。」

志津子、布袋を差し出す。

里子 「いつもすみません。」

ラジオの歌を聴き

志津子 「『復員だより』。真一さんの知らせは?」
里子 「まだ、何も。」
志津子 「戦地の方々は大変だろうけど、待つ方も苦労だよね。」
里子 「あの人を待つのは慣れっこです。戦争前から。」
志津子 「そうそう、何かにつけ待たせる男だったね。」
里子 「おかげさまで辛抱強さがつきました。」

二人、笑う。

志津子 「終戦からもう半年だ。南方の引き揚げも進んでいるって言うから、もう少しの辛抱よ。里子さん。」
里子 「ええ。」

大きな爆発音。二人とも声を上げ、しゃがみこむ。

志津子 「今のは?!」
里子 「畑の方?」
志津子 「空襲?」
里子 「そんなはず…」
志津子 「でも、あの音って空襲の時の…」

農夫シゲが駆け込んで来る。

シゲ 「大変だあ!」写真
志津子 「シゲさん、今のは?!」
シゲ 「秋ちゃんが!秋ちゃんが!」
志津子 「秋ちゃんがどうしたの?!」
シゲ 「不発弾だ…不発弾の爆発に巻き込まれた…」
志津子 「何だって?!」
「そんな!…秋子…秋子!!」

母、外に飛び出そうとするが目眩を起こし、へたり込む。志津子が抱える。

志津子 「里子さん!シゲさん誰か呼んで来て!」
シゲ 「あ…ああ!」
「秋子!秋子!」

咳き込む母。

志津子 「里子さんしっかり!」
里子 「…秋子…」

ゆっくり暗転。

(作:松本じんや/写真:はらでぃ)

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