△ 「時空の異邦人」シーン13


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こっそりと入り込む桃太郎と吉山。

吉山 「ここが、あじと?」写真
桃太郎 「ざくろさんが言っとった場所はここじゃ。誰もおらんようじゃが?」
吉山 「あれは!」

吉山、何かに気づき走り寄る。

桃太郎 「みつけたか?」
吉山 「ああ、これだ。間違いない、試作機だ!」
桃太郎 「確かに。吉山殿の社とそっくりじゃ。」
吉山 「汚れてはいますが、同じ型なんです。」

吉山、汚れを落とす動作。そして何かに気づく。

吉山 「ん?なんだこれ?」
桃太郎 「なんじゃ?」

そこをみつめる吉山の顔が青ざめて行く。

吉山 「…これは…こんなばかな…いったいどう言う事だ?」
桃太郎 「いかがされた?」
吉山 「これは試作機じゃない…」
桃太郎 「探していたのはこれではないのか?この妙なものは雷様の国の文字じゃな?一体何と書いておるのじゃ?」
吉山 「…サルベージ・ツー…」
桃太郎 「猿べえ?誰じゃそれは?」
吉山 「どうしてここにこれが…」

電光登場。

電光 「試作機ならその奥じゃ。」
桃太郎 「うぬが電光か?」
電光 「いかにも。うぬは…桃太郎じゃな。…ほほう、これはこれは、あの時の「のちの目」の息子であったか。」
桃太郎 「なぜ知っておる?」
電光 「我は人間の心を読めるのじゃ。」
桃太郎 「電光!父の敵じゃ!覚悟!」
電光 「クククク!父の顔も知らぬのに敵討ちとや?笑わせおる。」
桃太郎 「たわけ!!」写真

桃太郎、電光にかかって行くが全てかわされる。

電光 「無駄じゃ。言うておるじゃろ。我は人の心が読めると。」

電光、桃太郎の肩を斬る。

桃太郎 「うっ!」
吉山 「桃太郎さん!」
桃太郎 「くっそお…」

吉山,前に出て銃を構える。

電光 「桃太郎さん。クククク♪も〜もたろさん、ももたろさん…残念じゃが仇はうてそうにないのぉ」
吉山 「ちょっと待て、なぜその歌を知っている?」
電光 「歌とや?…♪おこしにつけたぁ きびだんご〜…」
吉山 「その歌が出来たのは明治時代後期だ。この時代の人間が知っているわけがない。」
電光 「そりゃそうじゃ。我の記憶から出て来た歌じゃからのぉ。」
吉山 「やはり、お前は我々の時代の人間か。」
電光 「いかにも。じゃが桃太郎。お前もこの歌の続きを知っとるのでは?」
桃太郎 「たわけ。そんな歌など…ん?」
電光 「♪おこしにつけたぁ きびだんご〜…」
桃太郎 「…♪ひとつぅ…私に…下さいな…。なぜじゃ…なぜ知っとる…」
吉山 「まさか…桃太郎さんも?…」
電光 「否否。我がおぬしの母を桃の木に変えた時、妖気と共に我の記憶の一部も、桃の木に移ったらしい。」
吉山 「記憶が移った?…」
電光 「更にその記憶が、息子の桃太郎へ…」
吉山 「それで犬、猿、きじの名前も…」
電光 「我の記憶にはよほど桃太郎が強く残っているらしいの。マー君。ママど〜して?マー君。…」
吉山 「マー君?…」
電光 「おぬしに我は撃てぬ。のぉ、かずき。」
吉山 「かずき?…深町?お前深町か?!」
桃太郎 「吉山殿、こやつを知っておるのか?」
電光 「知っておるも何も、親友じゃからの。」
桃太郎 「親友?」
吉山 「お前…何やってんだ?いったい何やってんだよ!」
電光 「さあ?この人間の意識など、とおにないからのぉ」
吉山 「なにっ?!」
電光 「さてさて、それではおとぎ草子と参りましょう。むかぁしむかしじゃのうて、のち〜ののちの、そのまたのちのことじゃった。過去に飛ばされた試作機を回収すべく、チーム「サルベージ・ワン」が時を越えたそうな。ところが途中で事故を起こし、どこかに不時着してしまいました。そこで今度は両方を回収すべく、4人のチーム、「サルベージ・ツー」が時を越えたそうな。」
吉山 「やはり、出動していたのか…」
電光 「サルベージ・ツーは試作機と同じ場所に到着したものの、着陸に失敗。タイムマシンは大破し、4人は瀕死の重傷。かろうじて動けたこの深町が他の三人を救い出すも、三人とも虫の息。途方に暮れる深町は、試作機の中で、ボックスとあるメッセージを発見したそうな。」
吉山 「メッセージ?」
電光 「それは試作機をここに飛ばした「次元エネルギー電池」の生みの親。近野博士が残したメッセージじゃった。博士は自分の生み出した電池が、生き物の魂を融合させてしまうと言う、恐ろしい力があることに気づいてしまった。しかもそれを狙う隣国のスパイがプロジェクトのスタッフに潜んでいることも。」
吉山 「我々のプロジェクトにスパイが?」
電光 「自分の発明した電池によって、世界が混乱すると考えた近野博士は、残りの電池と開発データを遥か古代へ送ってしまおうとした。しかし細工を失敗し、本人は死亡。試作機は古代ではなく、この時代に落ちたそうな。」写真
吉山 「あの事故にはそんな理由が…」
電光 「さてさて、そんなデータを発見したこの深町は、仲間三人を救うべく、かけに出たそうな。まずは自分を 実験台に。捕らえた狐と自分の魂を融合させてみました。するとどうでしょう。みるみるうちに力が漲り、怪我も治っていくではありませんか!早速他の三人にも、仕掛けた罠にかかった動物の魂と融合してあげました。かけは見事に成功。三人は息を吹き返し元通りに。所がこれには大変な副作用があったのです。人間の魂は次第に動物の魂に飲み込まれていくではありませんか!こうして深町の魂と脳みそは狐に乗っ取られ、狐は次々に化身を生み出す山の神になったそうじゃ。めでたし、めでたし。」
吉山 「お前の中に、もう深町はいないのか?」
電光 「クククク。そうかもな。」
吉山 「それなら、撃てる!」

吉山、電光に銃を向け直すが、同時に電光も吉山に銃を向ける。

電光 「我が持っておらぬと思ったか?こんな便利なもの。ククククク…」

(作:松本仁也/写真:はらでぃ)

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