△ 「トワの宇宙」シーン29


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GR1 「人類を救えるのは、我々ジニアスしかいない。」
GR2 「しかし人間の寿命は100年足らず。人間として人類を導くには余りにも時間が短い。」
GR1 「そこで我々は体を捨て、自らバイオコンピューターとなったのだ。」
トワ 「人類を導く?…」
大統領 「トワねーちゃんの能力はカタルシス。メシアよ。私の能力で調べたから間違いない。約束通り、他の生存者の命は保証して頂けますね。」
GR1 「残念だがそれは出来ない。」
大統領 「は?」
GR1 「その子の研究には時間がかかる。すぐに人類を救えるわけではない。その間に彼らが秘密を漏らせば、あっという間に人類は滅びる。」
大統領 「待って下さい!話が違います!」
GR1 「彼らのいるデルタ地区を切り離し、大気圏で消却処分する。」
トワ 「消却処分?どうゆうこと?みんなは?…みんなはどうなるの?!」
大統領 「グラディウス!あなた一人で実行できる権利はないわ!姉さん止めて!」
GR2 「ごめんなさい。人類のためなの。」
大統領 「姉さん…」
GR1 「デルタ地区切り離し5秒前。」
大統領 「グラディウス!やめて!」
GR1 「4・3・」
大統領 「姉さん!」
GR1 「2」
トワ 「ケイちゃん!」
GR1 「1」

轟音。

GR1 「切り離し成功。」写真
トワ 「…どうして…どうしてこんな事…」
キム 「この子の通信を聞いたからよ。」
トワ 「キムさん、セカイ君…」
GR1 「よく連れて帰ってくれた。」
キム 「はい、父さん。」
トワ 「…父さん?」
大統領 「二人は姉さん夫婦の子供。」
トワ 「子供って…随分前に亡くなったんじゃ?…」
キム 「クローンよ。」
トワ 「クローン?」
キム 「私もセカイも、亡くなった子供のクローン。育ての親は、そこの大統領。」
大統領 「ユウリ、セカイに何をしたの?」
キム 「喋れなくしただけよ、当然でしょ。この子のお喋りのお蔭で6万人も死んだんだし。」
大統領 「ユウリ!」
トワ 「…どうして?…」
キム 「は?」
トワ 「どうしてみんなが死ななきゃならないの?地球を守るために、命がけでエイリアンと戦っている人達が、どうして味方のあなた達に殺さなきゃならないのよ!」
レパード 「我々にも教えてもらいましょうか!」

兵士達全員出て来る。キム、とっさにセカイを人質にとる。

トワ 「みんな!」
アイ 「トワ!こっち!」
トワ 「アイちゃん!」

トワ、アイの方に逃げる。

大統領 「アイちゃん?」
アイ 「誰?」
トワ 「大統領よ。」
アイ 「えっ?!しっ、失礼致しました!」

敬礼。みんなもどよめく。

大統領 「あなたも生きていたのね、アイねーちゃん!」
アイ 「は?」
トワ 「わからない?ミーちゃんよ?!」
アイ 「え?…ミーちゃんって…あのミーちゃん?」
大統領 「ええ。」

佐倉、大統領の前へ。

佐倉 「遅くなりました。」
大統領 「佐倉さん、良くやってくれました。」
GR2 「どうゆうことですか大統領?」
大統領 「あなた方が約束を破る事も想定して、佐倉さんに動いてもらっていたの。」
レパード 「まさか、このバイオコンピューター自体がエイリアンに乗っ取られている?」
大統領 「…その方がまだましだったかも知れない…」
レパード 「どういう意味ですか?」
大統領 「…そもそも…エイリアンなんて…存在しないの。」
レパード 「は?」
アイ 「何いってるの?」

皆、ざわめき出す。

レパード 「エイリアンが存在しない?…じゃあ我々は何と戦っているっていうの?」
キム 「アンドロイドだ。」
レパード 「それはエイリアンに…」
キム 「乗っ取られてなんかいない。我々が改造した純粋な地球製。」
アイ 「地球製って…それじゃ…」
GR1 「この戦争は我々が始めたのだ。」
レパード 「なんですって?!」

皆混乱する。

レパード 「あなた方が始めたって…いったいどうしてそんな事…」
GR2 「人類を守るためよ。」
ミキ 「は?なによそれ?」
GR1 「この戦争を始めなければ、人類は半世紀前に滅んでいた。」
キム 「マグネティックインパクト。あれはエイリアンが落としたものじゃない。」
小嶋 「じゃ…あれもお前らが?!…」
キム 「それも違う。あの隕石は自然に落ちたもの。でもその後すぐ、人類は世界中で戦争や紛争を起こした。」
GR1 「我々ジニアスの科学者達は計算できてしまった。そのまま戦争が続けば、たった二年で人類と、地球上の動植物の80%が絶滅する事を。」
写真 GR2 「私たち科学者は考えた。どうすればこの事態を回避できるのかを。そして全員の意見が一致した。全人類が一つになるためには、全人類の敵を創ればいいと。」
レパード 「だから架空の敵を…」
GR1 「我々の思惑通り、全ての怒りの矛先はエイリアンに向けられた。共通の敵を倒すため、人類は一つになった。」
アイ 「じゃあどうして?作られた戦争でどうして人が死ぬのよ!」
GR2 「死者を出す予定ではなかった。しかし、アンドロイドに任せっきりの戦争は、結局人間から危機感をなくし、再び人間同士の紛争が始まった。そこでアンドロイドを敵にまわし、生身の人間を戦わせる事にした。」
GR1 「それでも戦死者は殆ど出さなかった。ところが人間の中には、この作られた戦争に気付いてしまう者が出て来た。そうゆう者達から消えてもらったのだ。」
ライアン 「茶番だ…人類史上最大の茶番劇だ!いったい俺たちは何のために戦って来たんだ?!死んで行った仲間達は何のために…」
GR1 「人類存続のためだ!人間から戦争を切り離す事はできない!人間は平和を求めながら戦争も求める未完成な生物だ!求めるならば与え続けるのみ。」
GR2 「我々ジニアスは、そんな人類を存続させるために生まれたのよ。我々は人類を守らなければならないの。人類が、後一歩進化するまで。」
大統領 「その時が来たかもしれないのよ。」
レパード 「え?」
大統領 「トワねーちゃんの能力を使えば、人類が戦争から解放されるかもしれないのよ。」
GR1 「本当にそうだと思うか?良く考えてみろ。人類は争いの中で進歩、進化してきたのだ。戦う気が無くなった生物の末路は結局絶滅だ。その子は救世主どころか、人類にとっては悪魔なのかもしれんのだ。」
アイ 「馬鹿じゃないの?」
キム 「何?」
アイ 「争う事と戦う事は違うわ。私達は毎日色んな事と戦ってる。それを乗り越えて生きてる。トワの力はそんな気持ちを消したりしない。恨みとか、憎しみとか、強欲とか、そうゆうものを消してくれる力なの。天才のくせにそんな事もわからないの?!」
大統領 「アイねえちゃんの言う通りよ!トワねえちゃんは光なの!人類がやっと見つけた光なのよ!姉さん!目を覚まして!」
トワ 「私にできる事…私の力で出来る事…」
GR1 「直接触れた人間を一時的に浄化させる位の力では、何もできやしない。」
大統領 「できるわ。セカイの力を借りれば。」
トワ 「セカイ君の力?」
大統領 「セカイもジニアス。その能力は触れたジニアスの能力を一時的に何倍にも増幅させる事。」
アイ 「それじゃ、トワが触れれば…」
大統領 「バイオコンピューターの脳でさえ変化させてしまう。」
GR1 「…何を言っている。」
大統領 「あなたはそれを恐れている。だからトワとセカイを触れさせなかった。私が知らないとでも思っていたの?」
トワ 「私が…セカイ君に触れれば…」
キム 「残念だけど、セカイがこんな状態では無理ね。その力はコントロールが必要。コントロールできなければ、相手の脳を破壊し、殺してしまう。」
アイ 「そんな…」
キム 「どちらにしろ、セカイの意識がハッキリしていなければ無理ね。」
セカイ 「意識がハッキリしてなければね。」
キム 「そう、意識が…え?」

セカイ、隠していた銃をキムに向ける。

セカイ 「銃をよこせ。」
キム 「あんたいつから…」
セカイ 「駅に着いたあたりかな?このチャンスを待ってたんだ。」

キム、セカイに銃を取られる。

セカイ 「トワさん。僕の手を。」

セカイ、手を差し伸べる。

アイ 「トワ。」

トワ、うなずき、セカイに近づいて行く。みんな見守る。

GR1 「待てトワ。お前はセカイに触る事はできない。」
トワ 「え?」写真
GR1 「その子の名前は世界と書くのではない。」

スクリーンに『世界』の文字。それが『蝉・蝸・蝟』に変わる。

GR1 「セミ、カタツムリ、ハリネズミと書いてセカイ。虫偏が三つだ。」
セカイ 「は?何の話しだ?」

トワ、後ずさりし始める。

セカイ 「え?どうしたのトワさん?」
アイ 「まずい…こんな時に…トワは苦手なの!その…そうゆうのが!」
セカイ 「え?…虫偏が?」
トワ 「嫌っ!」
アイ 「駄目駄目駄目駄目!」
セカイ 「え〜っ?!」
ジャック 「なんてひどい名前なんだ…」
セカイ 「嘘だ!僕の名前はカタカナだ!だいたい子供の名前付けるのにセミとかカタツムリとかありえない!あいつの言葉なんて無視し…」
トワ 「いやあっ!」
アイ 「駄目駄目駄目!」
セカイ 「え〜っ?!」
GR2 「調べはついています。さあ思い出して。あの夏の日の冷やし中華。」
トワ 「…やめて…」
アイ 「まずい…」
レパード 「冷やし中華?」
ライアン 「何の話しだ?」
GR2 「冷やし中華に大好きな白ごまを沢山かけて食べていた。」
トワ 「やめて!」
GR2 「でも食べているうちに気がついた…そのごまには…虫が湧いていた…」
トワ 「いやあああっ!」
全員 「うぇぇぇっ…」
ジャック 「そりゃ駄目…そりゃ駄目…」
GR1・2 「ムシムシムシムシムシムシ…」
トワ 「きゃあああ!」
アイ 「トワ!耳を塞いで!」
レパード 「なんて幼稚な攻撃を!」
アイ 「でも、一番効く攻撃!」
セカイ 「トワさん!」

隙を見てキムがセカイの銃を奪おうとして取り合いになる。

セカイ 「くっそお!」

セカイ、キムを振り払いトワに駆け寄る。

セカイ 「トワさん!」

銃声。キムがセカイを射ち、セカイ倒れる。

大統領 「セカイ!」
トワ 「セカイ君!」

キム、へたり込む。セカイ、力を振り絞って手を差し伸べる。

セカイ 「トワさん…」

トワ、セカイに近づく。

GR1 「やめろ…触れるな…」写真
GR2 「そんな状態のセカイに触れれば、あなたは死んでしまう。」
アイ 「トワ!」
トワ 「これが私にできる事。」

トワ、セカイの手を取る。

GR1 「やめろぉ!!」

セカイ、トワ、苦しみ出す。まわりも頭をかかえて苦しみ出す。照明も安定しなくなり、最後にガラスの様な
音とともにフラッシュし、暗転。ゆっくり元の明りに戻ると、みんな倒れている。が、次々に意識が戻る。

アイ 「トワ!」

アイ、トワに駆け寄る。

アイ 「トワ!しっかりして!トワ!」

大統領、セカイに駆け寄る。一緒にジャックも駆け寄り、セカイを診る。

大統領 「セカイ!セカイ!」
セカイ 「ううっ…」
大統領 「セカイ!」
ジャック 「大丈夫、弾は貫通してます。急所もそれてる。」
アイ 「トワ!目を開けて!トワ!」

ゆっくり目を開けるトワ。

アイ 「トワ!」
トワ 「アイちゃん…」
アイ 「トワ、良かった!」
トワ 「皆は?」

みんな半べそをかいている。

小嶋 「山田、今までひどい事ばっかり言ってすまん!」
山田 「俺の方こそすまん!」
シンプ 「神様すみません!もう死ぬなんて言いません!」
ライアン 「娘を幸せにしてくれぇ!」
フォック 「お父さん!」
ミキ 「お父さん。」
レパード 「お父さん。」

キム、フラフラ起き上がり。キム、泣きながら銃を自分の頭に向ける。

キム 「ごめんなさい…ごめんなさああい!」

キム、引き金を引く瞬間、後ろから銃をルナに取りあげられる。

キム 「…あなた…いつからそこに?」
ルナ 「さっきから。」
レパード 「グリとグラはどうなりました?」
大統領 「姉さん!」写真
GR2 「ごめんね、ミーちゃん。」
大統領 「姉さん…」
GR2 「トワねーちゃんなら…きっと人類を救えるわ…」
大統領 「…良かった…元の姉さんだ…」
アイ 「グラディウスは?」
佐倉 「しまった!逃げられました!」
大統領 「逃げた?」

高台の緑の光が消えている。

佐倉 「本体をガンマ地区に移されました!ガンマ地区、切り離し準備に入っています!」
大統領 「いつの間に…」
キム 「ここで話しながら時間稼ぎしていたのよ。」
GR2 「私が止めに行きます。」
大統領 「姉さん…」
GR2 「私も本体をガンマ地区に移します。まかせてミーちゃん。」
大統領 「姉さん!」

高台の赤い光が消える。

ハル 「師匠が居ません。」
アイ 「え?」
ルナ 「そう言えばさっきからずっと…」
ハル 「ガンマ地区!カプセルを調べに行ったんだわ!」
佐倉 「カプセル?…そうか、グラディウスはカプセルのジニアス達を連れて逃げる気です! 」
ハル 「行ってきます!」
佐倉 「しかし、ガンマ地区まで2キロ近くあります。切り離しまで後2分しか…」
ハル 「私の足なら間に合います!」

ハル、ダッシュで去る。

ルナ 「ハル!」
アイ 「直ってた…」
ルナ 「え?」
アイ 「しゃべり方、直ってた。」
ルナ 「あ…」

(作:松本仁也/写真:はらでぃ)

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