△ 「ニンフ」本景4:part2


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「ふゆか」にっこり笑う。

「ふゆか」 「4人、みんなの子です!」

間。

幹夫 「…はい?」
「ふゆか」 「だから、みんなの子どもなの」
「みんなって…一人の子が?」舞台写真
「ふゆか」 「違う違う。ひとりずつ、全部で4人、いるの。あたしのお腹の中には」
アトム 「よ、四つ子!?」
4人 「シエッー!」
「ふゆか」 「おそ松くんは六つ子だよ」
「冷静につっこむな!」
アトム 「その四つ子の父親は」
「ふゆか」 「だから、みんなだってば。一人ひとりがパパなの」
幹夫 「そんな馬鹿なことがあるか!」
「ふゆか」 「でも、本当にそうなんだもの」
幹夫 「お前なあ、冗談もほどほどに…」

幹夫の体がぐらりと揺れる。

アトム 「ど、どうしました!?」
幹夫 「…なんだか…眼が、まわ、る…」

がくん、と椅子に倒れ込む幹夫。

「おい、しっかりしろ!おい!」
伸介 「何かいれたのか!?」
アトム 「とととんでもない…」

いいざま、アトムも倒れる。

伸介 「難波さん!」
「…わかった!…あの、ワインだ…」
伸介 「え…」
「…そう、だ、ろ…「はるか」…」
「ふゆか」 「(にこにこ笑いながら)ウン」

ふゆかの返事とともに、3人、椅子に座り意識を失う。

伸介 「北条さん!滝口さん!アトムさあん!」
「ふゆか」 「見事に効いたねえ」
伸介 「何を入れたんだ…」
「ふゆか」 「毒じゃないよ、クララの根っこ。強い催眠作用があってね、熊でも眠るんだ」
伸介 「そんな…」
「ふゆか」 「計算では全員眠っているはずだったんだけどな。伸さんが下戸だってこと、すっかり忘れてたよ、あたし」

「ふゆか」に近づこうとして、伸介の足がもつれる。
「ふゆか」支える。

「ふゆか」 「眠い?」
伸介 「(首を振って)目眩が、少しだけ…」
「ふゆか」 「そう」

「ふゆか」隣の部屋から重そうなトランクを引っ張ってくる。

伸介 「なんだ、それ…」
「ふゆか」 「言ったでしょう、故郷に帰るの。その荷物」舞台写真
伸介 「帰るって…これから?」
「ふゆか」 「うん」
伸介 「だって今から行っても、電車も飛行機も…」
「ふゆか」 「あたしの故郷へは、電車でも飛行機でも行けやしない」
伸介 「じゃ、どうやって…」
「ふゆか」 「飛んで、行くの!」

「ふゆか」窓をいっぱいに開ける。
飛び込んでくる風の音、はためくカーテン、ゆれる灯。

伸介 「…冗談は、いいかげんにしてください…」

「ふゆか」にこっと笑う。

「ふゆか」 「持ってて」

トランクを伸介に預ける。
眠る3人のもとへ行き、一人一人に別れのキスをする。

「ふゆか」 「さよなら、たきりん。奥さんやお嬢ちゃんを大切にね。さよなら、難波さん。カレー、本当に美味しかったよ。さよなら、キュウちゃん。お嫁さんになってあげられなくて、ごめんね。でも、とっても嬉しかった」

「ふゆか」伸介のところへ。
トランクを、受け取る。

「ふゆか」 「ありがとう、伸さん」
伸介 「お腹の子は4人の子って…本当なんですか」
「ふゆか」 「言ったでしょう。あたしはみんなが大好きだって。だからねえ、どうしてもどうしても、みんな連れて帰りたかったの」
伸介 「故郷、へ?」
「ふゆか」 「(頷いて)そしたら、いつまでもみんなと一緒に、いられるじゃない…」

風が、一段と高く低くうなりをあげる。
「ふゆか」伸介をきつく抱き締める。

「ふゆか」 「さよなら、でも、また会えるから」

トランクを受け取る「ふゆか」。
吹き荒れる風の中に立つ。

伸介 「…待ってくれ…「ふゆか」…」舞台写真
「ふゆか」 「…教えてあげようか。あたしの、本当の名前」
伸介 「…聞きたくない!あなたは「ふゆか」。私にとってあなたは「ふゆか」それだけで…」
「ふゆか」 「あたしの、名前はね…」

しかし、伸介、魔法のようにその場に倒れこみ意識を失う。
「ふゆか」いたずらっ子のように微笑んで。

「ふゆか」 「…ごめんね。父さんに、しかられる」

そして、
彼女は、
風にきえる。
転。

(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)

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