トップページ > ページシアター > ニンフ > 本景4:part1|初演版 【公演データ】
炊飯器の、御飯の炊けた合図の電子音がする。
アトム 「ご、御飯が炊けたようです」
伸介 「炊けたって」
久 「炊けたってよ」
幹夫 「なんで俺が」
久 「炊飯係だろ」
幹夫 「ちっ」
幹夫、炊飯器のふたを開ける。
幹夫 「うわ、固まってる!!」
久 「馬鹿、かき回すんだよ、しゃもじで」
幹夫、危なっかしく混ぜる。
アトム、その手を掴み、しゃもじの上の米粒を点検。
緊張の一瞬。
幹夫 「…いかがでございましょうか」
アトム 「合格」
ほっとする3人。
伸介 「難波さん、カレーもそろそろいいんじゃない」
アトム 「そそうですね。本来ですとあと5時間は煮込みたいところですが…」
久 「さっさと食おうぜ。腹が減って、眼が回りそうだ」
伸介 「「ふゆか」!カレーできたぞ」
手に赤ワインの瓶を1本持って「ふゆか」あらわれる。
「ふゆか」 「いい匂い。ご苦労さま」
幹夫 「ホント、ご苦労だったよ」
久 「「はるか」、なんだそれ」
「ふゆか」 「今日はお祝いの日だからね、奮発していいの買っちゃった」
久 「お祝い?なんの?」
「ふゆか」 「みんなに会えた、お祝い」
久 「貸せよ…開いてるじゃないか」
「ふゆか」 「ちょっとだけ味見した」
久 「不良妊婦」
「ふゆか」 「不良ニンフ」
久、コルクを抜いて「ふゆか」に渡す。
その間、テーブルにはカレーが配膳される。
「ふゆか」 「おいしそう」
幹夫 「当たり前だ。命がけで作ったカレーだからな」
アトム 「じゃ、じゃあいただきましょうか」
「ふゆか」 「その前に乾杯しよう」
競うようにグラスを出す4人。
「ふゆか」注いでまわる。
「ふゆか」 「はい、たきりん。…良かったね、これで奥さんいない時もカレーだけは作れるね」
幹夫 「よけいなお世話だ」
「ふゆか」 「はい、難波さん」
アトム 「ああありがとう」
「ふゆか」 「どうぞキュウちゃん」
久 「どうも」
「ふゆか」 「伸さん…」
伸介 「あ、私はいいです」
幹夫 「下戸か」
伸介 「ええ」
「ふゆか」 「でも、せっかくだから…ね?」
伸介 「じゃ、ひとくちだけ」
「ふゆか」伸介に注いでのち、自分は水を注ぐ。
アトム 「な「なつか」ちゃんは飲まないの」
「ふゆか」 「うん。お腹の子に悪いでしょ」
久 「よく言うよ」
「ふゆか」 「乾杯!」
幹夫 「何に?」
「ふゆか」 「みんなと出会えた奇跡に」
久 「奇跡、か。俺はどっちかっていうと「はるか」にカンパイだな」
4人 「キッザ〜」
幹夫 「や〜ね」
久 「馬鹿!…カンパイはカンパイでも完全なる敗北、の方だ」
伸介 「あ、なるほど」
アトム 「う、うまいこと言う」
「ふゆか」 「どっちでもいいよ。さ…」
「ふゆか」グラスをあげる。
久 「「はるか」に」
アトム 「「なつか」に」
幹夫 「「あきか」に」
伸介 「「ふゆか」に」
男4人 「完敗!」
「ふゆか」 「…乾杯」
飲み干す、間。
アトム 「い、いただきます」
伸介 「いただきます」
伸介、ひとくち食べる。
伸介 「うまい!」
アトム 「そ、そうでしょう」
幹夫 「どれ…辛い!!(アトムの視線を感じて)…けど、うまい…」
久 「確かに全日本カリー友の会が作っただけあるな」
4人賑やかに食べる。
「ふゆか」もうれしそうにカレーを口に運ぶ。
幹夫 「故郷に帰る準備は進んでるのか」
「ふゆか」 「うん。もう終わった」
アトム 「ど、何処なんです、故郷は」
「ふゆか」 「遠く」
アトム 「ほ北海道とか沖縄とか…」
「ふゆか」 「もっともっと遠く…この世界の、ずっと向こう…」
幹夫 「外国か!?」
叫んだ拍子にむせる。久、水を飲ませてやる。
久 「大丈夫か」
幹夫 「すまん」
「ふゆか」 「もっと飲む?」
「ふゆか」ワインを注ぐ。
幹夫 「ありがとう」
久 「…そんな遠くに行くのなら…。ちゃんと教えてから行ってくれ」
「ふゆか」 「何を?」
久 「とぼけるなよ、誰が父親か、わかってるんだろう、本当は」
「ふゆか」 「ウン」
4人、同時に激しくむせる。
取り乱して水やワインを飲み込む。
「ふゆか」 「みんな、大丈夫?」
幹夫 「だ、誰だ!?誰の子なんだ!!」
「ふゆか」 「やだたきりん、タマネギ飛んできた」
幹夫 「どうでもいいだろう、そんなこと!」
4人 「俺の子だよな!!」
4人、言ってから互いを見合わせ。
ふゆか、うれしそうに。
「ふゆか」 「じゃ、発表するけど…覚悟はいい?」
4人、神妙に頷く。
「ふゆか」 「あたしのお腹の中のこどもは…」
伸介 「お腹の子は?」
(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)