△ 「ニンフ」本景2:part3


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残された、男3人。

「…エライことに、なったもんだな…」
アトム 「ほ、本当に」
幹夫 「…あんたに言われたかねえよ」
伸介 「こうしていてもしょうがない。とにかく、カレー、作りましょうか」
アトム 「そそそうしましょう!!!作っているうちに、何か名案がうううかぶかもしれません!」

いそいそと材料の準備を始める。

幹夫 「羨ましいぜ、楽しそうで」
アトム 「まままず、野菜を洗わないと。ええええと、ぼ、ボウル」

アトム、ボウルを捜して何か散らかす。
騒がしい音。見かねて

「分担しよう。その方が早い」
伸介 「そうですね。じゃあ、僕洗いますから、えっと…」舞台写真
「北条。北条久。思えば俺たちお互いの名前すら知らないんだな」
伸介 「吉田伸介です」
アトム 「な難波アトムです」

幹夫が口を開きかけると。

「たきりん」
幹夫 「うるせえ!…滝口だ。滝口幹夫。…初めまして、かな」
伸介 「たぶん。…初めまして」
「しばらく、よろしく」
アトム 「よろしく」

4人、エプロン姿のお互いをみやり。

幹夫 「…なんか、ヘンだな」
「ああ。…すごくヘンだ」

深い、間。

アトム 「さ、さささあ、野菜を洗って切りましょう」
伸介 「じゃがいもと人参と…たまねぎも切っちゃっていいですよね」
幹夫 「ああ」
アトム 「だ、駄目です!たまねぎは、まずみじん切りにしないと!」
伸介 「なんで?」
アトム 「みみみみじん切りのたまねぎを炒めると、カリーにコクと深みが出るんです。ででですから…」
幹夫 「いいじゃんそんな面倒くさいこと。ざくざく切って…」
アトム 「…コクと、深みが、でるんだよ…」
幹夫 「…切らさせて、いただきます…」
伸介 「…難波さんに逆らうのは、やめましょうよ…」
「意外な男が、一番デンジャラスだったな…」

しばらく、野菜を洗い、切り、下拵えをする4人。
ややあって。

アトム 「…あ、あの子、いいいいったい、どういうつもりなんでしょうね」
「さあな。金目当てとも思えないしな」
幹夫 「いや、わからんぞ。こうしてさんざん脅しておいて、最後に多額の慰謝料を請求する…」
伸介 「滝口さん、「ふゆか」さんがそんな女に見えますか?」
幹夫 「…いや」
伸介 「でしょう。だいたい「ふゆか」さんの性格からして…」
幹夫 「だけどな、女は怖いぞ。いくら「あきか」だっていざとなれば…」
「俺もそう思う。確かに「はるか」は普段は温厚だけど、妊娠したとなると…」
伸介 「まって下さい。いくらなんでも「ふゆか」さんがそんな…」
アトム 「をををををををを!!!」

包丁を振り回すアトム。
おびえる3人。

幹夫 「あ、あのお…わたくし達、なにかお気にさわることを、申し上げましたでしょうか?」
アトム 「(はっとして)すすすみません。いいいいえ、ただ、ただその…」
伸介 「その?」
アトム 「…皆さん方の、彼女の呼び方が、どうも…気になって…」

顔を見合わせる3人。

伸介 「でも、しょうがないでしょう。彼女は、私に「ふゆか」と名乗ったんです。だから私にとっては、彼女は「ふゆか」さんでしか、ありえないんですよ」
アトム 「そ、それを言ったら、僕にとっては「なつか」なんです」
「俺には「はるか」って名乗ったんだぜ」舞台写真
アトム 「な、名前の由来だって話してくれましたよ。“夏の日ざしのように強く”」
「“春の日ざしのように明るく”」
幹夫 「“秋の日ざしのように優しく”」
伸介 「“冬の日ざしのように柔らかく、そしてなにより”」
4人 「“美しく”」

間。

伸介 「…由来まで一緒とはね」
「手を抜きやがって…」
アトム 「ああああなたも」
「え?」
アトム 「じゃ、じゃがいもの芽。…ちゃんと取って下さい」
「(舌打ち)…どいつもこいつも…」

再び下拵え。

伸介 「難波さん、人参、これでいいですか?」
アトム 「じょ、上等上等」
「上手いじゃねえか」
伸介 「一人暮らしが長かったものですから…滝口さん、そろそろたまねぎ…」

幹夫、泣いている。びっくりする伸介。

幹夫 「たまねぎが、…畜生…」
「情けねえな、ほら」

ハンカチを渡す。

幹夫 「すまん(音をたてて盛大にかむ。嫌な顔をする久)。…ありがとう」
「やるよ…」
幹夫 「ありがと!」

再び下拵え

伸介 「…でも彼女、なんで今頃になって、こんなことをするんでしょう」
幹夫 「今頃?」
伸介 「だってそうでしょう?これが妊娠2ヶ月や3ヶ月だったら、堕ろすなりなんなり…いくらでも方法は、あったと思うんです。だけど、ここまで来たら…」
アトム 「だだだから、い今頃なんですよ」
「え?」
アトム 「かかかか彼女、産みたかったんだと思います。だから、ずずずずっと隠して…」
伸介 「…産むより他、なくなるまで、待った…」

アトム、頷く。

幹夫 「だとしたら汚いやり方じゃねえか!俺たちの逃げ場を塞いでおいて、それで…」
「(ドアを顎で指し)あるぜ、逃げ場。行けよ、誰も止めないぜ」
幹夫 「なんだと!」

幹夫、久のエプロンを掴みあげる。

伸介 「落ち着いて下さいよ」
アトム 「ここここで喧嘩したって、始まらないでしょう」

幹夫、久を離す。

幹夫 「…けッ」
「あ〜たまねぎくせえ」
幹夫 「俺だって臭いよ!」
アトム 「そ、そろそろ炒めましょうか。野菜は全部、切り終わりましたね」
「ほらよ」

アトム、久の切ったじゃかいもを見て

アトム 「北条さん!」
「なんだよ」
アトム 「じゃ、じゃがいもの芽、一個残ってましたよ!」
「…悪かったよ」
幹夫 「やーい、怒られた」
「うるせえ、バーカ」
伸介 「たまねぎから?」
アトム 「い、いやまずバターを熱して、にんにくを…」

アトム、慣れた手つきで炒め始める。
いい匂いが広がる。

幹夫 「…腹、減ったな」
伸介 「もう8時ですからね」
幹夫 「そんな時間か。…パパを許してくだちゃいね…」
「下の子の誕生日だって?」
幹夫 「…ああ」
「悪いパパだ」
幹夫 「お前はどうなんだ」舞台写真
「気楽な独身さ」
幹夫 「だったら父親になってやれよ」
「嫌だよ。誰の子かわからねえのに」
伸介 「そこなんですよね…」
幹夫 「あいつ、ホントはわかってるんじゃないのか?」
「だったら何故、こんな面倒臭いことするんだよ」
幹夫 「それは…。…どうしてだろう」
アトム 「ここここ子供のDNAを鑑定して、親子関係が特定できるっていうじゃないですか。それをやれば…」
「どうやって今、この場でやるんだよ。頭悪いな、本当に!」
伸介 「この際、誰が父親かって言う問題は、置いておきましょうよ。それよりもまず、どうやってこの場を乗り切るかを、最優先に考えませんか?」
幹夫 「ああ…」

しばらく考え込む4人。と。

幹夫 「あっ!」

全員幹夫に注目。

幹夫 「だめか…」

再び考え込む。

幹夫 「あっ!!」

再び幹夫に注目。

幹夫 「忘れた…」

考え込む。

アトム 「あっ!!!」

間。

(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)

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