トップページ > ページシアター > ニンフ > 本景2:part2|初演版 【公演データ】
久 「決めるって…どうやって?」
「ふゆか」 「とても簡単。この家から、最初に出ていった人。その人をこの子の父親にするわ」
呆然とする4人。
幹夫 「…じゃ、なにか?俺たちは誰か一人、脱走者がでない限り、ずーっとこの家で…」
「ふゆか」 「ウン。楽しそうでしょ」
久 「冗談言うな!俺は明日も仕事があるんだぞ!」
アトム 「ぼ、僕には締め切りが…」
幹夫 「俺なんか家庭があるんだ!」
「ふゆか」 「うん、事情があるのはみんな一緒だよ。だから力を合わせてガンバロウ」
幹夫 「そういう問題じゃないんだよ!」
久 「頼むよ「はるか」、悪ふざけはもうやめてくれ。な?」
「ふゆか」 「べつにふざけてないけど…、あれ?もしかしてみんなあたしがまた嘘言ってると思ってる?しょうがないなあ、もう」
「ふゆか」鍵をとりだしドアを開ける。
「ふゆか」 「はい、ドアは開きました。パパになりたい人はどうぞ〜」
硬直する4人。
「ふゆか」その4人の顔を一人ずつのぞき込んでいく。
「ふゆか」 「キュウちゃん、仕事の途中でしょ。難波さん、明日連載の締め切り日じゃない。伸さんだって明日大事な対局があるって…、大変!たきりん、下のお嬢ちゃんのお誕生日じゃない!いいの、みんな帰らなくて?」
幹夫 「帰りたいさ!今すぐにでも飛び出したいよ!でも…」
アトム 「ほほほほ本気なんでしょう、今言ったこと」
「ふゆか」 「(にっこり笑い)もちろん」
がっくりうなだれる4人。
「ふゆか」 「みんな、自制心があるんだね。あたしだったら後先考えずに飛び出していっちゃう所だよ。でも良かった。これでみんなでお夕飯、食べられるね」
うなだれる4人を気にもとめず、
嬉々として「ふゆか」エプロンをとりだす。
「ふゆか」 「はいこれ」
久に、1枚渡す。
久 「…何だ、これは」
「ふゆか」 「エプロン」
久 「…知っている」
「ふゆか」 「せっかく集まってくれたんだから、みんなでカレー作ってもらおうと思って」
4人 「カレー!?」
「ふゆか」 「うん。ちゃんと材料も買ってきたんだ、ホラ」
久 「なんで俺たちがつくらにゃならんのだ!」
「ふゆか」 「あたし、出産のために故郷に帰るの。その準備で忙しいんだ。だから代わりに」
久 「お前なあ…」
幹夫 「馬鹿馬鹿しい!できるか、そんなこと」
「ふゆか」 「たきりん、料理、嫌いなんだっけ」
幹夫 「料理なんて男のやるもんじゃない!もしやるとしてもだ、カレーなんぞ男の料理とは言えん!」
「ふゆか」 「そうかな」
幹夫 「男の料理ってのはな、もっとこう豪快、かつ繊細な、そう、例えて言えば芸術のようなもんだ。たかがカレーごとき、大の大人がまじめに取り組むべきものではない!」
アトム 「…カリーを、馬鹿に、しましたね…」
男3人 「え?」
アトム 「…カリーを、馬鹿に、しましたね!」
男3人 「ひい!」
いつのまにかアトム、包丁を持ち、幹夫の首筋に当てている。
「ふゆか」 「駄目だよ〜難波さんの前でカレーの悪口言っちゃあ。難波さん、すっごいカレーオタクなんだから」
「ふゆか」、アトムのポケットから、会員証出す。
男3人 「おお!全日本カリー友の会会員証!」
アトム 「しかも」
「ふゆか」 「会員番号0008」
アトム 「…カリーを辱めるヤツは、天に代わって僕が討つ!」
アトム、幹夫の首筋を掴んで不気味な笑い。
幹夫 「助けてくれええええ!」
伸介 「どうしましょう!?」
久 「俺に聞くな!「はるか」に聞け!」
伸介 「「ふゆか」さん!」
「ふゆか」 「謝るしか、ないんじゃない。それで、一致団結して、みんなでカレーを作るの」
久 「そうすればヤツの怒りはおさまるのか?」
「ふゆか」 「たぶん」
久 「謝れ!とにかく謝れ!」
幹夫 「し、しかし」
伸介 「殺されるよりましでしょう!あなた、命とカレーと、どちらが大切なんですか!」
幹夫 「す…すみませんでした」
アトム 「…もう二度と、カリーを馬鹿にしないと誓うか」
幹夫 「誓う誓う、ヒンズーの神様みんなにかけて誓う」
アトム 「…みんなで楽しく、カリーを作れるか」
幹夫 「作る作る、カレーでもハヤシでも何でも作る」
いったんはずしかけた包丁を再びつきつけ。
アトム 「カリーとハヤシは違う!!!」
男3人 「ひいいいいいいい!」
「ふゆか」 「もういいじゃない、難波さん。本人もだいぶ反省しているみたいだしさ」
ぶんぶん首を振る幹夫。
アトム 「…な、「なつか」ちゃんがそういうなら。ででで、でも…。(凄みのある一瞥をくれて)…今度、馬鹿にしたら…殺す」
解放される幹夫。
久 「大丈夫か」
「ふゆか」 「じゃあ仲良く、カレーを作りましょうね。はい、難波さん。(エプロン渡す)美味しいの、作ってね」
アトム 「ままままままかせてください」
「ふゆか」 「はい、伸さん」
伸介 「やれやれ…」
「ふゆか」 「で、これはたきりんの分…だいじょうぶ?まだ顔、青いよ」
幹夫 「…ああ。(受け取って驚く)なんだこれは!?」
それは、赤い可愛らしい割烹着。
「ふゆか」 「家中捜したんだけどね、どうしても1枚足りなくて。隣の女の子に借りたの。…嫌かな」
幹夫 「当たり前だろう!だいたい男が台所に…」
アトム、キッチンを叩く。その音に、。
男3人 「がんばらせていただきます!」
「ふゆか」 「うん、がんばってとびきり美味しいの作ってね。材料はこの中ね。調味料やお鍋は勝手に使って。あと何かわからないことがあったら遠慮なく聞いてね、隣の部屋にいるから。あ、それから…」
「ふゆか」去りぎわに。
「ふゆか」 「帰りたくなったら、いつでも言ってちょうだい。あたしは、誰がパパでもかまわないから」
にっこり笑って、去る。
(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)