トップページ > ページシアター > 1/4 breed > プロローグ 【公演データ】
暗闇の中、時計の針の音。
ゆっくりと薄明かりになると、布団で熟睡する男が1人、見えて来る。
どこからか女性達の声が聞こえて来る。
声1 「ねぇねぇ、聞いた?係長また遅刻だって。」
声2 「うそ、またぁ?」
声3 「じゃ、今日も課長に?」
声4 「『社会人としての自覚が足りないんだよ、きみぃ〜っ』」
声2 「あ、今の似てた。」
声4 「でしょ?」
声3 「似てた、似てた。」
声1 「でね、係長の今日の言い訳、何て言ったと思う?」
声2 「え、なになに?」
声3 「さすがにもう、出尽くしたっしょ。」
声1 「それがさぁ、朝『金縛り』にあったんだって。」
声4 「何それ、バカじゃん!」
声2 「首切られるのも時間の問題って感じ。」
声3 「でもさぁ、私もしょっちゅうあるんだけどさ。」
声4 「金縛り?」
声3 「違くてぇ、目覚まし時計が勝手に止まってる事。」
声4 「それ、自分で止めたの忘れてるだけだって!」
声2 「え、でも私も結構あるかも。」
声1 「あたしそれ、小さい頃妖怪の仕業だって言われてた。」
声4 「妖怪?」
声2 「そうそう!目覚ましが鳴る寸前に目が覚めたり、2度寝しちゃうのも、妖怪の仕業だって。」
声4 「それ、何でも妖怪のせいに出来るじゃん。」
声1 「っていうか、幽霊とか超能力ってならまだ分かるけど、妖怪ってのはどうよ?」
声3 「少なくとも遅刻の言い訳にはならないよね。」
声4 「ならない、ならない。」
声1 「金縛りの方がましぃ。」
全員、笑う。笑い声がフェードアウト。
男の枕元に妙な格好の女が忍び寄り、目覚まし時計のスイッチを切る。
男の顔の辺りに両手をかざし、小さな声で何やらブツブツ言ったかと思うと、ゆっくりと来た 方へ去る。
(作:松本仁也/写真:広安正敬)