△ 「ダンボールキッチン」第28回


トップページ > ページシアター > ダンボールキッチン > 第28回 【公演データ

<前一覧次>

<6>

舞台上の時間、<5>の1週間後。夕暮れ時の森瀬家のキッチン。
<5>よりさらに荒んだ雰囲気が漂う。
椅子に座るナルコ。電話が鳴る。別の空間に携帯を持った千里が立っている。
留守電が応える。千里、切ろうかどうしようか迷う。
ナルコ、電話のところまで立っていく。
千里が切ろうとした瞬間、ナルコ、受話器を取る。

ナルコ …千里さん?舞台写真

狼狽する千里。ナルコ、電話の向こうの気配に神経を集中させる。
千里、何事か言いかけ…しかしそれは言葉にはならない。
千里、電話を切る。ナルコ、じっと受話器を見つめる。
と、下手から陽気な麻美の声が聞こえる。麻美、キッチンへ現れる。
頭に麦わら帽子、首にレイ、派手なサングラス。全体的にトロピカルーな雰囲気。

麻美 たっだいま〜
ナルコ …(ナルコ、受話器を置く)
麻美 電話しなくてごめん。父さんの具合、どう?
ナルコ 特には…
麻美 あそ。はい、これお土産

麻美、かけていたド派手なサングラスをナルコに。

ナルコ …似合わないでしょ
麻美 …似合わない。ものの見事に
ナルコ …ありがと…
麻美 カヨさーん、遼ちゃーん!
ナルコ いないよ
麻美 あ、そっか…。カヨさんは買い物?
ナルコ (首を振り)出てった
麻美 カヨさんも?
ナルコ (頷き)お姉ちゃんが出かけたあと
麻美 どうして!?
ナルコ …わからない
麻美 アトムは?あいつも出てったの?
ナルコ アトムはいる。今、病院に薬貰いに行ってる
麻美 父さんの?
ナルコ (首を振り)お母さんの
麻美 母さん、どうしたの!?
ナルコ …お兄ちゃんが、行方不明なの。お母さん、心配で眠れなくなって…
麻美 倒れた?
ナルコ (頷いて)でももうだいぶいいの
麻美 (ほっとして)…そう…

麻美、改めてキッチンを見回す。

麻美 なーんか荒んでるなーとは思ったのよね。…そっか…そういう訳か…
ナルコ
麻美 …ナルコ、お疲れさま
ナルコ
麻美 (髪をくしゃくしゃとさせて)よく頑張ったね…
ナルコ
麻美 詳しいこと聞いてくるわ。二人とも上?

ナルコ、頷く。麻美、荷物を引っ張って上手へ。

ナルコ お姉ちゃん
麻美 ん?
ナルコ …ごめん
麻美 なにが?
ナルコ …お姉ちゃんやお兄ちゃんがもう二度と帰って来なければいいなと思ってたのあたし
麻美
ナルコ そしたらずっと4人で暮らせるって。だから、だから…
麻美 …飛行機、落っこちろ、とか祈ってた?舞台写真

間。頷くナルコ。
麻美の手が伸びる。叩かれると思い、身をすくめるナルコ。
麻美、被っていたトロピカルな帽子をナルコにかぶせる。

麻美 カヨさんのぶん
ナルコ
麻美 (レイをかけて)俊のぶん。(ウクレレを持たせて)遼ちゃんのぶん
ナルコ
麻美 (つくづく見て)…似合わないわねえ、あんた
ナルコ …怒んないの
麻美 そりゃ嬉しかないわよもちろん。でもあんたは正直に話してくれた
ナルコ
麻美 あたしにはそっちのほうが大事
ナルコ
麻美 変にごまかされるより、ずっといい。…あんただってそうじゃない?
ナルコ …うん…

麻美、上手に去りかけて。

麻美 あそうだ、これアトムのぶん。帰ってきたら渡しといて

腰ミノを出し、ナルコに巻きつける。

ナルコ
麻美 (しげしげと見て)…ホント、似合わないわ、あんた
ナルコ

麻美、去る。キッチンには、トロピカルな帽子をかぶり、ウクレレを携え、サングラスとレイをかけ、腰ミノを巻いたナルコが残る。ナルコ、ため息をつき、帽子を取ろうとする。

(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)

<前一覧次>


トップページ > ページシアター > ダンボールキッチン > 第28回 【公演データ