△ 「ダンボールキッチン」第16回


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<3>の数日後。森瀬家のキッチン。昼前頃。カヨ、嬉しそうにガラス戸を開けたり閉めたりしている。そばで片付け物をしていたアトム、苦笑して。

アトム 寒いですがな
カヨ ずっと前から頼んでたんだよ、先生に。ここ、開き戸にしましょうって
アトム へえ
カヨ だけどなっかなかうんって言わなくてさ。それがこんなカタチで実現するなんて…
アトム へえへえ
カヨ まさにケガの功名!あんたはえらいっ(ぺん、とアトムの額をはたく)
アトム 痛いいたい

原稿を手に覚、キッチンへ。

賑やかだな舞台写真
カヨ (目ざとく)あらセンセ。ファックスですか
ああ…何じっと見てる
カヨ いえ別に…

覚、ファックスに原稿を差し入れダイヤル。そして3回拍手を打つ。

カヨ …ホントだわあ…
何ださっきから
カヨ 飛んでイスタンブール〜(去る)
(追いかけていき)カヨ!
カヨ (声だけで)恨まないのがルール…
アトム どないしました
…何でもない…

覚、新聞を広げる。

遼太郎はどうした
アトム 図書館へ
(ほっとした様子で)そうか…

覚の口調を不審に思ったアトム、何か問いたげにじっと見つめる。
アトムの視線に気づいた覚、新聞に集中する振り。

おっ、アトム。面白い広告が載ってるぞ
アトム どんな
『アトム、連絡待つ。ミヤコ』

アトムの動きが止まるが、覚気づかない。

お前のことじゃないだろうな
アトム …今日、何日ですか
あ?…(新聞の日付を確かめ)29日。それが?
アトム
変な奴だな

俊、疲れた様子で上手より。

コーヒーくんない?うんと濃いやつ
アトム へえ
あ、2つね。部屋に持っていくから
アトム へえ

俊、どさっと椅子に座り込む。覚、その様子を新聞越しに眺め。

…また泊めたのか
…ああ
恥ずかしくないのか。親の家でいちゃいちゃいちゃいちゃ…

そういうことはだな、一人前になってから…
アトム どうぞ(割り込むようにカップを渡す)
ああ
アトム 仕事のほう、進んでまっか
少しずつね…会社を興すのがこんなに大変だとは思わなかったよ

アトム 面倒でっしゃろ。登記やの手続きやの…
(大欠伸しながら)昨夜も徹夜…
アトム 体が資本でっせ
(笑って)若いだけが取り柄だから。サンキュ(立つ)

千里、携帯を手に、上手から飛び込んでくる。

千里 俊さん!あのビル借りられそうよ
マジ!?
千里 今お兄ちゃんから電話があって。キャンセルが出たんですって

俊、歓声を上げて千里を抱き上げる。

千里 俊さん!

俊、千里を抱えたまま回りだす。悲鳴を上げる千里。
俊、千里が喜んでいると思い、ますます回転を早める。

やめんか馬鹿者!
アトム ガラス、また割りますで

俊、ようやく回転を止める。

なんの騒ぎだまったく…
ビルだよビル!南青山の!
ビル?
事務所に使うんで探してたんだ。ようやくいいのが見っかったんだけど…
千里 タッチの差で押さえられちゃったんです。それが…
南青山?いくらするんだ

俊、千里の顔を見る。

千里 1フロアで月額200万…
200万!?
246沿いの一等地だからさ…
金は出さんぞ!お前のお遊びなんぞに…
千里のご両親が貸してくれるんだ。な?
千里 ええ
誰かさんと違って子どもを信用してるからな

前祝だ、千里、ワイン飲もうぜ!(貯蔵庫を開け始める)
千里 こんな昼間っから?
今日は特別。カヨさん、カヨさーん

カヨ、上手のドアから顔を出す。俊、貯蔵庫を開けながら。

カヨ はいな
ねえ、こないだ貰ったあのワイン…
カヨ 向かって右のほうに…
アトム。ちょっと…
アトム はい

覚、アトムを庭に連れ出す。

アトム なんでっしゃろ
…俊の始めた仕事のことなんだが…
アトム はあ
気にいらんな。どうも話が上手過ぎる舞台写真
アトム
ちょっと調べてみてくれ
アトム あの二人を?
(頷いて)興信所に知り合いがいる。電話しておくから…
アトム はあ
全く…いつまで親に面倒かければ気が済むんだ
アトム
母親が甘やかしすぎた。自分じゃ何もできない人間に…
アトム 俊さんかて真剣に…
(遮って)私が一番よくわかっているよ
アトム
あいつの父親なんだ…残念ながらな

覚、上手に去りかけてよろめく。駆け寄るアトム。

アトム 大丈夫でっか
…寝不足だ。心配するな

覚、去る。キッチンでは前祝が始まっている。
アトム、それを眺めながら。

アトム ホンマ…ドラマみたいや…

アトム、キッチンへ戻る。

(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)

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