「ダンボールキッチン」第12回 「ダンボールキッチン」第12回トップページ > ページシアター > ダンボールキッチン > 第12回 【公演データ】
アトムがいなくなったと同時に、下手より俊・千里・晃冶入って来る。
俊 ちょっとここで待ってて
千里 いいの、本当に
俊 もちろん
晃冶 すまないね
俊、笑って上手に去る。俊が去ると、微妙に二人の雰囲気が変わる。
晃冶 馬鹿
千里 …なにが
晃冶 １００万ってはずだったろ
千里 …
晃冶 なんでイキナリ半額にすんだよ
千里 …
晃冶、煙草を取り出し咥える。千里、唇から引きぬく。
千里 吸わないわよ、「松平」晃冶は
晃冶 やべ…（煙草をポケットに押し込む）
千里 …いつまで続けるの
晃冶 …
千里 あたしさ、もう…
晃冶 引き返せないべ、今さら
千里 …
晃冶 ここで止めたら、俺が惨めになるだけだ
千里 …
晃冶 …今夜も泊まるのか
千里 （晃冶の視線を避けながら）わかんない
晃冶 泊まれよ。自分から頼め。『今夜は帰りたくない』って
千里 …
晃冶 （自嘲気味に）喜ぶぜ、あの馬鹿…
千里 …よく平気ね晃ちゃん
晃冶 平気なわけねえべ
千里 じゃあどうして？どうしてそんな顔してられるのよ！
晃冶 声がでけえよ
千里 馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿あ！（晃冶の胸を叩く）
晃冶 よせ！（千里の腕を掴む）
千里 離して、離してよ！
アトム よっこらしょ
アトム貯蔵庫から、カンヅメを手に持ち、顔を出す。
一瞬、３人の動きが止まる。アトム、まじまじと二人を見やる。
千里 …お兄ちゃん。これでいいんだっけモンキーダンス…
晃冶 …妹よ。モンキーダンスは、こう…
千里 あ、そっか、タテかあ（踊りだす）
晃冶 ヨコだったら、ツイストになっちゃうぞお（踊りだす）
アトム …おかしい…
晃冶 （ぎょっとして）え？
アトム （晃冶に歩み寄り）変ですよ二人とも…
千里 な、なにが
アトム （晃冶の腰をぱーんと叩き）腰です！
晃冶 腰？
アトム ほら、こう！（アトム見事なツイスト）
二人、言葉もなく拍手。
アトム そして、こう！（アトム見事なモンキーダンス）
二人、拍手。
アトム さ、ご一緒に！
仕方なく晃冶と千里、踊り始める。
千里 …お兄ちゃん…
晃冶 …妹よ…
上手より覚、追いかけて俊、さらに夢子がやってくる。
覚 いい加減にしろ！
俊 なんでよ！？いいじゃんかこのくらい
覚 そう思うなら自分で稼いで来い、ろくでなし！
夢子 あなた…
睨み合う覚と俊。踊っていた３人、その気迫に呑まれる。
俊 …悪い。車戻っててくれないか
晃冶 あ、ああ…
晃冶下手へ去る。千里も去りかけてちらっと俊を振り向く。
俊、安心させるように微笑んで。
俊 すぐ行くよ…
千里、頷いて去る。
俊 …父さん。父さんにはまだ話してなかったけど
夢子 （察して）今は止めなさいよ俊
俊 （無視して）俺、近いうち家を出て、でかいこと始めるから
夢子 俊！
俊 母さんは黙ってて
覚 銀行強盗でもやる気か
俊 （聞き流し）ふたりの実家は名古屋で大きな貿易会社やってて、晃冶さんはそこの跡取息子なんだ。今度東京にも支店を作ることになって、その下見も兼ねて二人で上京してるんだけど…
覚 …
俊 晃冶さんも名古屋のご両親も、東京支店はゆくゆくは千里に任せるつもりなんだ。でもさすがに千里ひとりじゃ心許ない。それで…俺…
覚 …
俊 …俺が、千里と一緒になって、東京支店を…
覚 いくつ目だ
俊 え？
覚 いくつ目だ、お前の「でかいこと」
俊 …
覚 カメラマンになる。スタイリストを目指す。映画をプロデュースしてみたい…そのつど学校に通っては半年ももたず退学…その繰り返しだ
俊 今度は違うって。今度こそ…
覚 同じだ
俊 …
覚 どれもこれも餓鬼のお遊び…（吐き捨てるように）下らん
覚、去る。
俊 …クソ爺！
夢子 俊！
俊、覚を追って去る。あとに続く夢子。
アトム一人、呆然と取り残される。カヨ、上手からのんびりと顔を出す。
カヨ いたいた。そろそろお寿司取ろうと思うんだけどさ、あんた何にする
アトム カヨさん
カヨ なに
アトム …こっから一番近いスーパー、教えてください
転。
（作：中澤日菜子／写真：広安正敬）