△ 「ダンボールキッチン」第8回


トップページ > ページシアター > ダンボールキッチン > 第8回 【公演データ

<前一覧次>

人の輪が崩れ、繁雄に自室へ戻りかけるナルコの姿が見えた。繁雄、嬉しそうに叫ぶ。

繁雄 ナルコさん!舞台写真

ぎょっとする人々。ナルコ、ゆっくり振り返る。
ナルコと繁雄の目が合う。繁雄、再び嬉しそうに。

繁雄 ナルコさん!

ナルコの顔色がさっと変わる。

夢子 ナルコ…お知り合い?
ナルコ …ちがう
夢子 でも確かに今…
繁雄 ナルコさん!
夢子 ほら…
ナルコ 知らないよ、こんなヤツ
カヨ 奥様、あれですよ、ホラさいきん流行のスポーツカー
夢子 (混乱して)え?
遼太郎 ストーカー
カヨ それそれ
夢子 ナルコにストーカー?まさか!
ナルコ
そうなのか?
繁雄 いいえ。違います
西条 じゃあんた何者?
繁雄 (高らかに)鉄腕アトムです!

静まり返るキッチン。繁雄は苦労して標準語をしゃべっている。
以下繁雄→アトムと表記。

夢子 …カヨさん、電話
カヨ …110番、ですか
夢子 …救急車のほうがいいかも…
アトム その必要はありません。僕は元気です
いや…元気じゃないと思うよ
遼太郎 特にココが…(頭を指す)
アトム とんでもない!僕はアトムです。正真正銘の鉄腕アトムです
ナルコ
晃冶 アトムっておめ、(言いかけて)…あなた、どう見たって普通の人間ですよ
カヨ そうだよ。大体服着てるし
アトム 脱ぎましょうか?(と、もぞもぞする)
夢子 止めて止めて!(全員止める)アトムね、わかったわ
アトム おわかりいただけましたか
夢子 (頷き)わかったから出て行ってちょうだい
アトム (嬉しそうに)いやです
夢子 どうして
アトム (高らかに)僕はナルコさんを救うためにやってきたのですから!舞台写真

静まり返るキッチン。にこにことナルコを見つめるアトム。

ナルコ
カヨ …奥様。やっぱりあれだよ、スポーツカー
遼太郎 ストーカー
カヨ それもこれ(左巻き)
夢子 ナルコ。あなた本当にこの人、知らないの
ナルコ …知らない
夢子 でもこの人の様子…
ナルコ …お母さんはあたしとこの男、どっちを信じるの
夢子
西条 とにかく警察に連絡しましょう
そうだよ
アトム お待ちください。僕は決して怪しい者ではありません
遼太郎 怪しいって。これ以上ないくらい怪しいって
西条 だいたいナルコちゃんを救うってどういうことよ
アトム それを知るために来たんです
来てどうするんだよ
アトム 住み込みで働くつもりでした
千里 働いてどうするの
アトム ナルコさんを救うんです
西条 だから救うってどういうこと
アトム それを知るために来たんです
来てどうするんだよ
アトム 住み込みで働くつもりでした
千里 働いてどうするの
アトム ナルコさんを救うんです
西条 だから救うってどういうこと
アトム それを知るために来たんです
来て…止めよう。コイツの罠にはまってる気がする
夢子 つまりウチで働きたいわけ?
アトム ものすごく煎じ詰めればそうです
夢子 ウチにはもう二人住み込みがいるの。これ以上雇う余裕も必要もないわ
アトム お金はいただきません。しかもたっぷり働く自信があります。ちなみに住み込みって誰と誰ですか
遼太郎 (思わず)はい
カヨ (つられて)はーい
アトム ふふ…(自信ありげにほくそえむ)
遼太郎 (激怒して)なんだよその勝ち誇った眼は!
カヨ 馬鹿にすんな!
夢子 とにかく!素性もわからない人を住み込みなんかで雇えないわ
アトム 質問してください。答えられる限りは答えます
夢子 じゃ名前は
アトム 鉄腕アトム
住所
アトム 不定
西条 電話番号
アトム なし
晃冶 出身地
アトム 秘密
千里 生年月日
アトム 内緒
カヨ 血液型
アトム A型
遼太郎 好きなタイプ
アトム 賀来千賀子
全員舞台写真
アトム (満足げに)だいぶ分かり合えましたね…
どうでもいいところだけ答えやがって…
西条 (夢子に)どうします?
夢子 …電話して…

西条、電話機に向かう。身悶えるアトム。

アトム いや。置いてください、頼みます
晃冶 暴れるな
アトム (大声で)そらをこえて〜ラララほしのかなた〜
西条 うるさい!…あ、もしもし?違うんですあのね
アトム ゆくぞアトム〜ジェットの限り〜

西条の耳元でわめくアトム。引き離そうとする遼太郎と晃冶。

(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)

<前一覧次>


トップページ > ページシアター > ダンボールキッチン > 第8回 【公演データ