△ 「ブリジニツィー」シーン2b


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上原やっと部屋を見つけ中を覗き込むと、男が一人座ってノートパソコンを打っている。

上原 「あの。」
今井 「はい?(パソコンから目を離さずに受け答える)」
上原 「ここ捜査課第8係ですよね?」
今井 「そうですよぉ。」
上原 「(ホッとして)良かったぁ。捜査課って3階だって聞いたのに、8係だけ地下にあるから迷っちゃいましたよ。」
今井 「地下じゃないとまずくてねぇ。」
上原 「まずい?どうしてです?。」
今井 「知りたい?」
上原 「ええ。」
今井 「実はね。(ニコニコしながら上原を見て)だれ君?」
上原 「(あわてて敬礼し)本日付けで交番勤務より8係へ転任となりました、上原隆巡査であります。」
今井 「あ…あぁ、あぁ、君が例のヤミアガリの!」
上原 「え、ええ。」
今井 「健康診断でひっかかって一年半も入院してたんだって?」
上原 「正確には一年と三ヶ月です。」
今井 「何やったの?」舞台写真
上原 「は?」
今井 「病気。」
上原 「あ、はい、初めは胃潰瘍だったんですが、やっと退院って時に腎臓結石で。」
今井 「あらら、そりゃ大変だったねぇ。」
上原 「それでその後…」
今井 「え?まだあるの?」
上原 「ええ。その後肝炎を併発して肝硬変に。続けて肺気腫・十二指腸潰瘍・腸チフス・パラチフス…・病院の御飯でコレラやO157にも感染しました。最後に水疱瘡とおたふく風邪もやったなあ。」
今井 「終わり?(いつの間にか少しずつ逃げている)」
上原 「はい。すごいでしょ。」
今井 「ギネスもんだ。」
上原 「担当の先生もこれだけやって一年と三ヶ月で退院出来たなんて、奇跡だって言ってました。」
今井 「刑事になれたのもな。」
上原 「あの、失礼ですが…。」
今井 「え、あぁ僕?僕ね。(敬礼して)今井慎太郎巡査長です。都知事と同じ慎太郎です。これちょっと使ってみたいフレーズだったんだ。」
上原 「なるほど。」
今井 「趣味は映画鑑賞・ミリタリー・中国拳法。」
上原 「中国拳法?」
今井 「酔拳を少々。」

今井、突然酔拳パフォーマンスをするが、殆どただの酔っぱらい。と、突然倒れて動かなくなる。

上原 「ちょっと今井さん、大丈夫ですか?」

上原、助け起こそうとすると今井がいきなりパンチ。

上原 「いってぇ〜。それってただの不意打ちじゃないですか!」
今井 「我流酔拳だ。どこが我流か説明しよう。」
上原 「結構です。」
今井 「なに?!」
上原 「いや、あの、結構…多趣味でいらっしゃるんですね。」
今井 「はっはっはっは、いやいや、君の病気にはかなわんよ。」
上原 「いや、病気は別に趣味じゃないんすけどね。ははは(机のバナナを見て)あ、一本いいっすか?」
今井 「触るなあぁぁぁぁっ!!」
上原 「え?え?」
今井 「あけみに触るな!!」
上原 「え?あけみって?え?もしかして…バナナに名前つけてるんですか?」
今井 「バナナじゃない!」
上原 「…あ、あのすみません。何を言っているのかさっぱり…」
今井 「これは拳銃。そして名前があけみ。」
上原 「いや…でもこれバナナ…」
今井 「しつこいね君も!拳銃だっての!何なら撃ってやろうか?なあどうだ?どんな感じなんだ?」
上原 「わ、わかった、わかりましたよ!拳銃なんですね!」
今井 「あけみだ!!」
上原 「はい!(バナナに向かって)こんにちわ。よろしくあけみさん。」
今井 「僕が作ったんだ。」
上原 「え?今井さんがこれを?」
今井 「僕は以前本店の開発課にいたんだ。」
上原 「警視庁に開発課なんてあったんですか?」
今井 「極秘の部署だから君が知らんのも無理はないか。」
上原 「極秘の部署って…一体どんな開発を?」
今井 「いろいろ作ってたけど僕の担当は『どこでもドア』だった。」
上原 「は?」
今井 「『どこでもドア』」
上原 「…あのすいません。今『どこでもドア』って聞こえたんですけど。」
今井 「え?あ、あぁ〜!ごめんごめん!あのね、『どこでもドア』って言うのはね、ド・ラ・え・も・んってマンガに…」
上原 「知ってますそれは。」
今井 「それそれそれよ、モロに。」
上原 「今井さん。」
今井 「なに?」
上原 「もしかして、僕の事からかってません?」
今井 「何、からかうって?」
上原 「嫌だなぁ今井さん。」
今井 「ちょっと待ってよ、本当だよ。」
上原 「『どこでもドア』がですか?」
今井 「『ガリバートンネル』も作ってた。…あれ?これも知らない?ほら、こんな形でさ…」
上原 「何だよ、結局自分のバナナ取られたくないだけじゃないか。」
今井 「今、何か言った?」
上原 「いえいえ、いやぁさすがっすねぇ今井さん!あの、ところで他の皆さんは?」
今井 「あぁ、そうだよね。君『ブリジニツィー』って知ってる?」
上原 「えぇ知ってますよ。エイベキスタンで開発されたハイテク・アートでしょ?今度そこの京王プラザで展示会があるんですよね。」
今井 「そうそう。」
上原 「確か、脳でイメージしたものを映像にできるとか。」
今井 「画期的だよね。開発課も先越されちまったなぁ。」
上原 「でも、『ブリジニツィー』ってどういう意味なんです?」
今井 「ロシア語で、双子とか双子座って意味だよ。去年の6月に完成したからだってさ。」
上原 「へぇ!誕生日の星座の名前付けたのかぁ。しかし凄いですよねエイベキスタンは。ロシアから独立した国であれほど急速に発展した国はないでしょ。」
今井 「やっぱり、あのオムロック大統領の力は凄いよ。」
上原 「えぇ。あ、わかった!みなさんその展示会の警備をしてるんですね!そうか、そうですよね、あんなすげえディスク盗まれたら大変な事ですもんねぇ。」
今井 「盗まれたよ。」
上原 「ぬす…はい?」
今井 「盗まれちゃったの。」
上原 「盗まれちゃったって…そりゃ大事件じゃないっすか!!」
今井 「落ち着けよ、軽い国際問題になるだけだ。」
上原 「軽いってそんな…。」
今井 「大丈夫、本店の外事課と捜査一課が加わる事になったんだ。今、うちの警部が迎えに行ってる。二人とも、警部の元同僚なんだと。そろそろ時間だな。コーヒー入れて来よっと。」
上原 「あ、コーヒーなら僕が…。」
今井 「いいよいいよ。いろいろ好みがあって難しいから。そのうち覚えてな(と言いつつハケる)」
上原 「はっ、はい。…やばいなぁ。着任早々ヤマがでかすぎるぞ。いや、これはラッキーだと思わなきゃいけない。こういうでかいヤマを沢山こなしてこそベテランに…」

(作:松本仁也/写真:広安正敬)

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