△ 「千年水国」第4回


トップページ > ページシアター > 千年水国 > 第4回 【公演データ

<前一覧次>

舞台別の空間にミーナと少女。

二人 「独占スクープ、デビ夫人とサッチーのペアヌード写真集発売!!」舞台写真

ラジオがかかっている。子どもが喜びそうな番組。

ミーナ 「ハイつぎ」
少女 「仰天! 叶姉妹(姉)は男だった!?」
ミーナ 「ハイつぎ」
少女 「ああ鬼、鬼…」
ミーナ 「鬼嫁」
少女 「ああ鬼嫁!ガングロ16歳若妻が」
二人 「姑に熱湯!!」

そこへ八嶋と佐都子が揃って帰ってくる。

八嶋 「ただいま」
佐都子 「こんばんは」
少女 「ヤシマ!お帰り!!」
ミーナ 「ちーす。珍しいじゃん、二人お揃いなんて」
佐都子 「残業がなかったから。それよりあの…」
八嶋 「何だよ『姑に熱湯』って」
ミーナ 「お勉強してたんだよね」
少女 「うん」
佐都子 「勉強?」
ミーナ 「そ、これ使って」

ミーナ、雑誌を見せる。

佐都子 「…女性自身…」
ミーナ 「すごいよ、この子、もう殆ど漢字も読めるよ」
八嶋 「なんで女性自身使うんだよ!どうせならもうちょっと知的な雑誌使えよ!」
ミーナ 「しょうがないじゃん、アタシが読むの、これっくらいだもん」
八嶋 「知識が偏るじゃないか!鬼とか嫁とかデビ夫人とか」
ミーナ 「ただでこの子の面倒見てるんだからね、細かいこと言わないでよ」
八嶋 「そりゃそうだけどさ…」
佐都子 「あ、あのミーナさん、これ差し入れです」
ミーナ 「ビール!!嬉しい、咽喉カラカラだよ」

ミーナ、早速1本開け、うまそうに飲み干す。

少女 「あたしも」
八嶋 「お前は駄目」
少女 「(舌打ちして)…ハゲ」
八嶋 「あゆみ!!」

少女(あゆみ)逃げ出す。大笑いするミーナ。

佐都子 「ねえ今あゆみって…」
八嶋 「ああ、あの子の名前だよ…一緒に暮らしてるのに、不便だろ。だから俺が付けた」
佐都子 「なんで『あゆみ』…」
ミーナ 「自分の名前から取ったんだってさ」
佐都子 「え?」
ミーナ 「渉からさんずいを取ると?」
佐都子 「…あゆみ…」
ミーナ 「笑っちゃうよねー自分の子でもないのにさ」
八嶋 「うるせえ」
佐都子 「…」
ミーナ 「しっかし暑いねえ。いつになったら雨が降るんだろ」
八嶋 「(ビールを開けながら)雨が降らなくなってもう一月?」
ミーナ 「とんでもない、ゆうに2ヶ月は過ぎてるよ。しかもそれが日本だけじゃなくて世界中どこもかしこもっていうんだから…」
佐都子 「変だわ」
八嶋 「変だね」
ミーナ 「ホント、変だよ」
佐都子 「どうして一緒に暮らしてるのよ」
八嶋・ミーナ 「は?」
佐都子 「もともとは一晩だけってはずだったじゃない。」
八嶋 「それは…どうやらあゆみは、記憶喪失に陥ってるだけのようだから…」
佐都子 「だけって何よ、だけって。記憶喪失だって立派な病気よ」
八嶋 「そうだけど…あゆみ、すっかりここに馴染んでるし…今さら警察に連れていくのもかわいそうかなと思って…」
佐都子 「…マタタビ」
八嶋 「え?」
佐都子 「怪盗マタタビ!淫行で捕まってもしらないから!」
八嶋 「な、何わけのわからんことを…」
ミーナ 「ご覧。これが生痴話喧嘩」
あゆみ 「生痴話喧嘩…」
八嶋・佐都子 「違います!!」

そこへ、シズエをおぶったギスケが帰ってくる。

ギスケ 「ただいま」
ミーナ 「シズエさん、大丈夫?」
シズエ 「大丈夫大丈夫。自分で歩けるというのにこの男が…」
八嶋 「退院おめでとう」
佐都子 「おめでとうございます」
シズエ 「ありがとうよ」
ミーナ 「ほら、あんたも」

ミーナ、小さくなっているあゆみを引っ張ってくる。

八嶋 「気にしてるんですよ、自分のせいでシズエさんが倒れたんじゃないかって」
ギスケ 「んなわけねーのになあ」
ミーナ 「過労だったんでしょ」
ギスケ 「そ。医者に言われちまったよ『もっとお母さんを労わりなさい』って」

一同、笑い合い勝手に雑談を始める。
シズエその輪を外れ、あゆみの近くへ行く。

シズエ 「(静かな声で)安心おし。誰にも言わないから…」

あゆみ、首をかしげる。
シズエ微笑して。

シズエ 「未だ、気がついてないのか。…ここが好きかい?」

あゆみ、大きく頷く。

シズエ 「なら、その方がいい。その方が、いいよ…」
あゆみ 「あゆみって言います。退院おめでとう、シズエさん」
シズエ 「あゆみ…良い名前だね」
あゆみ 「ヤシマがくれたの。渉からさんずいを取ったんだって」
シズエ 「さんずい…水を、取ったのか…」

シズエ、静かに微笑み。

シズエ 「その名前が、あんたを守ってくれますよう…」
あゆみ 「?」
ミーナ 「そこの二人!何こそこそしゃべくってるのよう」
ギスケ 「飲もう!今夜はとことん飲もう!ささ師匠…」

ギスケ、シズエにビールを勧める。

ミーナ 「はい、あんたはコーラ」
あゆみ 「ありがとう」
ギスケ 「えーそれでは、師匠・近藤シズエの退院を祝いまして、乾杯!」
全員 「乾杯!」

ビールを飲み干す間。

佐都子 「ねえ、ところでギスケさん」
ギスケ 「はい」
佐都子 「本当にミーナさんのところに居候してるの?」
ギスケ 「そりゃあもう。いつ何時でも師匠の元にはせ参じることができるよう…」
ミーナ 「嘘つけ。単に住む場所がないから居座ってるくせに」
佐都子 「そうなの?」
ミーナ 「そうよう。だってこいつ、もともと八嶋のとこに金借りに来たんだよ」
八嶋 「言っとくけど、俺、金はないぞ」
ギスケ 「なんでだよおまえ一流企業の営業だろう」
八嶋 「…体壊して、リストラされた」

気まずい間。聞いてはならない話題だったらしい。
慌てるギスケ。

ギスケ 「ま、プーの俺が言うことじゃないよな」
佐都子 「今はうちの水族館で清掃のバイト、やってもらってるの」
ミーナ 「いいじゃん、彼女と同じ職場で。公私ともに支え合い」
ギスケ 「やがて生涯のパートナーに。するんだろ、結婚」
八嶋 「したいけど…今の俺じゃ…」

再び気まずい間。さらに聞いてはならない話題だったらしい。
慌てるギスケ。

ギスケ 「ま、結婚なんて急ぐ必要はないからね、もうぜ〜んぜん、うん…」
ミーナ 「ギスケ、うるさい。もうしゃべるな」
ギスケ 「くう〜ん…」
八嶋 「お前こそいいのかよ働かなくて」
ギスケ 「だって仕事、ないんだもん」
八嶋 「えばるなよ、みっともない」
佐都子 「じゃ、ミーナさんが飼ってるわけ?」
ミーナ 「冗談!なんでアタシが赤の他人の面倒みなきゃならないのさ」
佐都子 「あ、一緒に暮らしてるからって何かあるわけじゃないんだ」
ミーナ 「当然よ。ヤル時はちゃんと金取るし」
ギスケ 「(悲しそうに)1回5250円、税込み」
ミーナ 「いわゆるお友達価格ってやつ?」
佐都子 「ははあ…」
八嶋 「もう何がなんだか…」
ミーナ 「ところでさ、佐都子ちゃんの勤めてる…なんだっけ」舞台写真
佐都子 「海と光の水族館?」
ミーナ 「そうそこ、今日ラジオのニュースで出てたよ。鯨の胎児がどうとか」
ギスケ 「鯨の胎児?」
シズエ 「ほれ先月、静岡で保護された…」
八嶋 「ああ、それならサトちゃんが担当だよ、ね」
佐都子 「(少し慌てて)渉ちゃん…」
ミーナ 「ねえ、特別にさ、見に行けたりしない?担当者の特権でさあ」
佐都子 「あの…今はまだ弱ってて…一般に公開できる状態じゃ…」
ミーナ 「そっか。じゃそのうち元気になったら絶対、見せてね」
ギスケ 「俺も俺も」
佐都子 「…そうね…いつか、元気になったら、ね…」

雑談を始めるミーナたち。その横で物思いに沈む佐都子。
と、ノックの音。

(作:中澤日菜子/写真:池田景)

<前一覧次>


トップページ > ページシアター > 千年水国 > 第4回 【公演データ