トップページ > ページシアター > ニライカナイ > 白の時代 【公演データ】
舞台奥手に天井から下がった大きな布がある。
上手から、赤、青、そして緑。
舞台の前面は、一面の白い砂。
波の音が、ただただ繰り返すだけ。
やがて舞台の幕は上がる。
薄暗い、夜明け前の砂浜。
開演の15分ほど前に、舞台に一人の少女が現れる。
少女の手には小さなガラスの小壜。中には透明な液体。
少女、沖合いを見つめたまま、浜辺に座り込む。
時間をおいて、人々が集まり始める。
老婆とその娘。中年の夫婦とその子供たち。
赤ん坊をつれた若い夫婦。仲の良いいとこ同士…
共通の先祖を持つ一族が、とある目的のために
この浜辺を目指し、集まってきた。
みな、久しぶりの再会を喜び合う。
会話の内容は近況報告や他愛のない世間話、
一族の誰彼についての噂など。
明るい表情で楽しそうに語り合う。
やがて開演時間。
一人、また一人と話をやめ、遠く水平線の向こうを見やる。
皆の視線の集まる先は、日の昇るわずか1点。
静かな間。
そして日が昇る。
少女が、ゆっくりと進み出て来る。
手にした小壜の蓋を開け、中の液体を海に戻す。
それまでの緊張した表情がとけ、
あちこちで笑い声が起こる。
大役を果たした少女の顔にも笑みが広がる。
楽しそうな笑顔、笑顔、笑顔。
幸せの残像を残して、白の時代は終わる。
(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)