△ 「双月祭」シーン9


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病院の部屋。頭を抱えている阿部。
阿部のつぶやき声、貴子の点滴の音。
点滴の音、徐々に大きくなる。
MAXで、阿部、スッと立ち上がる。
貴子の寝顔を見つめ。

阿部 「―――もう二度と、お前を苦しませは、しない…」舞台写真(広安)

去る。
ほぼ同時に貴子、ゆっくりと目を覚ます。
宮田、薬を持って戻って来る。

宮田 「阿部さん?…いねーや…トイレかな…」
貴子 「…宮田、さん?」
宮田 「貴子ちゃん…どう具合は?」
貴子 「…夢じゃ、ないよね?」
宮田 「え?」
貴子 「…赤ちゃん、死んだの―――夢じゃ、ないよねぇ…」
宮田 「…ああ。夢じゃない」
貴子 「…そう…」

間。
再び目を閉じる貴子。フッと開けて。

貴子 「ヒデさんは?」
宮田 「トイレじゃないかな。すぐ戻って来るよ」
貴子 「…違うわ宮田さん」
宮田 「え?」
貴子 「…目を覚ますちょっと前…ヒデさんの声がきこえた…夢だと思ってた…でも、これも夢じゃない…悪いことはみんな夢じゃないんだわ…」
宮田 「阿部さんは何て?」
貴子 「“もう二度と、お前を苦しませは、しない”…」
宮田 「“もう二度と、お前を苦しませは、しない”…」

貴子、宮田を見上げ。

貴子 「宮田さん。あの人は、真穂ちゃんのところに行ったのよ―――真穂ちゃんに復讐するために…」
宮田 「そんな…だって彼女は関係ないじゃないか!」
貴子 「わかってる。でもヒデさんはそうは思わない。子どもが死んだのは、真穂ちゃんと…真穂ちゃんの操る犬神様のせいだと思ってる…」
宮田 「どうしてそうなるんだ!彼女は普通の人間だ!“あの子”だって決して…」

宮田ハッと思いあたる。

宮田 「貴子ちゃん。君にも“あの子”が見えるんだよね?」
貴子 「(首を振り)でも、確かにいるのは感じたわ」
宮田 「でも昔は見えた。君も“あの子”に会ったことがある、そうだね?」
貴子 「…」
宮田 「…“あの子”が言っていた…“また、助けられなかった”って…」
貴子 「…」
宮田 「…それが、全ての始まりだったんだ―――違うかい」

間。

貴子 「―――宮田さん、救ってくれますか?ヒデさんと、真穂ちゃんを。動けない、私の代わりに…」
宮田 「約束する、約束するよ貴子ちゃん」

宮田、貴子の手を取る。

貴子 「…あれは、私が6つで、真穂ちゃんが8つの時。私たちは仲が良くて、毎日一緒に遊んでた。二人が一番気に入っていたのは、あの大きなブナの木…あの木に登り、枝に腰かけて、村を見下ろしながらおしゃべりすることだった…あの日も、二人してこっそり木にハシゴをかけて、お気に入りの枝に登ってた。」
宮田 「それで?」
貴子 「…きっかけは、ささいなことだったと思う。気がついたらめったにない大ゲンカになって…怒った私は、勢いよく立ち上がったの。その時、足をすべらせて…あわてて手で枝をつかんだんだけど、その拍子に枝が折れはじめたんです…大きな枝が…メキメキと音を立てて…」
宮田 「…」
貴子 「恐かった。このまま落ちて死ぬと思った。私は必死で手をのばし…その時、はっきり見たの。真穂ちゃんの隣で真穂ちゃんと一緒に一生けんめい手をさしのべている、女の子の姿を…」
宮田 「それが“あの子”…」
貴子 「(首肯して)でも手はもうちょっとで届かず、私は折れた枝ごと落ちた。頭を打った私は、2週間意識を失い…その間中、うわ言をくり返していたそうです。“もう一人いる。真穂ちゃんの隣には、もう一人の真穂ちゃんが”と…」
宮田 「もう一人の、真穂…」
貴子 「私が意識を取り戻した時は、もう遅かった。真穂ちゃんと家族の人たちは…透明な檻に入れられていた…誰にも見えないけれど、確かにそこに在る、精神の檻―――この村から、村人から逃げ出さない限り、決して消えることのない、檻…」
宮田 「…そして彼らは故郷を捨てた…」
貴子 「捨てたんじゃない、追われたのよ…。追いつめたのは、私…私なんだわ…」
宮田 「貴子ちゃん…」
貴子 「…でも今度は、追われるだけでは済まないわ…」
宮田 「え?」

貴子、宮田にすがりつく。

貴子 「お願い、宮田さん、ヒデさんを止めて!あの人は、きっと…きっと真穂ちゃんを殺してしまう…!!」
宮田 「そんな、いくら何でも…」
貴子 「阿部の家には昔から伝わる猟銃があるんです。きっと今頃、その銃を持って、真穂ちゃんの所へ…」
宮田 「待ってよ、どうしてそんなことが君に…」
貴子 「―――犬神を殺すのには、犬神使いの額を撃ち抜くしか、ない―――」
宮田 「―――え?」
貴子 「…村に古くから伝わる言い伝え…何故なら額は―――」

貴子、宮田の目を見すえて。

貴子 「…狼の、急所だから…」

転。
月光がブナの切り株を照らす。
佇む真穂。保、やってくる。

「やっぱり、ここにいたか…」舞台写真(海老沢)
真穂 「…」
「こんなとこにいたってしょうがねぇだろ。小屋で連絡を待とうぜ」
真穂 「…宮田さんが、ここで待て、って…」

間。

「かっーーーーー。バカだねーお前。だからずっーーとここで待ってるワケ?」

真穂、うなづく。

「バカの一念、岩をも通す、か…しょうがねぇな、つき合ってやるよ」

保、切り株に腰を下ろしタバコに火を点ける。

真穂 「…」
「オレなんかから見ると、村とか故郷とかえらいキレーであったけぇもんに見えるけどな。ま、現実はどこも同じモンなのかもしれねぇな」
真穂 「…」
「山奥の村も、大都会も、汚ねぇ下町も、小さな島も…人間が生きてるところなんてどこも同じさ…反対に言やぁ、住んでいれば、そこがいつかは故郷になる…」
真穂 「…この村から出て行けって言ってるの?」
「そうは言ってねぇよ。ただ…大事なのは“どこで生きるか”なんじゃなく、“どう生きるか”だと思っただけさ…」
真穂 「…どう生きるか…」
「そ。死んじまったら何にもならねぇだろ」
真穂 「…」
「…あの子…無事だといいな」
真穂 「…うん…」

間。
人影が暗やみから。
真穂パッと立ち上がる。

真穂 「宮田さん!」
「遅かったじゃねーか」

2人気づく。それは宮田ではなく、阿部だと。

真穂 「…阿部、さん…」
「…あんたか…。奥さん、どうだい様子は?」
阿部 「容体は、落ちついた…今…病院で、寝てる…」
真穂 「そう…」
「良かったじゃねーか」
阿部 「(うつろな声で)けど、子どもは、死んだ」
「え?」
阿部 「…生まれて…すぐに…死んだ」
真穂 「…そんな…」
阿部 「お前が、殺したんだ」
「はァ?」
阿部 「―――お前が、殺したんだ」
真穂 「…」
「気は確かかお前?赤ん坊は、病院で死んだんだろ?コイツと何の関係があるんだよ」
阿部 「貴子は、お前の前で倒れた」
「そりゃ偶然だよ、偶然…」
阿部 「偶然なんかじゃない!!お前が、殺したんだ…犬神を使って…子ども…俺の子どもを…」
「…行こうぜ、真穂。可哀想だけど、コイツ、ちょっとおかしいよ…」

真穂、動かない。

「おい、何してんだ早く…」

真穂を促そうとした保、阿部に銃の台座で
殴られる。ゆっくり倒れこむ保。

真穂 「兵藤さん!」

抱きとめる真穂。その額に銃口を定める阿部。
少女、表われる。
それは、はるか遠い記憶の絵と同じ。
ゆっくり顔を上げる真穂。そして少女。

阿部 「―――出て行ってくれ、頼む…」
真穂 「…」
阿部 「お前がここにいる限り、貴子は幸せになれない…」
真穂 「…嫌だと、言ったら?」

阿部、無言で撃鉄を起こす。
淋しく微笑む真穂。

真穂 「―――そうして、私は、殺される」
少女・真穂 「何度も、何度も、殺される―――」
阿部 「誰だ!?」
少女・真穂 「私は、私」

少女、ゆっくりと歩いて来て、真穂の隣に佇む。
宮田、飛び込んで来る。

阿部 「…そうか…お前が…」舞台写真(海老沢)
宮田 「撃つなァ!!」
少女 「癒されなくてもいい、生きていきたい」

銃声。2つに割れる影。
聖子、キョーコ、ポエット君、飛び出して来る。

聖子 「何よ今の銃声…あっ!」
キョーコ 「カピィ!!、カピィが!!」

阿部、真穂を盾に。

阿部 「来るな!…大丈夫だ、2人とも生きてる」
聖子 「じゃ今の銃声は…」
阿部 「仕留めたのさ、犬神を!」
聖子 「犬神?何よそれ…」
キョーコ 「あんた気が狂ってんじゃないの!?」
阿部 「うるさい!あとはお前たちがここから出て行けばいいんだ!」

再び撃鉄を起こし、真穂の頭に当てる。
キョーコの悲鳴。

「わかったよ、出てけばいいんだろ、だからどなんなよ」
キョーコ 「カピィ!」
「ホラ出しな」
聖子 「何を?」
「同意書だよ。署名して渡すからよ」
聖子 「なっ何バカなこと言ってんの!?」
「キョーコ」
キョーコ 「ハイヨ」

サッと聖子のポケットから同意書抜き出す。

聖子 「何するの、返して!」舞台写真(広安)
「返すも何も、元々オレたちのもんなの。兵藤保っと…ありゃハンコがねぇな…ま、いいか」

保、アーミーナイフで指を切る。

キョーコ 「イタソー」
「ほらよ、血判の拇印。これで文句ねーだろ」

保、同意書を置く。
阿部、真穂を離す。

真穂 「…」

真穂、よろけながら同意書の前に座りこむ。
その真穂を狙っている阿部の銃口。

「…書けよ、名前」
真穂 「…兵藤さん…」
「生きていることが、大事なんだよ」
真穂 「…」

真穂、宮田に呼びかける。

真穂 「…宮田さん…いなくなったの、あの子…」

宮田、こっくりとうなづく。

真穂 「…そう…。…なら、仕方、ないよね…」

真穂、ふるえる手でペンを持つ。
署名しようとした、その時。

桜井 「そんなことをしなくても、この人達は出て行くよ」
阿部 「誰だ!?」
宮田 「…桜井…」
桜井 「宮田、お前、何やってるんだよ全く…。阿部さん…だったね、いいから落ちついて、銃を下ろしなさい」
阿部 「嫌だ!あと少しでこいつらは出て行くんだ、だから…」
桜井 「子どもみたいなことを言うんじゃない!言っただろう、今。そんなことをしなくても、この人達は出て行くと」
阿部 「…本当だろうな?」
桜井 「ああ、誓ってもいい」

阿部、ゆっくりと銃を置く。ホッとする一同。

聖子 「で。どうして私達が出て行くわけ?そもそもあなたは誰?」
桜井 「建設省河川局開発課の桜井です。職員がご迷惑をおかけして申し訳ありません」
聖子 「霞ヶ関のエリートが、こんな夜中に一体何の用よ?」
桜井 「これをご覧下さい」

桜井、書類を渡す。聖子、サッと目を通す。

桜井 「本日、建設省とおたくの本部との間で交わされた合意書の写しです。内容は…もちろん、おわかりになりますよね」
聖子 「(呟きつつ読んで)じゃあ…とうとう正式に…」
桜井 「ええ。本日をもって綾部川ダムの本体工事は、永久凍結が決定―――永久凍結、早い話が中止ですね」
宮田 「綾部川ダムが?あの工事が中止になるのか!?な、なぜ…」
桜井 「そりゃあ、もちろん…(チラと聖子を見る)」
聖子 「私たち、ザ・グリーン・レボリューションズの熱意あふれる反対運動に、国が応えてくれたからですわ」
桜井 「その通り」
宮田 「そんな…」
キョーコ 「ちょっと待ってよ、なんでその綾部川ダムとやらが中止になると、アタシたちがここを出てくわけ?」
「初めから、そう仕組まれてたからさ」舞台写真(海老沢)
聖子 「兵藤さん!」
「いーじゃねーの、全て終わったことだし。ザ・グリーン・レボリューションズの本当の目的はな、完成しちまったこのダムなんかじゃなくて、もっと他にあったわけ。けど、正面からきりこんでいっても到底勝ち目はない。どうするか思案してた所に飛びこんできたのが、真穂―――お前だったんだよ」
真穂 「…え…」
キョーコ 「じゃーなに、このダムは初めから取引きの材料だったってこと?」
「そ。真穂を助けたのも、ここで共同生活を始めたのも、みーんな、パフォーマンス。取り引きを有利に展開するための、芝居だ」
キョーコ 「ひどーい、アタシけっこうマジメに考えてたのにィ」
「知らなかったのはお前だけじゃない、真穂はもちろんポエット君も…」
ポエット君 「…知らなかった…私はただ純粋に…」
聖子 「自然保護に純粋も不純もないわ。あるのは常に結果だけ―――そうよね、桜井さん」
桜井 「おっしゃる通りです」
宮田 「しかし…なぜ僕が報告書を出した時にならずに…」
聖子 「(呆れて)宮田さん、あなた本当にお役人なの?」
宮田 「…」
聖子 「官僚が、自分で自分のミスを認めると思うの?…建設省が欲しかったのはあくまでも大義名分―――“環境保護運動に配慮して”という、逃げ道なのよ」
桜井 「キツいこというなあ」
聖子 「―――そして、私たちの利害関係は完全に一致した―――“ダムは、もう作るべきではない。ダムは、この国には、必要ない”」
阿部 「けど、このダムは必要なんだ!」
桜井 「わかっています、今、言ったのは、あくまでもこれから作られる予定の、ダムの話ですよ。―――女護ヶ島さん」

聖子、うなづいて、真穂の元へ。

聖子 「辛いのは良くわかるわ、入神さん。でも、あなたの勇気ある決断で、一つの森が救われるのよ」

真穂、ペンを取る。
宮田、とび出す。

宮田 「ダメだ!署名しちゃダメだ真穂さん!」舞台写真(海老沢)

桜井、あわてて止める。

桜井 「なに言い出すんだ、バカ!」
宮田 「こんな奴らに故郷を売るな!君とあの子の故郷を売るな!!」
阿部 「宮田さん!」
桜井 「いい加減にしろ、職務不履行で訴えるぞ!」

真穂、宮田を見つめ、弱々しく首を振る。

真穂 「…いいの…」
宮田 「…真穂さん…」
真穂 「…もう、いいの…」

そして、真穂は署名をする。

聖子 「ハンコも押してもいいわね」

うなずく。押す聖子。

聖子 「これで、よしと。はいどうぞ、桜井さん」
桜井 「(あらためて)確かに同意書は受領致しました。これで、全ての土地の収用は完了―――」
阿部 「じゃあ、ようやく、ダムに水が…」
桜井 「ええ。早速明日から準備を始めましょう」
阿部 「ダムが、できるんだ…ダムが…そうだ貴子に、貴子に知らせなくちゃ早く…」
桜井 「私も、お伴しますよ」
阿部 「ええ!」

阿部、桜井、去りかける。

桜井 「どうした、行くぞ宮田」
宮田 「…」
桜井 「宮田?」

肩に手をおく。その手をつかみ、桜井をにらむ宮田。

桜井 「(ゆっくりと)仕事に、良いも悪いも、ない。そう言ったのは、お前だ」
宮田 「…」
桜井 「…俺は俺の仕事をしただけだ―――わかってくれるよな?」

宮田、手を離す。桜井、去りかけて戻り、封筒を渡す。

桜井 「忘れるところだった。名古屋で局長にことづかってきたんだ」
宮田 「…これは…」
桜井 「“ごほうび”だ、今回の一件に対する」
宮田 「“ごほうび”?」
桜井 「来月1日付で、お前は中部地建から霞ヶ関へ異動となる」
宮田 「え?」
桜井 「―――栄転だよ。おめでとう」

桜井、去る。

聖子 「さてと、私たちも引き上げましょうか」
キョーコ 「出てくの?この村を」
聖子 「当り前でしょ。ま、少し休んで明日にでも帰りましょ」
「おい、残りの500万、忘れたなんて言うなよ」
聖子 「わかってるわよ、疑ぐり深い人ね」

聖子、去る。

キョーコ 「ねーどうすんの、ポエット君も行っちゃうの?」
ポエット君 「…本部の命令とあらば、仕方がない。しかし―――」
キョーコ 「しかし?」
ポエット君 「…今回は少々幻滅した…」
キョーコ 「少々どころじゃないわよ、結局だまされてたんじゃないアタシたち」
「そう言うな。1000万、タナボタで手に入ったんだからよ」
キョーコ 「そりゃアタシたちはいいわよ、でも―――(チラと真穂を見る)」

真穂、座りこんだまま、動かない。
保、真穂の横にしゃがみこむ。

「悪かったな、黙ってて…」
真穂 「…」
「…。な、もし、欲しかったら、半分の500万…」

真穂、平手で保の頬をはたく。

真穂 「…」
「…冗談だよ」

保、早足に去る。
残りの二人も追って、去る。

宮田と真穂二人。
風が吹き、祠の鈴を鳴らす。真穂が立ち上がり去りかける。
宮田、その背に。

宮田 「…ごめん…」
真穂 「…どうして宮田さんが、謝るの?」
宮田 「…貴子ちゃんに、約束したんだ。君と、阿部さんを救うって」
真穂 「助けてくれたじゃないですか、私を。阿部さんだって…」
宮田 「助けられなかった!!」
真穂 「…」
宮田 「…あの子を、助けられなかった…」
真穂 「…」
宮田 「もう一人の君を、助けられなかった…」
真穂 「…」
宮田 「…僕には、何も、できなかった…」
真穂 「…おかしなこと、言うのね」
宮田 「…え?」
真穂 「あなたは、この村を沈めるために来て、無事に仕事をやり終えた。なのになぜ、何もできなかったなんて言うの?」
宮田 「違う、僕は…」
真穂 「何が違うというの!?10年前、あなたが作ると決めたダムが、完成しただけじゃないの!!」
宮田 「…」
真穂 「―――結局、あなたは追う者で、私は追われる者…」

真穂、宮田を見つめて。

真穂 「そんなこと、最初から、わかっていたことなのに…馬鹿ね、私。…大馬鹿だわ…」

去る。

宮田一人。風が吹く。鈴が鳴る。
宮田を嗤うかのように。
ゆっくりと影達があらわれ、宮田を取り囲む。
遠い昔の家族の記憶。

影3 「…僕じゃ、ないんだろう?」
影全 「僕じゃ、ないんだろう」

宮田、おおきく頭を振り、絞り出すような声で。

宮田 「…僕、だったんだね…」

そして、宮田は、一つの道を、選ぶ。
暗転。

(作:中澤日菜子/写真:海老沢直美・広安正敬)

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