全身疾患と歯周病

はじめに

 1910年代、歯性病巣感染(=しせいびょうそうかんせん)という理論が提唱されました。これは口腔内に原発する病巣感染が二次的に全身疾患の原因となりうるという説です。しかし、当時の技術では亜急性細菌性心内膜炎以外には十分な証明が得られなかったため、この説は下火になっていきました。

 その理由としては、当時は好気性菌(酸素が存在すれば培養できる菌)の培養しかできなかったため、研究もそれらの菌に限られていたことが挙げられ ます。また、歯周病の原因が何であるのかは、この時代にはまだ特定されていませんでした。歯周病の原因がプラークであり、その中にいる嫌気性菌(酸素が存 在すると死んでしまう菌。二酸化炭素、窒素、水素の混合ガスで密閉された容器で培養します)が関係していることが証明されたのは1960年代以降のことで す(詳しくは指数の歴史的背景を参考にしてください)。

 技術の進歩に伴い、1990年代には全身疾患を修飾する(増悪させる)因子として、歯周病の原因と考えられている菌(嫌気性菌)や歯周病での炎症反応が重視され始めました。再び、歯性病巣感染に注目が集まってきました。全身疾患の修飾因子として働く歯周病について、現在はperiodontal medicine(直訳すると歯周医学、ペリオドンタル・メディスン)と呼ばれています。

 この項目ではperiodontal medicineとして注目されている呼吸器疾患、心疾患、糖尿病とその合併症、早産・未熟児について解説していきます。
 各項目ごとに、1.歯周病と関連があるとされる疾患の概要、2.歯周病が影響を与えるメカニズム、3.関連を示す研究の順に説明していきます。

 現時点(2000年)において、全身疾患に罹患している人の歯周病の状態を疫学的に調査して、どの程度の割合、危険率で歯周病が関与しているかを 評価していますが、歯周病が本当に関与しているのか、その疾患とは無関係に歯周病がみられたのかは、まだきちんと評価されていません。呼吸器疾患と糖尿病 に関しては、口腔清掃や歯周病の治療が全身疾患の発生率や症状の改善に効果がみられたとする報告もありますが、心疾患(冠状動脈疾患)と早産・未熟児につ いては、まだきちんと解明されていない部分もあります。

 

オッズ比について

 この項目で取りあげる研究に出てくるオッズ比を先に説明します。これは疾患Aに対して、因子B(この項目では歯周病)が関与していた割合を評価する方法のひとつです。例題を挙げます。

  因子B 因子なし
疾患A 120 30
疾患なし 40 90

疾患Aで因子Bを有するものの割合は120/30
疾患なしで因子Bを有するものの割合は40/90
オッズ比は(120/30) / (40/90) =9

疾患Aは疾患のないものと比較し、因子Bが関与していた可能性が9倍高いことを示しています。

 

講義のメニューへ    次に進む→


最終更新2013.1.2