歯周外科手術

歯周外科の偶発症

 偶発症とは医療時に突然おこった異常な状態を意味します。ここでは処置後におきる継発症も含めて説明していきます。

一般的な外科処置と共通する偶発症・継発症

ショック
 不安、恐怖、疼痛などによる精神的なショック、局所麻酔薬によるアナフィラキシーショック(アレルギー反応による全身症状を伴う症候群です)などが挙げ られます。ショック症状が出た場合には救急処置を行う必要があります。神経性ショックであれば患者さんを水平位か頭を約10゜低くしたショック体位にし、 衣服を緩めます。呼吸や循環器の管理を行い、必要に応じて気道の確保、人工呼吸、心臓マッサージ、薬剤の投与などを行います。

軟組織の損傷
 メスや骨膜剥離子などの不適切な操作で皮膚、粘膜の外傷を引き起こすことがあります。処置は一般的な外傷の処置に準じます。

神経・血管の損傷
 一般的に外来手術では稀であると言われています。下顎孔伝達麻酔を行った場合、神経を損傷すると知覚神経麻痺が出ますが多くは可逆的です。

術後感染
 組織の損傷、手術部位の汚染などにより、術後に腫れることがあります。術後に抗生剤を予防投与し、なるべく術後感染が起こらないように配慮します。

術後出血
 術中に肉芽組織を取り残している場合、止血が不十分な場合、あるいは血が止まりにくい人の場合、手術後にも出血が続きます。再止血を優先的に行います。

術後疼痛
 麻酔が切れるときに起こります。鎮痛剤を投与して痛みを和らげます。2〜3日経過してから起きる二次的な痛みは手術それ自体によるものではなく、他に何 らかの原因がありますので、それに応じた処置をします。 

歯肉切除術での偶発症

 メスで切開するとき、不適切であると骨が露出してしまいます。ポケット底の位置をきちんと測定することで避けることができます。骨が露出すると骨 吸収の原因になるので、十分注意する必要があります。

 

ポケット掻爬術と新付着術(ENAP)での偶発症

 スケーラーやメスの操作が不適切であると、歯肉の損傷を起こすことが考えられますが、手術そのものが簡単であるため、偶発症は起こりにくいと思わ れます。

 

フラップ手術での偶発症

 メスや骨膜剥離子による歯肉の損傷が一番多いと思います。メスをきちんと固定すること、メスを骨まできちんと当ててから剥離し、無理に剥離しない ことで避けることができます。

 骨縁下ポケットの部位にある炎症性肉芽組織を取り残すと術後の出血がみられます。手術時に十分注意し、きちんと掻爬しなければなりません。
 メスの切開線が歯から離れ過ぎていると手術後の歯肉退縮が大きくなり、したがって手術前よりも歯根の露出が大きくなります。また、知覚過敏も出やすくな ります。
 歯槽骨の形成や骨切除を行った場合には、歯槽突起が破折したり、骨髄の損傷による術後出血がみられることがあります。骨片が組織内の取り残されている場 合には取り除く必要があります。骨や骨髄から出血している場合には止血ノミで表面を挫滅させ、止血します。

 

組織再生誘導(GTR)法での偶発症

 基本的にはフラップ手術の偶発症と同じです。GTR用の膜材が手術後の歯肉退縮で口腔内に露出すると、プラークの付着による膜の汚染がおき、術後 感染によって歯周組織の再生が失敗してしまうことがあります。

 

歯周形成外科での偶発症

 歯周形成手術では移植片を採取したり切開・剥離が広範囲となることがあるため、血管の損傷による術後出血が起きることがあります。静脈分岐を明ら かに損傷している場合には止血鉗子で血管を把持し、結紮糸で止血します。それでも不十分な場合には周囲の組織も縫合して止血します。

 

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最 終更新2013.1.9