歯学部の方は次のように覚えてください。
スケーリングとは歯肉縁上においては歯の臨床的歯冠部から付着物を除去することであり、歯肉縁下におい ては根面からプラークと歯石を除去することです。
ルートプレーニングとは軟化したセメント質を除去し、根面を硬くかつ平滑にすることで す。
一般の方は、スケーリングとは歯からプラークや歯石を取り除くこと、ルートプレーニングとはその後仕上げを行うことと 覚えていただければいいと思います。
スケーラーとはスケーリングやルートプレーニングに使用する器具です。大きく2つに分けられます。先端が刃物になって いる手用スケーラーと、刃物ではないチップを振動させて使用するタイプのスケーラーです。
まず、手用スケーラーについて説明します。
鎌型(シックルタイプ)スケーラーは主に歯肉縁上のプラークや歯石 を除去するのに使用します。幅が広いため、他の手用スケーラーよりも取り除ける範囲が広いのですが、歯肉縁下には不向きです。
鋭匙型(キュレットタイプ)スケーラーは主に歯肉縁下のスケーリング・ルートプ レーニングに使用します。先端の両側に刃がついているユニバーサルタイプと、先端の片側だけに刃がついているグレーシータイ プがあります。下の写真はグレーシータイプです。使用する部位に合わせて頚部(刃と持つところの間。後述)に角度がついているのが特徴です。
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根分岐部用の特殊な形をしたスケーラーもあります。
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その他にも鍬型(ホータイプ; 上の根分岐部用スケーラーのうち、左側のもの)、やすり型(ファイルタイプ)、のみ型(チゼルタイプ)がありますが、現在はあまり使用されていません。
チップを振動させて使用するタイプのうち、代表的なものは超音波スケーラーです。毎秒 25,000〜30,000サイクルで振動します。振動により発熱するため、右の写真のように水を出しながらスケーリングします。チップはいくつか種類が あり、交換することが可能です。歯肉縁上および歯肉縁下歯石の除去に使用します。多量の歯石を取り除くのに優れていますが、ルートプレーニ ングには不向きです。
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その他に圧縮空気で振動させるエアースケーラーなどがありますが、超音波スケーラーと同様の形、使い方
をします。
エアースケーラーは毎秒2,300〜6,300サイクルで振動し、超音波スケーラーよりも振動数が少ないため不快感が少ないとされていますが、歯肉縁下
歯石の除去効果は超音波スケーラーよりも劣ります。
説明の前に、スケーラー各部の名称を挙げます。先端の刃がついている部分を刃部(=じんぶ)、握る部分を把柄部(=は
へいぶ)、刃部と把柄部をつないでいる部分を頚部(=けいぶ)といいます。スケーラーによっては、把柄部に持ちやすいように握り(グリップ)がついている
ものもあります。
刃部では刃の部分をカッティング・エッジ(切縁)といい、内面と側面が接する部分になります。
ペンや鉛筆を握るようにスケーラーを持つ方法を執筆法といいます。超音波スケーラー等はこの方法で持ち
ます。
執筆法から中指の側面をスケーラーの頚部に添えた持ち方を執筆法変法といいます。執筆法よりもスケーラーに力を加えたときに安定感が
あるので、手用スケーラーは通常はこの方法で持ちます。
把柄部を手のひらで握りこむ持ち方を掌握(=しょうあく)法といいます。口の中で使用するよりも、スケーラーを固定して砥石を動かしなが
ら研ぐときに多用される持ち方です。
![]() 執筆法 |
![]() 執筆法変法 |
![]() 掌握法 |
スケーラーを口の中で使用するときは、通常、薬指で固定点をとります。どこにも固定しないフリーハンドの状態でスケー
ラーを使用すると、力を加えたときに刃が滑って歯肉や粘膜を傷つけることがあるので危険です。
通常はスケーリングを行う部位と近い同側に固定点をとります。部位によっては、反対側や対合側(=たいごうそく;
上顎に対して下顎、またはその逆)に固定点をとることもあります。
対合側に固定点をとる場合はスケーラーを持っていない手を下顎に添え、急に顎を閉じたときに怪我をしないように配慮します。
立位診療(患者さんがいすに座った状態、歯科医が立った状態での診療)ではスケーラーを持っていない指の上に固定点をとる場合もありますが、座位診療
(患者さんが仰向けに寝た状態、歯科医が座った状態での診療)ではこの方法では固定しません。ちなみに、現在ではほとんど座位診療です。
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スケーラーを使用する角度は、鎌型スケーラーや鋭匙型スケーラーの場合、刃部の内面と歯面のなす角度が約85゜になる ようにします。目安としては、スケーラーの頚部と歯の長軸が平行になるようにし、わずかに角度を開いた状態になります。超音波スケーラーやエアースケー ラーの場合、チップの長軸と歯の長軸が0〜15゜になるようにします。
固定点は前述したように通常、薬指で行います。どのタイプのスケーラーを使用するときも一緒です。
手用スケーラーの場合、スケーリング、ルートプレーニングともにポケット底から引く方向(pull stroke)で行います。のみ型スケーラーだけは例外で、押す方向に使用します。
手用スケーラーでのスケーリングは固定点を支点として、前腕の回転運動と指の屈伸運動を組み合わせて行います。 そのとき、歯石の底部から一塊として弾くように力を入れます。スケーラーを引くときは1〜2mmの範囲にとどめ、ポケット底から歯冠側に移動していきま す。
手用スケーラーでのルートプレーニングは指の屈伸運動のみで、軽くなぞるように行います。
超音波スケーラーやエアースケーラーを使用する場合は、一ヵ所に長く当てると不快感が強いため、チップを細かく 動かしながら行います。
歯肉縁下のスケーリング・ルートプレーニングでは健康な付着を破壊しないよう、BOP(プロービング時の出血) があった部位のみに行います。 また、歯周ポケットが深い部位は浸潤麻酔をしてから行います。
ルートプレーニング後はプローブやよく研げているスケーラーで根面をやさしくなぞり、歯石の取り残しや粗造な面 がないことを確認します。
歯肉縁上のスケーリングは初期治療の比較的早い時期に行います。これは粗造な歯石表面にプラークが付着しやす く、また除去しにくいため、患者さんの口腔清掃を妨げるからです。ただし、広範囲に歯根露出している患者さんの場合は、一気に歯肉縁上歯石を除去するとあ ちこち知覚過敏が出ることもあるので、何回かに分けてスケーリングする方が無難であると思われます。
歯肉縁下のスケーリング・ルートプレーニングは、基本的にPCRが20%以下に維持できてから行いま す。歯肉縁上が清潔に保たれていることで、歯肉縁下の処置も効果が出てきます。どうしても20%以下にならない患者さんの場合には、その人なりの低い値を 保てるようになってから行います。
スケーリング・ルートプレーニングは初期治療だけではなく、必要に応じて修正治療やメインテナンス時にも行いま す。
手用スケーラーは刃物であり、切れ味が悪くなったら研ぐ必要があります。これをシャープニングといいます。切れ味の悪 いスケーラーでは歯面を触知する感触が損なわれ、余計な力が加わることで患者さんの不快感が増したり、歯石を取り残してしまうことがあります。
砥石には天然石と人工石があります。天然石の代表的なものはアルカンサス・ストーンで す。人工石の代表的なものはセラミックです。目詰まり防止のため天然石は機械油、人工石は水で濡らしてシャープニングしま す。
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アルカンサス・ストーン | セラミック |
シャープニングには砥石を固定してスケーラーを動かす方法と、スケーラーを固定して砥石を動かす方法があります。ここ
では砥石を固定してスケーラーを動かす方法について述べます。
基本的には下の図の状態から引いていきます。引いたり押したりすると刃が鈍るので、必ず一方向に研いでいきます。
刃部は弯曲に合わせて元の形を崩さないように研いでいきます。特に鋭匙型スケーラーの場合、下の図で3の部分を尖らせ てしまわないよう、注意する必要があります。
また、グレーシータイプの場合には頚部に曲がりがあるため、把柄部の角度が異なってみえますが、刃部に近い部分の頚部と砥石のなす角度は全て約 30゜です(内面と側面のなす角度は70〜80゜になります)。刃部の先端の部分(上の図で3の部分)は内面と側面のなす角度が90゜になるように調整し ます。
きちんと研げたかどうか確認する方法がいくつかあります。カッティング・エッジが「線」になっていれば、光を反射させ ても光ってみえません。きちんと研げていない場合、カッティング・エッジが「面」になっているので光を反射させると光ってみえます。
カッティング・テスターというプラスチックの棒を使って確認する方法もあります。
診療中にも滅菌した砥石を準備し、常に鋭利な状態でスケーリング・ルートプレーニングを行います。
最終更新2013.1.7