デジカメ口腔内写真

はじめに

 現時点(2001年4月)で、デジタルカメラ(デジカメ)を用いた口腔内写真撮影が普及しつつあります。この背景には保険診療での「かかりつけ歯科医初診料」の算定用件にスタディモデル(石膏で作った歯の模型。診断や治療計画に用いられます。日本語では研究用模型)または口腔内写真検査等を用いて治療計画を立て、患者さんに文書を提供して説明をしなければならないという項目があるためです。
※2002年4月の改定で疾患の状態を示す病態図や病態写真も認められるようになりましたが、その患者さんのスタディモデルや口腔内写真の方が説得力に勝るといえます。
 多くの患者さんのスタディモデルを保管するためには場所を確保しなければならず、印象に石膏を注入する時間を初診ごとに取られ、さらに模型が完成して説明できるのは次回来院時になりますので、かなり煩雑になってしまいます。
 写真や35mmスライド(カラー・リバーサル・フィルム)の場合でも、現像するのに時間が必要なため、説明は次回来院時になってしまいますし、撮影が失敗であってもその場ではわかりません。
 この点、デジカメは撮影結果をすぐに確認できるので、撮影の失敗を心配する必要がなく、その場でプリントできるため、患者さんに説明を行なう即時性にも優れています。

 歯科大学の臨床講座や、臨床発表を行う先生方の場合、治療の推移を35mmスライドで保管しています。これも膨大な数になると(以外にスライドホルダーはかさばるため)保管場所に苦労してしまいます。また学生教育(臨床実習)においても、デジカメを使用すればその日の診療で撮影したものをコンピューターの画面上ですぐに説明できるため、教育効果も高いと考えられます。

 現時点で、デジカメの画像は銀塩カメラの画像と比較すると劣る面もありますが、利点も存在します。

利点 欠点
保管に場所を取らない(コンピュータ上で管理できる)。

退色や指紋・ほこりによる汚れの心配がない。また、複製する場合にもオリジナルと同じ画像が得られる。

撮影結果をその場で確認できるため、撮影の失敗がない。

色の補正が行いやすい(銀塩カメラは電球下で赤かぶり、蛍光灯下で緑かぶりとなるが、デジカメはホワイトバランスが行える)。

被写界深度(ピントが合う深さ)が大きい(昆虫のマクロ撮影には利点であるが、ぼかす効果を狙うときには欠点となる)。

記録メディアを再使用できるので、フィルム代がかからない。

CCDカメラの性質により、露出オーバーとなりやすい。

粒状性(どこまで細かく再現できるか)が銀塩カメラよりも劣る。

諧調表現(色の濃淡)が銀塩カメラよりも劣る。

同じ条件で撮影しても露出が異なる?(後述します)

きちんと写真を整理する場合、コンピューターやフォトレタッチソフトが別途必要になる。また、その使用法を習得する必要がある。

 撮影した直後では35mmスライドが優れているでしょうが、見方を変えればそれなりのデジカメを用いた場合、10年、20年の長期的なメインテナンスを行っている症例があるとして、発表で何度も使われ、退色や汚れにさらされた初診時のスライドと、デジタルデータで保管してあったものを比較した場合、どちらが画像として優れているかは明らかです。という考えもアリですよね。

 

マクロ撮影-歯科用撮影の難しさ

 一般のマクロ撮影のテクニックが、歯科の撮影では欠点となりうることもあります。

 

一般(花、昆虫) 歯科
シャッタースピードと三脚 ぶれを防ぐため、三脚が使用できる。 患者さんとの位置関係により、三脚は使用できない(マクロ撮影では手ぶれを起こしやすい)。
絞り 絞りを開放し、前後をぼかすのもテクニックのひとつ。 歯、歯肉、粘膜全てにピントが合うことが望ましい(絞った状態でのパンフォーカス-画像全体にピントが合うこと-にすると、画像の明るさを確保するためにシャッタースピードを遅くする必要があり、結果として手ぶれを起こしやすい)。
露出とフラッシュ 影を入れて立体感を出すのもテクニックのひとつ。 影は邪魔なので無影撮影が望ましい(接写でリングフラッシュを使用する必要があるが、露出オーバーになりやすい)。

 レンズ付きフィルムで撮影したスナップショット(思い出の記録)と一眼レフカメラで撮影したコンテストに出すような写真(芸術作品)を比較して、あーだ、こーだ言うのはナンセンスであるといえます。
 同様に歯科の撮影においても、患者さんに「ここに虫歯がある」「ここの歯ぐきが腫れている」と説明するもの(そこに病変があることがわかればよいもの、余計な口腔外の部分が写っていてもよいもの)と、一定条件(口腔外の余計な部分が写っておらず、必要な部分がきれいにクローズアップされていること)で撮影を行い、歯科医師同士の臨床検討に耐えうる画質のものでは、デジカメに要求されるスペックが異なります。

 以上のことを踏まえて、口腔内撮影用に適したデジカメの条件を挙げます。

1. マクロ撮影が行えること。通常では1/2倍から1/1.5倍。局所の拡大では1/1倍まで接写ができること。カメラの種類によってマクロコンバージョンレンズやマクロ撮影用の中間レンズが取り付けられること。

2. マニュアル・フォーカスが使用できること。光沢の強い歯ではオートフォーカスが合いづらい。またミラー像の撮影をオート・フォーカスでピントを合わせることは難しい(半押しでフォーカス・ロックしてからカメラ位置を前後に移動して合わせれば可能でしょうが、神技です)。

3. シャッタースピード、絞り、露出、ホワイトバランスの調整が行えること。露出はシャッタースピードと絞りから決定されますが、手ぶれを防ぎ、パンフォーカスで撮影できる最適な条件を設定するためには、シャッタースピードと絞りが個別に設定できる方が望ましいです。また、色調をきちんと再現するためにはホワイトバランスを調整できるものが望ましいといえます。

4. 光学ファインダー。マニュアル・フォーカスの場合、背面の液晶モニターに写しながらピントを合わせるのは結構難しいです。ファインダーで確認する際、二眼だと見えている像と実際に撮影される像が違ってしまうため、一眼光学ファインダーを備えた機種が望ましいといえます。

5. リングフラッシュが接続可能なこと。それなりに接写して撮影する場合、ユニットの無影灯だけでは露出アンダーになってしまうことがありますので、リングフラッシュが接続可能な外部端子が付いていることが望ましいといえます。

 

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