2024年6月のミステリ 戻る

忍鳥摩季(おしどりまき)の紳士的な推理 
双葉社 2024年 穂波了著 277頁
あらすじ
「白銀のループ」
「月夜のストップ」
「怪物とコントロール」
「私と彼のタイムリープ」
四話の物語
感想
超常現象が常態の時代(”超常現象”とは呼ばないか)、トンデモ設定のハウダニット物。
一話と二話は動機とかはどーでもよくて、トンデモを利用したHOWが面白い。
ところが、三話目から雲行きが怪しくなってくる。
四話目になると、「情」にまみれたふたつのストーリーがコンガラがり、なんかどーでもええわ好きにしてみたいになってきた。
主人公が事件にかかわるのに「超常現象が起こったので呼び出された」というチョーモンイン設定を使えないからこうなってしまったのか。
作者は満足してるの? 素材はいいのにうまく料理できていないみたいでもったいない。
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ツミデミック 
光文社 2023年 一穂ミチ著  270頁
あらすじ
「違う羽の鳥」2021年11月〜
「ロマンス☆」
「憐光」
「特別縁故者」
「祝福の歌」
「さざなみドライブ」2023年7月
感想
中国武漢から始まったパンデミックの時代を初期から収束していく頃までを描いた短編集
コロナに感染したひと、その関係者はいない。間接的に影響を受けた人々の話。
前半3篇は得体の知れない不安、後半三篇はワクチン接種も進み、災厄を通り抜けそうな明るさが見える。
印象深いのは「ロマンス☆」 依存症って怖い。再発の種はなくなったようでも身に潜んでいる。
 
個人的には大きな影響を受けなかったので、あの騒ぎは今では夢をみていた様な気もする。
(こんなんゆーたらあかんかもしれんけど、若い人たちが重症化しにくかったのは不幸中の幸いやった)
振り返ってみれば風聞によりなんの関係もないトイレットペーパが無くなるなど、1973年のオイルショック当時が再現され歴史は繰り返すというか人って進化しないんだと思った。
ふたつめはウーバーの出現かな。自転車で疾走してはるのを見てると風景が変わった感じがした。
三つ目は薬の「副作用」が「副反応」に変わったこと。「副作用」だと薬のせいになるけど「副反応」だと受け手のせいになるかららしい。
パンデミックのどさくさに紛れて変えたのは誰? その言葉の力、マジックに驚いた。
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哀惜(あいせき) The Long Call
ハヤカワ・ミステリ文庫 2019年 アン・クリーヴス著 高山真由美訳 577頁
あらすじ
英国ノースデボンの海岸で男の死体が発見される。
見かけない顔だったが、町の複合施設で被害者がボランティアをしていたことが判明する。
その施設はマシュー・ヴェン警部のパートナー・ジョナサンが切り回していた。
感想
「ジョー・ペレス(シェトランド諸島)」、「ヴェラ」とシリーズがドラマ化されている英国のミステリ作家アン・クリーヴス最新作
昔TVで「ダウン症の子は明るい子が多く育てやすい。音楽の才能のある子もいる」と聞き、「そうなんや」と思っていた。
本作にはダウン症の女性が3人出てくる。外交的な人もいれば内気な人もいる。個性があるのは当たり前のことなのに
単純にレッテルを貼ってしまう自分を反省する。
 
小さな町と組織の闇が暴かれていくお話。
主人公の警部はキリスト教の小さな宗派で育てられそこから脱出したというかはじき出された過去を持つ。
自信に満ちぐいぐい引っ張るリーダではなく、つねに自省しているおとなしい人だ。反対にパートナーのジョナサンは明るく行動的。
「思い込み」「硬直した思考」「思考停止」に対し作者は警鐘を鳴らしている。と感じる。
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卒業生には向かない真実 As Good As Dead
創元推理文庫 2021年 ホリー・ジャクソン著 服部京子訳 665頁
感想
「自由研究には向かない殺人」 「優等生は探偵に向かない」に続く三部作完結編。
「自由研究には向かない殺人」は過去の事件をほじくり返し、反って二作目「優等生は探偵に向かない」は現在進行中の行方不明事件を主人公ピップがポッドキャスト配信で情報を集め調査を進める。
三作目の本作は大学入学前の休暇中、世の中に半分絶望しているピップの内向きでダークな内容であり、驚きの展開となる。ただ、なぜ監視カメラを設置しないの?という疑問は残る。