2023年11月のミステリ 戻る

黄金比の縁 
集英社 石田夏穂著 109頁 2023年
あらすじ
(株)Kエンジニアリングは主力が「尿素・アンモニア」のプラント設計会社。
バケ学を専攻し花形のプロセス部に配属された小野は、思わず知らず”やらかして”しまった結果人事部に異動となる。
セクハラを内部告発した人物=会社に不利益な問題児と烙印を押されてしまったのだ。
人事部の”採用担当”という畑違いに飛ばされた小野はこれを利用する。
(株)Kエンジニアリングを内部からじわじわと崩壊させる遠大な計画だった。これを深謀遠慮という。
感想
爽快なようなドロドロしているような作品。
芥川賞の候補作やったらしいけど、受賞にならなかったのが残念です。
大企業のえーかげんな上っ面だけーの体裁を切り刻んでいる。
「縁がなかった」という受け手を諦めさせる魔法の言葉は、理由をまっとうに説明できない時にしばしば使われる。
採用は担当者の好みと会社の(おおやけに出来ない)都合で選んだだけ だった。
 
面白いねんけどはるか昔、就活で30社の会社訪問に走り回った身としては読んでてその頃の不安と苦しさを思い出しちょっとイタイ。
入社したら短卒大卒はほぼ縁故。大企業の役員の娘がごろごろしてた。
人事では「某保険会社の会長の孫娘」と呼ばれている子もいた(名前なんぞ憶えちゃいない)
走り回っていたのは私だけ?(採用されたのは恐らく大学図書館の受注のための添え物だったと後年知る)
そして、女子の採用のものさしはずばり”若手社員の嫁になれるか”。男には早く身を固めさせて辞めれなくし女は早く回転させるのが会社の方針。
やってんけど、10年、20年たつうちに「腰かけ(であって欲しいのに)、腰かけじゃなくなり」ってなっていく。
女性がながーくあろうことか定年まで居座る様になるの。
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マーダーボット・ダイアリー MURDERBOT DIARIES
角川書店 マーサ・ウェルズ著 中原尚哉訳 上305頁 下339頁 2017年-2018年
感想
『システムの危殆 All Systems Red』ヒューゴー賞 ネピュラ賞 ローカス賞
『人工的なあり方 Artificial Condision』ヒューゴー賞 ローカス賞
『暴走プロトコル Rogue Protocol』
『出口戦略の無謀 Exit Strategy』
の四作品
 
夏休みの間、図書館では小中高生向けのおすすめ本が展示される。そこからチョイスした本
(まあ、中高生の読書の邪魔をしている訳ですが、言い訳をさせてもらうならあの市民図書館で中高生の姿を見かけたことがない)
 
よくわからないので続けて2度読む。2度読んでもよくわからないのが情けないけど面白い
主人公は警備ユニットでクローンの生態組織(有機)と非有機構造から作られており、傷ついた時には血が流れ機能液が漏出する。
この警備ユニットには大きな秘密がいくつもある。
ひとつは統制モジュールをすでにハッキングしていて、いわば自由な奴隷の身の上。雇い主のけちな保険会社からの命令に従わないことも可能。
ふたつめは手の空いた時には密かに連続ドラマを見ていること。お気に入りは「サンクチュアリームーンの盛衰」 かなりの耽溺でほぼ中毒。
まあ孤児の様な身の上で自分の力で生きてきた。過去のトラウマもあり自虐的に自分のことを「マーダーボット」と言う。
それゆえこじらせていることも多々ある。
警備のプロとしての自負があり、人間たちは赤ん坊の様に無警戒で手がかかるし慰安ボット(セックスボット)や人間にかわいがられている甘ちゃんボットはほんと気に入らない。
人間にやさしくされるといたたまれないし恐怖すら感じる。アーマーを装填し顔を隠しめだたないようクールでビジネスライクに仕事をしたい。
 
評判やったらしいけど、翻訳がすばらしい。日本語の多彩さがいかんなく発揮されもしかしたら原作よりいいかも(もちろん原作を読む力はありません)
警察官や自衛官が「本官」というように主人公は自分のことをストイックに「弊機」っていうの。
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素敵な圧迫 
角川書店 呉勝浩著 277頁 2023年
感想
『素敵な圧迫』
『ミリオンダラー・レイン』
『論リー・チャップリン』
『パノラマ・マシン』
『ダニエル・《ハングマン》・ジャービスの処刑について』
『Vに捧げる行進』
の6篇からなる短編集
 
主人公の成長物語『素敵な圧迫』は松尾由美『瑠奈子のキッチン』を思い出す。
”冷蔵庫が好き”ってからだけ、なんですけど。
映画「天国と地獄」の様なハングリーでギラギラの『ミリオンダラー・レイン』と米国のペイパーブック(パルプ・フィクション)みたいなボクシングの話『ダニエル・《ハングマン》・ジャービスの処刑について』は映画を見ているみたい。