1998年10月のミステリ

ミス・オイスター・ブラウンの犯罪
ピーター・ラブゼイ著 ハヤカワ文庫 490頁
表題作「ミス・オイスター・ブラウンの犯罪」をはじめとした18作品からなる「煙草屋の密室」に続く第二短編集
感想
イギリス・ミステリ傑作選にも載っていた「死のひと刺しはいずこに('88わが手で裁く)」「ポメラニアン毒殺事件('87ポメラニアン毒殺事件)」がいい。特に「死のひと刺しはいずこに」はコージーミステリとして秀作。
シャーロット・マクラウド編集のクリスマス・アンソロジー(聖なる夜の犯罪)にも載っていた「クレセント街の怪」が一番好き。某古典有名作家の某短編作品を思い出します。わけわかりませんね。ごめんなさい。


**ネタバレあります。ご注意!!***
初めて読んだ作品では「ミス・オイスター・ブラウンの犯罪」は、映画「毒薬と老嬢」みたいで面白かった。(「敬虔なキリスト教徒の隣に外国人を埋めるなんて!そんなひどいことできないわ!」笑)
「床屋」は、全編床屋のおしゃべりで異色作です。
「ユーダニット」は”ある理由”で驚きました。う〜ん先に見ていてよかった(ホッ)。
おすすめ度:★★★1/2
戻る


瑠奈子のキッチン
松尾由美著 講談社 279頁
あらすじ
結婚2年目31才の留奈子は家の事もそつなくこなし、「彫金教室」「フラワーアレジメント」「お菓子作り教室」と3つのお稽古事に通う専業主婦。夫の両親が遺した一軒家に夫婦二人で住み、ローンのためにパートにでる必要もなく気楽な留奈子の元に大手家電メーカーの社員となのる中年男性が訪れる。「米国に留学した経験を持つ」留奈子を見込んで秘密プロジェクトへの協力を要請に来たのだ。
感想
「このストーリーはどこに行きつくんだろ」と思っていたら、話のもって行き方が旨いというか、攻め方が超ユニークというか驚きました。コミカルながらもちょっとせつない物語です。
おしゃべりせず黙々とそつなく勤めを果たしている、見た目もきれいな電化製品、例えば夫と同じ175センチの高さの冷蔵庫に「夫にない親近感をこよなく抱く」主婦留奈子。何故なんだろ?ちょっと寂しそうな人が主人公なんだなと読み始めたら止まらない。
主婦歴2年の留奈子が家事があまり好きではないと書いてあるのを読んで、自分の主婦歴を思い浮かべてそのあまりの長さにちょっとショック。ここに書けないくらい長い。ただ長いだけ。
おすすめ度:★★★★
戻る


不条理な殺人 ミステリー・アンソロジー
祥伝社 ノン・ポシット 406頁
あらすじ
山口雅也、有栖川有栖、加納朋子、西澤保彦、恩田陸、倉知淳、若竹七海、近藤史恵、柴田よしき、法月綸太郎、人気作家十人のミステリー・アンソロジー。
感想
面白かった2作品の感想をば・・・。
山口雅也「モルグ氏の素晴らしきクリスマス・イヴ」
ノスタルジックでウェットなストーリーが多い中、これは面白かった。40半ばまで「寂しいクリスマス」を送ってきたモルグ氏が、一転「いかに仲間の多いクリスマスを過ごすにいたったか」の顛末を描いたブラック・コメディ。
柴田よしき「切り取られた笑顔」
「手段変われど話かわらず」のミステリやねんけど、個人のホームページに対する言及がシビア。「何の資格もなく特殊性もない一介の主婦やOLが、役に立つのか立たないのかわからないような私的情報を好き勝手に流すことのできる世界。」なかなかゆうやん(笑)。それが革命的ともいえるんちゃうなんちゃって。限りなく自己満足の世界やもんね。
おすすめ度:★★★1/2
戻る


金のゆりかご
北川歩実著 集英社 324頁
あらすじ
タクシーの運転手をしている29才の野上雄貴は、突然GCS幼児教育センターという企業から、年収一千万円という就職の勧誘を受ける。野上自身幼少の頃GCSで英才教育を受け、天才少年Yと騒がれた経歴を持っていた。「大学受験に失敗した自分を、いまさら何故会社に入れようとするのか。」わりきれない理由は、それだけではなかった。GCSの創始者近松吾朗博士は、認知はされていないが野上の実父であり 天才少年でなくなった自分を見捨てたという思いが野上にはあった。
感想
天才の定義というと様々にあると思いますが「その人が存在しなければ、その発明、発見、理論は生まれなかった。もしくは、50年後100年後になっていただろう人」というのを読んだことがあります。いまどき小学生が東大の入試問題をスラスラ解いたからといって、「天才」とレッテル付けするだろうか?

前半は英才教育の陽と陰、また鬱積した野上の感情が語られていて考えさせられる事も多かった。後半はごたごたとエピソードが輻輳し、ご都合主義な展開もラストで救われたかな。

映画「バックマン家の人々」でリック・モラリスが4才の娘に施している幼児への英才教育が印象的ですね。あの白い紙いっぱいに赤い丸が描いてあって瞬時に個数を読みとる訓練。あの方式と同じだったと思うのですが、以前TVでやっとこさお座りのできるようになったボーッとした赤ちゃんに、一秒間隔で様々な絵のカードを次から次へと見せていって頭脳を刺激するってのを見ました。引きつけおこすんやないかと思いました。その時に教材会社の人は「十年後、二十年後を見てください」と言われてました。私は「子供は親以上の頭にはめったにならない」と思っています(笑)。

これもまた昔バナシですが、15年ほど前に東京大学の教授が「私の知っている天才は、碁の趙治勲君だ。」と書いてはったのが記憶に残っています。「オールマイティの学力を求める入試試験で、東大に現在も過去も秀才はいるが天才はいない。」と断言してはりました。それで刷り込まれてしまい、趙名人の名前にあう度に「この人が天才なんか。」と思ってしまう(笑)。
日々バカになっていくさぼてんとしては、英才児を作る研究よりアルツハイマーの特効薬開発の方が切実。
おすすめ度:★★★
戻る


ノックは無用 MISCHIEF(危害)
シャーロット・アームストロング著 小学館文庫 藤瀬恭子訳 1950年 274頁
あらすじ
ニューヨーク最後の夜を恋人のリンとデートしていた”上昇志向男”ジェドはささいな事からリンと喧嘩別れをしてしまう。せっかくの夜が台無しになって気分がおさまらないジェドは、ホテルの向かいの窓から若い女性に誘われ、部屋へ訪ねていく。
感想
マリリン・モンロー、リチャード・ウィドマーク主演「ノックは無用」の原作。
映画では、ジェドの恋人リンがホテルのクラブ歌手という設定(アン・バンクロフトの貫禄)でしたが、それ以外は、ほぼ原作どおりにストーリーが進みます。ただ、上の<あらすじ>の書き方に違いがあるように、本ではジェドにウエイトがかかっていました。
一カ所大きな違いがあって、それが映画と原作の雰囲気を大きく変えています。本は全体に肌にザワザワとした不安を感じますが、映画の方は哀しい。
おすすめ度:★★★
戻る


完璧な絵画 Pictures of Perfection
レジナルド・ヒル著 ハヤカワポケットミステリ 秋津知子訳 1994年 370頁
あらすじ
英国ヨークシャーの小さな村で駐在の巡査が行方不明となった。いや、まだ行方不明とも失踪とも、もしかしたら、殺人・・・ともわからないのだ。どこかで遊びほうけている可能性もある。非番なのだから。
感想
目出し帽をかぶった人物が、村の人々を次々と狙い撃ちする流血の大惨事から始まるこの物語は、一転事件の二日前にバックし「何故このような事件が起こるにいたったのか」という謎を解明していく。
英国が誇るダルジール警視(さぼてんの頭の中では巨漢オーソン・ウェルズ)シリーズ13作目。

一見牧歌的な谷間の小さな村は、実は「不思議の国のアリス」にもおとらず、村も村人も軸が少し傾いている。ああ、ええんよなあ、この美しく、滑稽で皮肉で意地悪な雰囲気。この英国の伝統を味わおうと大事に大事に読んでいたら、わけわかんなくなってまた戻って読んでと10日くらい取り組んでいました。
おすすめ度:記憶に残るゾ★★★1/2
戻る