2018年1月のミステリ 戻る

窓辺の老人 キャンピオン氏の事件簿T THE CACE OF THE OLD MAN IN THE WINDOW AND OTHER STORIES
1936年−1939年 マージェリー・アリンガム作 創元推理文庫 271頁
あらすじ
「ボーダーライン事件」 深夜に一人の男が道に倒れ込むのをパトロール中の巡査が目撃する。”真の恋”の話
「窓辺の老人」 <ジュニア・グレイズ>クラブでは20年間ローズマリー御大が窓辺に座っていた。御年90才
「懐かしの我が家」 モンテカルロカジノでキャンピオンは昔なじみのマーガレットと会う。 彼女は<燕荘>を人に貸してここに休養に来たという。はて? あの凍えるように寒い屋敷をどんな酔狂人が借りるというんだ?
「怪盗<疑問符>」 石頭 謹厳実直なサー・マシューと婚約した若きクロエ嬢のためにひと肌ぬぐキャンピオン。この婚約が解消されれば今後クロエの”軽さ”は暴走するばかり。ここらで片付くのが本人のため。
「未亡人」 名付け子の洗礼の贈り物にキャンピオンは1ダースのポートワインを残す。そのポートワインは坊やが25歳まで飲めないようにワイン商の蔵で封印された。
「行動の意味」 世界的なエジプト学者がミュージックホールを渡り歩くようになったのは何故? 踊り子の追っかけか?
「犬の日」 あらゆる神秘、不可思議な物、奇跡的な光景は、薄明の中でこそ堪能できる。を実体験したキャンピオン。砂浜で犬と老人と娘は何を協議しているのだ?
の7編の短編集
感想
あまりに英国的な習性を少し毒を含んだユーモアに包んだ謎の数々。
「懐かしの我が家」のミセス・マーガレット・バンティングワースが楽しい。
 
    「今ここにマーティがいればねえ。」「彼ならどうすればいいか、すぐに教えてくれるのに・・・」
   キャンピオンは両目をぱちくりさせた。これまでずっと、今は亡きバンティングワース氏の洗礼名は”ジョージ”だとばかり思っていたのだ。
   だがマーガレットのことだから、頭の中であっさり夫を改名することぐらいはやりかねない。
 
「ハーヴェイ」の混乱したジョセフィン・ハルを思い出す。笑った。
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インヴィジブル・シティ Invisible City (invisible:目に見えない)
2014年 ジュリア・ダール作 早川書房 443頁
あらすじ
ニューヨークのスクラップ置き場で全裸の女性の遺体が発見される。
しかし遺体は大きな帽子と長いコートを羽織った男たちに持ち去られる。検視もされない。
感想
なかなか生真面目な小説やった。
 
ニューヨークのブルックリンで時々風物みたいに映る「黒い大きな帽子と長い髭、黒の長いコートを羽織った人たち」はみんなユダヤ教のラビかと思っていたんやけど違ってた。正統派ユダヤ教徒の人達で「ハシド」というらしい。ラビ以外の人たちもああいう服装なんやって。結婚した女性は丸坊主にされかつらをかぶっているとか。多くは収容所の生き残りの子孫。厳格な戒律と閉鎖的社会で生きながら商売は上手でニューヨーク市へ大きな力を持っている。というのが垣間見れる小説。殺人事件よりどっちかというと語りたいのはこちらの方。
 
主人公レベッカ・ロバーツはニューヨーク・トリビューン紙の通信員。新聞社へ顔を出すことも無く当然ながら机も居場所も無く電話ひとつで現場を駆けずり回り取材をするのが仕事。ライバル紙でも現場ではそれとなく助け合っている。
レベッカはキリスト教徒の父と、正統派ユダヤ教徒の母の子供。母は17才でレベッカを生むと5カ月の子供をフロリダに置いてニューヨークに帰ってしまった。レベッカは24才の今も母に捨てられた子と感じている。こちらが2つ目の主題。
殺人事件と犯人の探査は上の2つを描くために「読者の興味を引っ張る道具」の要素大。
 
ふたつのルーツ、ふたつに引き裂かれたアイデンティティ(自分が自分であるためのもの)に主人公は苦しむ。そして母は何者だったのか? ハシドの世界とは自分よりも大切なものだったのかを見極めたいと願う。
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