2016年4月のミステリ 戻る

ヘンショーさんへの手紙 Dear Mr.Henshaw
1983年 ベバリー・クリアリー作 谷口由美子訳 あかね書房
あらすじ
小学二年生の時に学校で先生が読んでくれた「犬の本」で作者のとりこになった男の子リー・マーカス・ボッツは、4年生になって自分で「犬を喜ばせる方法」を読み作者のミスター・ヘンショーに手紙を書く。リーはママとふたりで暮らしている。パパはアメリカ合衆国を横断しているトラック野郎。尻を落ち着かせる事のできない男だ。
感想
なぜこの本を読んだかと言うと、この間WOWOWで映画「ハッピーエンドが書けるまで」を見ていたら、「この1冊を挙げるなら『ヘンショーさんへの手紙』 100回読んだ。」というセリフがあって、「どんな本なんやろ」と興味を持ったから。
 
作家をめざす子のバイブルのようなお話やった。
 
「読んで、見て、聞いて、考えて、そして書きなさい。日記を書きなさい」という作家の返信に反発を覚えとまどいながらもリー・ボッツは「ヘンショーさんへの手紙」という形の日記を書き始める。
ウチの感想はスマップの中居の歌と同じく経年してもさっぱりうまくならない。もともと文才がない上に言葉知らんのと、たぶん考えて書いていないからだと思う。他人の頭を開いて見られへんからね。「考える」ことは真似するのが難しい。そやから個性になるねんけど。語られても本当のとこプロセスはわからない。(話は飛ぶけど、おとなしい兄やのに子供の頃よく母親に「あんたの頭を開いて見てみたいわ!」って叱られていた。怒られるとわかっていながら止められない男の子のサガが優等生女には理解しがたかったんやね)
その「言葉を尽くしてもわかりにくいこと」を気づかせ、わかりやすく語るのが作家やねんね。児童文学の作家が心を砕くんやね。
お薦め度★★★★戻る

オリーヴ・キタリッジの生活 Olive kitteridge
2008年 エリザベス・ストラウト作 小川高義訳 早川書房
あらすじ
ところはアメリカ東海岸の北メイン州クロズビーという小さな港町。スモールタウンだ。
オリーヴ・キタリッジは元中学の数学の先生。図体の大きい女で歯に衣着せぬ個性の持ち主。愛想もない。何かにつけ強制されるとむくむくと反骨精神が湧き上がる。夫は温厚で親切な元薬剤師のヘンリー。一人息子はクリフトファー。無口な息子は足のお医者になって離れていった。オリーヴは脇役でもあり思い出でもあり30年を超える町の人々とその生活を描く13篇の連作短編集。ピュリッツアー賞受賞作。
感想
大災害が降りかかるわけでもなく、家族も自分も周りの人も不治の病にかかるわけでもない。9.11もニューヨークの出来事。
それでも「思ったようにならないのが人生」のごとく、様々な出来事が人それぞれの思惑と交差する。
 
読んでみるきっかけは、アリキリの石井正則さんが日経新聞の読書日記で何度も読み返していると話されていたから。
アン・タイラーの「ブリージング・レッスン」を思い出させるような作品。1950年代のような古風さで現代がでてくるとは思わなかった。
確かに一度読んだだけではよくわからない。
辛口のユーモアもたっぷりあるんやけど、どこかしらさびしい。人と「離れる、近づく」という話と感じる。
きかん気な妻であり、恐い支配的なママだったオリーヴは強烈な個性ゆえ、教え子にも慕われることはない。それでも感受性が鋭くカンがいいからか幾度となく昔の教え子を救ったりする。救えない子もいる。「上げ潮」と人質になるという非常事態での犯人そっちのけの夫婦喧嘩「別の道」がいいな。見かねた医者が仲裁に入る。
 
 二枚のスイスチーズをくっつけたような、とオリーヴは思った。
  穴だらけだ。いままでの生活で、ぼこぼこ穴だらけになっている。
   その穴をすべて持ち寄った。
 
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永い言い訳 
2015年 文藝春秋 西川美和著
あらすじ
スキーバスが崖から転落。親友同士だった夏子とゆきは亡くなった。
夏子の夫、作家の津村啓(衣笠幸夫)は泣けない。世間体のため悲しみの演技をしているような気がする。妻の旅行中に編集者の愛人と自宅のベットでいいことしていた夫だ。一方ゆきの若い夫でトラック運転手の陽一は直情型で幼い灯(あかり)と難関中学を目指している真平のふたりの子供をかかえ生活に苦しんでいた。
感想
「ゆれる」、「ディアドクター」の西川美和監督の直木賞候補作
辛口のホームドラマ。よい話なような、どろどろしたものが詰まっているような小説
夫が売れても美容師をやめようとせず、自分を持っていた夏子。ふたりは子を持たず共通の関心ごともなく、別れることもなくなぜ一緒にいるのか考えることもやめ、そして突如襲った永遠の別れ。
幸夫は陽一の息子真平が塾に行っている間、陽一の家で4歳の灯(あかり)と一緒に留守番を始める。兄と妹と交流するうちに父性というか大きいお兄ちゃんのような気がしているのをマネージャーに見透かされ、心の中でせせら笑われている。決して相手にさとらせない心の内をめくり、いじわるな展開と思う。そやねんけど、この体育会系のマネージャーが「よくできた妻」の夏子を苦手としていたり、灯が変わった目の練習をしたと白状したりと全体にユーモアもあって幸夫のじたばたぶりもおかしい。4歳の灯も含めてどの人も、上手に自分の事を語る事のできる人たちやねんなと思う。
 
小さい頃や若い頃は自分のことだけで生きているけど、年をへるごとに好きなことだけしていられず背負う荷物は重たくなり、荷物が無くなっても何かが残ったままで、その何かと折り合いをつけていかなくちゃ生きていけない。読んでいるさなかは、向田邦子さんの再来かもと思ったりもした。でもあまり暖かくない。突き放したクールさがある。
お薦め度★★★1/2戻る