2007年9月のミステリ 戻る

二島縁起
1995年 多島斗志之(たじまとしゆき)著 草原推理文庫 299頁
あらすじ
瀬戸内海の2つの島、潮見島と風見島は代々犬猿の仲であり、島同士の婚姻は一組もない。10年前には、モンタギュー家とキャピュレット家の様な両島から、ロミオとジュリエットの男女が駆け落ちしたらしい。海上タクシー船長・寺田は7年前離婚して都会の生活を捨て、ふらっとやって来たこの地で船長になって5年。人に使われる事なく、自分が自分の主人となっている。全長12メートル弱の船の名前は「ガル3号」。よそ者の寺田は、潮見島と風見島とも距離を置いて付き合っていたが、謎の客達を運んだ事から心ならずも事件に巻き込まれる。
感想
2つの島には「アウラ衆」という人達がいて、徳川時代に西の有力大名(毛利、島津、黒田、細川)が東へ攻め入るという「いざ、鎌倉」の時に、瀬戸内海の海上で反乱大名にとうせんぼする役目を担っていた。その方法は秘密。今も両島の有力な家が代々そうよばれているが、古老もほとんどいわれを知らない。徳川時代初期は、<オタメシ>という試練に合格した者が選ばれていた。という古話が、最後まで「なんで何度もでてくるん? どこに繋がる?」のは謎やってんけど、納得。作者の真犯人のカモフラージュがうまかった。そういや、この人の外見についての記述はほとんどない(はっきり言って一言しかない。確かによく読めば大きい人と言っている。そこに気が付かないウチがバカだった)。勝手に、頭でっかちでひ弱なタイプかと思ってたよ。すっかり騙された。
 
「竜王」の船長で寡婦の一江に 「ちいと遊ばんかね」 と誘われ、内心アタフタする寺田が面白い。(勝気な一江が誘ったのは船のレースやってんけどね)。 お国訛りなのも好感度大。いいよ。
お薦め度★★★★戻る

あかね雲の夏
2006年 福田栄一著 光文社 257頁
あらすじ
東京の大学を卒業し旅行代理店に勤めていた安宅俊太24歳は失業した。会社が東欧で起きた空港爆破テロのあおりを受けて倒産したのだ。学生時代の女友達の部屋に転がりこんでプーしていた俊太は、父親からの電話で故郷に呼び戻される。本家の現当主の母である千代子大叔母が亡くなったので、葬儀に帰ってこいという連絡だった。ところが、実家に帰れば自分の部屋はなくなっていた。故郷を離れず役所に就職した弟が、結婚するので2階は将来の弟夫婦のものになっていた・・・。もうすでに弟は愛ちゃんと実家で同居している・・・。居場所がない・・・。大叔母の葬儀の日、父は俊太を本家の当主・輝政に紹介する。本家の当主も俊太の父も、同属経営の「安宅住建」に就職するよう運動しているのだ。即答できない俊太に輝政は、ひとつ仕事をまかせる。赤根村というど田舎に、母が住んでいた屋敷がある。どう管理するか決まるまで、2ヶ月ほど住んでもらえないかという話だった。
俊太は、鉄道の通る町からバスで四十分という赤根村に降り立つ。それからは酒を飲んだくれたり、昼寝をしたり、朝湯をしたりの毎日だった。
感想
せからしい「A HAPPY LUCKY MAN」を書いた後のスローライフのお話なんかな。
「田舎の人が、ええひとばっかりなんかいっ」と一瞬思うもんの、だいたいこの話には悪い人はひとりもでてこない。
「表面をひっぺがえして、その裏に隠された姿をあばく」という「生々しい人間を描いた」小説ではない事に気づく。
大切な人をなくした柴犬の九郎や、もの言わぬ智穂の硬くなった心をとかすのに言葉はいらない。安易な慰めや、気やすめや、励ましの言葉などじゃま、無用、百害あって一利なし。
ただ、辛抱して、黙って、そしていつまでも側にいる、だけでいいんだな。
それってすっごく単純だけど難しい事なのがわかる。
一方、俊太は寺の坊主・恵慧(けいすい)と意気投合し、無駄話をしながら酒を飲み笑い転げる。そして人とのつながり生きる喜びを思い出す。
言葉と言うのは話す事で意味を持つ時もあるし、発しない事で人の心を動かす場合もある。
そういうお話だと思う。
お薦め度★★★1/2戻る